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♢51♢ エピローグ

 その日、セスナの家の二階。セスナの父マシューの寝室には、出産を間近に控えたバラが寝ているベッドを囲み、セスナ、ララ、クラウズ、王都マッシュルームの産婆の姿があった。



 「バラ……がんばれよ」

 クラウズはベッドに横たわるバラの手を握り、バラは小さく頷く。


 

 十数時間後。ワイバーン屋であるマシューの店の一階で待機する三人の耳に、「ウアアー……」という、赤子の泣き声が聞こえてきた。




 ♢♢♢


 大陸最北端、ヒャドム地帯。

 その最北の古城に向かって、一頭のドラゴンが、悠々と翼を羽ばたかせて飛んでいる。


 バサリ、バサリと、城門の前に降り立ったドラゴンの背から、魔族の女ゾーラと魔族の男ヘルデスが降り立つ。



 ゾーラはその手におくるみを着た青髪の赤子を抱えており、魔王ハルデスを打ち滅ぼしたあの日、魔女バラからそっと耳打ちされた言葉を思い出す。



 ――産まれてくるセルムを、どうか、あの人と一緒に。お願い――



 バラは己の死を予感していたのか、あの古城の小さな部屋で友情を築いた魔族の女ゾーラに、産まれてくるであろう子どもの未来を託していた。



 おくるみの赤子を抱きながら、ゾーラは「ヘルデス様。これからどうします?」と、隣を歩く長身痩躯の青髪の男の顔を見上げて問いかける。


 元魔王のヘルデスは黙ったまま、城門を開けてアーチをくぐり、そしてゾーラを待ってその門を閉める。


 「とりあえず、魔道具屋でもはじめますか?」



 ゾーラの提案に、ヘルデスはふわりと己の青髪を揺らす風の匂いを感じながら、「では、準備ができ次第。バタフライ王国の王都マッシュルームへ発つぞ」と応じる。


 「御意!」

 ゾーラは赤子を抱き直して言い、二人は古城の扉へと向かって歩いた。




 ♢♢♢


 バタフライ王国、王都マッシュルーム。


 さんさんと降り注ぐ午後の明るい日差しを浴びて、子ども達が楽しそうに、マッシュルームの大通りを駆けていく。


 大通りの広場の書店には『蝶々幻想物語』と書かれた、勇者セスナとその仲間の冒険譚が、子ども達の手垢でべたべたになって、【たたきうり】と落書きされた紙とともに、まばらに平積みされている。




 薬師ララとボディーガードのセスナは今日も、魔物のいなくなったこの大陸で、人々の病を癒すための薬の調合に必要な薬草を求めて、北へ南へ東へ西へと奔走している。



 赤髪の剣士クラウズは王都マッシュルームで『蝶々幻想物語』を出版すると、ふらりとその姿を消した。




 ♢♢♢


 大陸各国。


 水の国アクア帝国では聖女ルマリアが、美しい水の都で、今日も聴衆を前に説教をしている。


 音楽の王国ムジカでは、ハンセム王が、後期高齢者たちとともに、精密EI採点カラオケバトルを繰り広げている。


 砂の王国サンドウィッチでは、絶世の美女である女王リヴァイアサンが、「BBAびーびーえー!」と叫ぶ子ども達に拳を振り上げて、その後を追い掛けている。


 そしてエルフの森では、スズア姫が、白猫のリリアを抱き、その聖なる森を護っている。





 ――『東の剣士と西の魔女が出会うとき、世界に平和が訪れる』――



 ごつごつとした傷だらけの大きな手は、『蝶々幻想物語』のページを捲り、その後書きに、誰にも見せることのないメッセージを書き綴った。



 【――この物語を彼の地の魔女に奉げん――】





 大陸を旅していたセスナとララは、もう魔物の飛ぶことのない空を見上げ、どこからか聞こえてくるおみこしの掛け声に耳を澄ませると、未だ見ぬ地へと、揃って歩き出した。

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