第13話 クラン《天空の翼》との合同訓練②
クラン《天空の翼》との研修から一夜が明けた。
昨日は本当に勉強になることばかりだった。
鉄心さんとの訓練で戦闘能力は飛躍的に上がってきているけれど、ダンジョンの歩き方、気をつけなきゃいけないこと、パーティ連携の仕方、数えればキリがないほどだと改めて実感した。
昨晩は布団に入ってからも、何度も何度も、"天空の翼"の戦いが脳裏をよぎった。
神田さんの重厚な盾捌き、美緒さんの軽やかなステップ、鷹宮さんの静かで無駄のない剣腕。
そして、3人を含めたクランメンバーの連携・役割分担。
自分にもいつか仲間ができたときには、あんな動きをしてみたいと心から思った。
(いつかの日のために、今日も頑張らないと!)
急いで身支度を整え、支部の宿舎からロビーへと向かう。
新人探索者からベテランまで、主にソロの探索者が利用している宿舎では、朝日が昇ってすぐにみんな起き始めて、パラパラと食堂へ集まっていく。
もちろん僕も食堂を利用している。
さて、今日のごはんは何かな、朝だし和食とか食べたいけど…
トレーをもって配食を受ける列に並ぶ。
列の少し先には、支部の制服を着た職員さんがいて、トレーを持っている探索者と会話をし、色のついた紙を渡している。
今、会話が終わった探索者は緑色の紙を渡され、心底残念そうにしていた。
そうして観察していると、すぐに自分の番が来た。
「お、おはようございます!」
「はい、おはよう。じゃあ早速、スキル《管理者》」
職員さんの目の少し前に、半透明のモニターのようなものが現れ、細かい数値が並んでいるのが見える。
「ふむふむ、16歳の育ち盛りだね、病気の類は無し、全身の軽い筋肉疲労…ビタミンの若干不足が見られるね…」
職員さんは目の前のモニターを見ながらぶつぶつとひとりごとを話している。
この人は栄養士さんと呼ばれている。
実際に栄養士の資格も持っているのだけれど、彼女のスキルは人の身体情報をデータとしてモニターのような半透明の板に投影し、そこから必要な栄養素を割り出すという変わったスキルだ。
探索者の多くは、毎朝ここで栄養士さんの検査を受け、最適な栄養バランスが取れる食事を提案してもらう。
彼女はこの道50年のベテランであり、だれも提案に逆らうことはできないから、提案というより命令に近いのだけれど。
「よし…、君は何より身体機能の成長が必要だね。この紙をもって、食事を受け取ってきなさい」
「ありがとうございます!」
もらったのは赤い紙だ。
紙は大きく4種類あり、赤は肉類多め、青は魚類多め、緑は野菜類、黄色は糖尿病とか肥満気味とかの理由で特殊な料理が推奨される場合だ。
紙には栄養士さんからのメモが書いてあり、これを食堂の人に見せると最適な料理を提供してもらえる。
「はい、紙を預かるね。…メインは肉でビタミンも必要、飲み物は牛乳で、ご飯は山盛りだね。…よし!はいステーキ定食お待ちどう!」
「あ、ありがとうございます…」
重い、朝からすごく重いご飯だ…しかもごはんが漫画盛りみたいに器から飛び出して山になっている。
食堂の料理は、料理系のスキルを持っている人たちが調理しているので、本当においしいのだけれど、気分とは違う料理を食べなきゃいけないのはなかなか大変だ。
「これも強くなるため…!!いただきます!!」
今日最初のボス、山盛りステーキ定食との戦いが始まった。
◇
朝の支部は、少しだけざわついていた。
受付前には探索者たちが何人か固まっていて、
ちらり、ちらりと、こっちを見てはひそひそ声を交わしている。
「……あれが芽吹だろ?」
「鉄心につきっきりで鍛えられてるって噂の」
「天空の翼の研修にも出てるらしいぜ。あそこのクランにいる知り合いに聞いたんだけどよ、新人冒険者じゃ信じられない威力の技を使うって驚いてたぞ」
耳に入ってくる声は、前みたいな「落ちこぼれ」だの「かわいそう」だのではなかった。
興味と、少しの期待と、ちょっとした妬みが混ざったような、不思議な雰囲気をしている。
(……急にDランク探索者になったから、そりゃみんな気になるよね…)
なんとなく居たたまれない気持ちになる。
僕はロビーを抜け、そのまま支部の訓練場へと向かった。
今日はクラン”天空の翼”での研修の二日目だ。
昨日はダンジョン探索で、クランの強さ、雰囲気、目標とする動きを学ぶ1日だった。
そして今日からは戦闘能力向上の訓練が始まる。
訓練場には天空の翼のメンバーがパラパラと集まりだしていた。
みんな準備運動をしたり、仲間と談笑している。
昨日、一緒にダンジョンへ潜った顔見知りの人が気軽に挨拶をしてくれたり、手を振ってくれた。
挨拶を返しつつ、訓練場の端の方で準備運動を始める。
昨日見ていないメンバーも何人かいるなぁ。
まぁメンバーは100人を超えるらしいし、当たり前か。
今日はほかのAランクメンバーもいるのだろうか。
天空の翼に所属しているAランクは5人と聞いている。
Aランク探索者は全探索者の上位0.1%以内のエリートって聞くし、そんな英雄と会えるなんて信じられないな…昨日3人も会ってるけど。
「お、慧くん!おはよ~~」
「うわっ!って、美奈さん!?お、おはようございます!」
背中にどーんと乗っかるようにぶつかってきたのは、Aランク探索者の”春梨 美奈”さんだ。
黒いショートヘアに三白眼の切れ長の目。クール系の美人ながら性格は人懐っこい猫のような人だ。
「今日の訓練内容は聞いてる?とっても楽しい訓練だよ~!」
「え、戦闘訓練としか聞いてないですけど、なにか特別な訓練でもするんですか?」
美奈さん(苗字で呼んだら名前で呼べと怒られたので名前呼びをしている)は、ニマニマと何かいたずらを考えている人のように笑ったまま、答えを教えてくれなかった。
「それじゃあ、訓練を開始する。みんな集まってくれ。」
訓練場の真ん中から、鷹宮さんのよくとおる声が聞こえる。
訓練場に集まっていた30人ほどが、鷹宮さんの前に集まった。
「よし、昨日までの一週間で、我がクランに研修に来ていた新人探索者4名とのダンジョン研修した。訓練に参加してくれた新人のみんな、そして協力してくれたクランのみんな、本当に感謝するよ。
さて、今日からは全員での戦闘訓練を行う。クランメンバー同士はいつものように模擬戦や組手を行ってくれ。新人探索者の5名は、この場に残ってほしい。それじゃ、訓練開始だ!」
「おおおおおお!!!!」
クランメンバーの皆さんが大きな声で返事をした後、各々散っていった。
残されたのは天空の翼の5名と、僕と同じく新人と思われる探索者4名だった。
「さて、新人探索者のみんな。改めてクラン《天空の翼》の訓練へようこそ。今日からはみんなの戦闘能力向上に向けた模擬戦を中心とした訓練を行う予定だよ。これから一週間は僕たちクラン5名と、君たち5名の計10名で行うから、この場で自己紹介しておこうか。」
クラン《天空の翼》
メンバーが100名以上いる大規模クランであり、日本5大クランの1つ。
全クランの中でAランク探索者を一番多く擁しており、15名のAランク探索者がいる。
「もっとも安定感のあるクラン」「連携・統率が一番取れているクラン」「大手クランに入りたいのなら、まずはこのクランを検討する」など、安定感といった意味で一番有名である。
探索者は最低ランクのFからAまでを基本としているため、その一番上のランクを多く擁していることで、一度に複数のダンジョンを攻略することも可能と言われている。
ただ、ひとつだけある世間からのマイナス評価を除けば、非の打ちどころのないクランである。
「じゃあ僕から自己紹介をしよう、クランのリーダーをしている鷹宮翔です。ここにいるのはみんなAランクだから探索歴とかは省略するね。能力も公表されてるから教えるよ、僕の能力は”鷹の王”。爪のような複数の斬撃を飛ばせたり、背中から魔力の羽をはやして飛んだり、遠くを俯瞰・観測する目を持っているよ。万能型の剣士かつ司令塔の役割を担っている。
はい、うちのクランメンバーはこんな感じで、能力・できること・役割くらいは紹介してね。」
「神田武、能力は”聖騎士”。防御、障壁、自己回復などができる。クランの盾を担っている。以上」
神田さんは今日も大きな体と大きな盾をもって堂々と立っている。
いつも見ても素晴らしい筋肉と、変わらずの無口だ。
「は~い、私は春梨美奈で~す!能力は”隠密者”で、隠密活動、偵察、遊撃、ダンジョンのトラップ解除をやってるよ~。役割は能力の通りかな~。」
美奈さんは、黒と深青を基調とした軽装のレザースーツのような、体の線にぴたりとつくタイプの服装をしている。短めのマントからのぞく太もものホルダーには細身の投げ刃が並んでいる。…美人だしすごく似合っているけど、なかなか目に毒だなと思う。
ふと美奈さんと目があうと、彼女はにっこり笑って、体の脇で小さく手を振っていた。…かわいい。
「僕は霧坂玲司、能力は”氷魔術師”。氷魔法はだいたい使えるし、単体攻撃、広範囲攻撃も使える。役割は後方からの火力支援です。…噛まずに言えた…、これでいいよね、大丈夫だよねへましてないよね武…」
「…はぁ、落ち着いて堂々としていろ」
「…堂々とって、偉そうとか思われたりしないかな?僕姿勢悪いし、活舌も悪いし、新人冒険者からしたら先輩なんだろうけど、心は僕も新人から変わってにゃいし…あぁ、噛んでしまった…」
初めて見たけれど、この人が《天空の翼》で一番の火力を誇る霧坂さんか…、なんか心配性そうで独り言が多いところに親近感を感じる。
服装は表面は黒く、内側が藍色の長いローブ、中は白いシャツに黒いパンツをはいている。
「菰田月子と申します。能力は”月の巫女”です。回復、状態異常の解除、少しだけ不幸を退けるなどのができます。役割は主にはヒーラーですね。この訓練で怪我をしたら、すぐに直しますので安心してくださいね。」
紫かかった黒のロングヘアに、長く黒い法衣をまとっている。法衣の上から月や星をモチーフにした金属のレリーフ、飾りなどをつけていた。
「はい、これでうちのメンバーは以上だね。次は君たちの自己紹介をお願いするね。じゃあ、端の君から順にお願いするよ。あ、君たちは全員Dランクってことは知っているから、名前と得意なことを教えてもらえるかな。能力は隠してもいいからね。」
「はい!俺は赤石要人です!能力は”赤い番人”、タンクの役割が得意です!」
髪の毛をワックスでつんつんに逆立たせ、赤いつなぎをきた青年。僕より少し上だろうか。明るい好青年の印象だ。
「観世オモナ、能力は一応内密で。支援系統の能力が使えます。よろしくお願いします」
背の低い男の子だ。短く切りそろえた金髪に、黒いメッシュのような髪をしている。手には長い杖のような錫杖を持っている。
「水瀬いお、クラン《蒼天の矛》に所属しているから、能力は秘密で。水系統魔法が使える、よろしく。」
月明かりを落とした水面のように、深い紺に淡い水色が溶け合うグラデーションの髪だ。歩くたび髪先が透明にほどけ、まるで水滴が光に変わって散るように見える。
彼女の衣は、淡い水色の布に銀糸を織り込んだ水紋のローブで、腰には透明な晶石で作られた護符が揺れ、袖口にはシャボン玉のような螺鈿色の模様があった。
見た目からも現実離れしている美しさだったが、彼女が所属しているクランが大手クランの一つ《蒼天の矛》というのは驚きだった。あそこは少数精鋭を体現しているギルドで、新人は入れるような場所ではなかったと思う。
っと、それより、僕の番だった。
「芽吹慧です!能力は秘密で、風系の魔法を少しと体術による近接戦闘ができます、よ、よろしくお願いします!」
人に注目されながら話すのが慣れず、顔が熱くなっているのを感じる。
美奈さんはにやにやしているし、神田さんはもっと胸を張れみたいなジャスチャーを送ってくる。
魔術師の霧坂さんは…同類を見つけたようなキラキラした目で見ていて、菰田さんはニッコリしたままだ。
「はい、自己紹介ありがとう。それじゃ、さっそくだけどクランメンバーと君たちでペアを作って練習を開始するね。ペアは毎日変えていくから、ぜひいろいろなことを吸収していってほしい。それじゃあ訓練を始めようか。」
くじでペア決めを始める。
ここでの経験は、今後に必ず役に立つだろう。
なんせ、日本トップクラスのギルド員による指導だ。
この貴重な機会を逃さないよう、いまいちど気合を入れなおして、くじを引いた。
―—綺凛(作者)から皆様へ――
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