♢48♢ クラウズVSヘルデス
ヘルデスが血の滲む口の端を上げて笑うと、クラウズは自身の後方、大広間の入り口に立ち尽くすセスナ、バラと抱き合うララに向かって声を張る。
「二人とも。俺は今ここで死んでもいい。こいつは俺に戦らせてくれ」
セスナとララに釘をさしたクラウズは両足を広げて腰を落とすと、腰の短剣の柄に右手を伸ばし、鞘から抜いた短剣をクルル……と回転させて順手に掴む。
そしてヘルデスと間合いを詰めたまま、ヒュッと、仁王立ちのヘルデスに近づき、順手の短剣をその首筋めがけて斜め左上に切り上げる。
――ヒュンッ!!
「!!」
後方に身体を引いてそれを避けたヘルデスは、その勢いのまま、漆黒のマントを翻してバッ、とバク転する。
そのヘルデスが長いマントを揺らして硬い靴先で着地すると、すでにその背後に回り込んでいたクラウズが、強烈なミドルキックを繰り出す。
「!!」
――ドガアァァァァァッ!!
背後から蹴られたヘルデスはその衝撃により、抱き合う母子二人のすぐ近くまで吹き飛ばされる。
「……」
吹き飛ばされたヘルデスが片手を地面について身体を支えると、またしても先回りしていたクラウズが、逆手の短剣を、ヘルデスの頭上から大きく振りかぶって、力の限り振り下ろす。
「!!」
ヘルデスは瞬時に体勢を立て直してバックステップをとり、ぎりぎりのところで、その剣筋をかわした。
そして左手を床について身体を支えながら、右手を前方に伸ばして構え、強烈な火炎放射を繰り出す。
――ゴオォォォォォッ!!
「!!」
熱波を巻き起こしながら、灼熱の火炎が、炎が触れるよりも先にその衝撃波で、身体を反転させたクラウズを吹き飛ばす。
――スダアァァァァァンッ!!
玉座の背後に控えるゾーラを通り越して、熱波に吹き飛ばされたクラウズが、古城の壁に勢いよく叩きつけられる。
「うっ……!!」
クラウズはしかし、すぐに身体を伏せてサイドステップをとり、迫りくる業火から逃れて、右腕で顔を覆って衝撃波に備える。
――ゴオォォォォォォォォォッ!!
前方に伸ばした右手から灼熱を繰り出したヘルデスはそのまま立ち上がり、ゆっくりと、壁際で顔をガードするクラウズを追い詰めていく。
「!!」
「おかあさん!!」
バラは胸に抱いていたララから身体を離すと、紅いドレスを揺らして裸足で駆け出した。
そしてじりじりと城の壁面に迫っていくヘルデスと火炎放射を追い越して、壁際に追い詰められたクラウズの前に立ち、両手を広げてクラウズを庇う。
「バラ!!」
迫りくる業火を前に両手を広げて己を庇うバラに、クラウズが叫ぶ。
「おかあさあん!!」
するとヘルデスの背後に立っていたララも駆け出し、バラに走り寄って、その身体に抱きついて顔を埋める。
「ララ!!」
そして大広間の入り口で立ち尽くしていたセスナまでも駆け出し、壁際のクラウズ、それを庇うバラに抱きつくララを更に庇うように、三人の前に立ち塞がって両手を広げる。
「チ……」
ヘルデスは眉根を寄せて小さく舌打ちをし、前方に伸ばした右手に展開した灼熱の業火を、握った掌で揉み消す。
――ジュウッ……。
短剣を順手にした壁際のクラウズ、その前に立ち塞がるバラ、バラに抱きつくララ、ララを庇うセスナ、それを見守るゾーラ。
「……」
五人の視線を受けたヘルデスは、す、と、前方に伸ばした右手を下ろし、その身に纏う漆黒のマントを脱ぎ棄てる。
――バサリッ。
そして両足を広げて腰を落とすと、「来い。剣士クラウズ」と言い放って、両のこぶしを胸のところで構えた。
「……!!」
クラウズはヘルデスの呼びかけに応じ、バラとララ、そしてセスナを追い越して、ヘルデスの正面に立つ。そして同じように胸のところで順手にした短剣を握って構えた。
――その時。
チャッ……チャッ……と、四足動物の爪音が、静かな大広間に響き渡って近づいていく。
そこには強大な魔力を纏った大きな黒い犬が、「ハッ……ハッ……」という荒い息遣いとともに、古城の床に大きな黒い影を伸ばして現れた。
「――ヘルデス。いったいなんだ、そのザマは」
黒い魔犬は冷たく言い放ち、グウゥゥ……と、体勢を低くして毛を逆立て、怒りを露わにする。
「――ガングルー!!」
バラに抱きついていたララが、その魔犬の姿を認めて駆け出そうとするのを、そばにいたセスナがその手を引いて、引き留める。
するとその大きな魔犬は「……ク、ククク……」と、邪悪な声で笑い出した。
「フハ、フハハハハハハハ!!」
大広間の入り口から少し進んだところ、ヘルデスやゾーラを含むセスナとその仲間の六人をぐるりと見回し、広間の中央に直線状に敷かれた赤い絨毯の上に、四肢を踏ん張って立つ。
そして高らかな笑い声を上げて言い放った。
「我が名はハルデス!! ようやく現れたな、東の剣士と西の魔女よ!!」




