第11話 鉄心のスパルタ魔法トレーニング②
昨日と同じように、中級探索者以上が利用できる訓練場に行くと、鉄心さんがすでに待っていた。
予定通りの時間に来たつもりだけど、もしかして鉄心さんの方がやる気出してるのでは…?
―鬼島 鉄心
約10年前に探索者を引退した古参プレイヤーだ。
今でこそ、探索者組合の職員をやっているが、全盛期は有名なB級探索者だった。
ダンジョン探索の時に負った怪我が影響で、探索者として引退したが、探索者時代の経験をいかして新人教育を担っている。
"鬼教官"、"鉄の心"など、名前にちなんだあだ名を裏でこっそり付けられている。
まぁ、全盛期も"鬼鉄人"って名前のままの2つ名が付いていたらしい。
そんなことを考えながら、鉄心さんの元へ向かう。
「来たな。昨日の疲れは残ってねぇか?」
鉄心さんは吸いかけのタバコを地面に押し潰した。
地面には同じような吸殻が何本かあるので、待たせてしまったようだ。
「大丈夫です!それとお待たせしてすいません」
「いいいい、俺が早く来ちまっただけだ。
さて、今日は昨日の続きだ。昨日の勘がどれだけ残ってるか見てやる」
「お願いします!」
昨日と同じく、胸から魔力をゆっくりと巡らせ、手のひらに集める。
昨日でコツを掴むことが出来たのか、滑らかに、そして昨日よりも力強い風魔法を出すことが出来た。
「お、いいじゃねぇか。そこまで出来てるなら、応用に行ってもいいな」
「応用…ですか?」
「あぁ、そのままじゃ使いづらいだろ?特別に、俺がオススメの使い方を教えてやる」
ニカッと快活に笑う鉄心さんは凄く嬉しそうで、逆に恐怖を感じた。
「あの、それって上手くいかなかったらまた爆発とかするんじゃ…」
「…よし、早速やるぞ〜。まずはだなぁ、」
「こわいこわいこわいこわい!」
命を大事に。はるか昔にあったゲームから生まれた有名なセリフがある。
鉄心さんにレトロゲームでもオススメしようかと、現実逃避を始めたくなった。
◇
「ぁぁああああああ!!!《風打掌!!」
試し打ち用の木人形に全力で掌底を打ち込む。
木人形の胴体は高速で回転するヤスリに削られるよう弾け飛んだ。
「うわぁあああ!!」
その衝撃で僕も後方へ吹き飛んだ。
「お!いい感じゃねぇか!」
「…い、いや、吹き飛んでるんですけど僕…」
「見てみろ!並の魔法スキルじゃこの木人形に傷はつかないのに、胴体が折れかけてる。良い出来だな!」
言われてから木人形を見ると、胴体の八割程が削れ、確かに折れかけていた。
「…これ、僕が…」
「おうそうだ。これなら…まぁCランク探索者くらいの火力はあるんじゃねぇの?」
「…Cランク」
探索者として優秀と言われるCランク。
最底辺のFから見たら信じられない成長だ。
「…感動してる暇はねぇぞー、攻撃がCでも防御や身のこなしが着いてこないと直ぐに死ぬからな。チャチャッと起きろ」
そうだ。ダンジョンでは油断、慢心が命取り。
何よりまだ探索者としての経験がない僕は、誰よりも気を付けなきゃいけないだろう。
「よし、てことで防御の訓練でもするか。」
「はい!…って何をすればいいんですか?」
「そりゃもちろん…俺と組手だな」
鉄心さんはここ最近で一番の笑顔を見せる。
羽織っていた上着を脱ぎ捨て、動きやすい格好になると、お腹の当たりから赤いオーラが全身に広がっていった。
「き、《鬼人》、鉄心さんもスキル使うんですか!?」
ースキル《鬼人》
鉄心さんが鉄心さんたる所以のスキル。
その効果はいたってシンプルで、攻撃力、防御力、スピード、反射神経の超強化。
身体強化の基礎ともいえるスキルだ。
「よく見とけよ芽吹。…スキル《鬼金棒》」
鉄心さんを覆う赤いオーラが、拳に集まっていき、伸ばした人差し指と中指からオーラが棒のように伸びる。
「これはさっきのお前が使ったスキルの更に応用だ。
いいか、スキルは訓練次第で何にでもなる。ただの身体強化系の俺のスキルだって、こんな風に出来るんだからな」
そういいながら鉄心さんは、赤い金棒のようなオーラをブンブン振り回しながら、僕に向かって歩いてくる。
「あの、もしかして…」
「おう、今からこいつでお前を殴る。死にたくなかったらスキル使って防御するんだな」
「…あぁ、死ぬのか僕は…」
「泣きごといってないで、行くぞオラァ!!」
右上から袈裟斬りのように振り下ろされるオーラに対して咄嗟に体を屈めて回避する。
目標を失ったオーラは地面を爆発させたのかと思うほどの威力で叩き、激しい土煙がたった。
…これ、当たったらまじで死ぬ。
「躱すなぁ!!受け止めろ!!」
「いやいやいやいや!!死にますって!!」
「大丈夫だ!峰打ちだからなぁ!!」
あ、これあれだ。
2つ名の"鬼鉄人"って、スキルの特徴じゃなくて、スキル使ってる時の人格を表してるんだな。
オーラが迫ってくる様子が何故かゆっくりに感じる。
走馬灯というやつだろうか、何故か頭は冷静に動いている。
命の危機に反応したのか、原初の種がドクンと強く脈打った。
魔力を胸から手に集めて、拳を中心に、力を握るように、風を回転させる。
「《風打掌》!!!」
再度上から迫る赤いオーラに対して、腕を斜めに構えて右下へ流すように受ける。
風の勢いもあって、簡単にオーラを受け流すことが出来た。
「やるじゃねぇか!もういっちょ!!」
「ひぃいいいい!!」
横なぎに振るわれるオーラに対し、肘にスキルを貯めて迎え撃つように肘鉄を打つ。
ドカンという、爆発音とともに、僕も鉄心さんも衝撃で吹き飛ばされた。
「いったぁ…魔力を流しすぎたな…でも咄嗟に肘でスキルを使うことができたな」
「期待以上だよ芽吹、これならもう少し強くてもいけるな」
鉄心さんの瞳は赤く染まっていき、左の額からは赤いオーラが角のように生えている。
かっこいい…けど、これ中級魔獣よりも圧が強いんだけど…!?
「スキル《赤鬼》。これは一瞬で体力を使い切っちまうからな、切り札ってやつだ。見て盗め、いくぞおらぁ!!」
「やばいやばいやばい!!」
さっきとは比べ物にならないほどの速さで距離を詰めてくる。
「焦るな、全身に魔力を纏わせろ、いける、いける、ってかやらなきゃ死ぬ!!」
胸から全身へ、四肢全体に纏わせるように魔力を集める。
爆発しそうになる魔力を無理やり制御する。
「おっらぁ!!」
さっきよりも鋭く力強いオーラが真上から降ってくる。
全身に力を込めて、腕を頭の上でクロスして、衝撃に備える。
手には衝撃を緩和するように風を纏わせ、足は体を上に吹き飛ばすくらいの勢いで、ジェット噴射みたいに魔力を放出する。
「ぉぉおおおおおお!!!」
鉄心さんのスキルと僕の腕がぶつかった瞬間、まるで上から巨大な鋼鉄を落とされたのかと思うほどの衝撃が襲った。
ギリギリ倒れずに耐えている。が、鉄心さんもどんどん押し込む強さをあげているようだ。
「「おおおおおおおお!!!!」」
制御出来ないほどの魔力が溢れ、拳から爆発するかの勢いで暴風が巻き起こった。
「うぉ!!」
「うわぁあああ!!」
2人とも吹き飛ばされ、再度距離が空いた。
鉄心さんは危なげなく着地し、僕は地面に転がる。
「…っふぅ。流石にこの歳になると、1発殴るだけでも体に堪えるな…。それにしても、よくやったな、芽吹」
「あ、あ、、ありがとうございます…」
地面に転がり砂だらけの僕を鉄心さんが引っ張り起こしてくれた。
「本当に死ぬかと思いました…」
「死の淵でこそ、人は成長するもんだ。生半可な訓練じゃ意味ないからな」
「…鬼…」
「なんか言ったか?」
「何も!!!」
このあとも日が暮れるまで訓練は続き、ボロボロになった体で支部の宿舎に戻る。
Dランクになると、宿舎を一部屋与えられるのだが、本当にランクが上がってよかったと心から思った。
フラフラになりながらも、僕は自分の魔力をある程度は制御できるようになった。
鉄心さんのように全身を覆うオーラみたいな使い方や、剣のように魔力を伸ばすことは出来ないけど、体の一部に纏わせることができるようになった。
(もっと覚えたい、もっと強くなりたい……!)
そんな“欲張りな感情”が、自分の中で芽生えていることに気づき、そのまま深い眠りについて、1日がおわった。
―—綺凛(作者)から皆様へ――
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