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♢43♢ 滅亡の都市(2)

 ――ボッ。


 クラウズがズボンのポケットから取り出したマッチで枯れ枝に火を起こし、適当に拾い集めた燃えやすそうなものを山盛りにして、そこに枝を放る。




 ――パチパチ……。



 三人は消し炭の中、キャンプファイヤーさながらに、その炎のそばで様々なものを拾い上げては、それを調べてみる。



 三人が各々手にしたそのほとんどの物体が、不可思議な素材でできた装置の消し炭だったが、クラウズは突然「おっ」と、嬉しそうな声を上げる。



 「どうしたの?」


 セスナとララが駆け寄ると「ガキには関係ないもんだ」と言って、その瓶のラベルの炭を、ごつごつとした手で払って読み上げる。



 「なになに……【~下町のナポレオン狂 むぎ焼酎 『いいこじゃないか』~】……」

  ラベルを読み上げたクラウズは瓶の蓋を開けてその匂いを嗅ぎ、ほんの少し、舌先にタラリ……と垂らしてみる。



 「おお、いける、いける」

 むぎ焼酎『いいこじゃないか』を手にしたクラウズは、焚き火の炎からほど近い場所にドサリと腰を下ろし、その辺に転がっているグラスの、欠けていないものを探って拾い上げる。



 ――カラカラカラ……。

 瓶の蓋を全て開けたクラウズはそれをグラスにトポトポと注ぎ、ストレートでちびちびとやり始める。



 セスナとララは自分たちもクラウズの隣に腰を下ろし、セスナは「みんなでミラクルカンパン食べよう」と言って腰の革袋から取り出したカンパンの袋を、ララとクラウズにそれぞれ手渡した。




 ♢♢♢



 ――パチパチパチ……。



 消し炭となったいにしえの都、古代都市ダークマターの一か所、暖かい炎を囲んで座る勇者一行の三人。ひとり晩酌を楽しむクラウズと、ミラクルカンパンを口に放るセスナとララは、他愛のない話をしながら、そのオレンジ色に燃え盛って揺れる炎を見つめている。




 ストレートでむぎ焼酎を嗜むクラウズは少し酔いがまわってきたのか、いつもよりも穏やかな眼差しで、ピンクの音符のピンを前髪に挿して炎を見つめているララを振り返る。



 「あのサイン会の日。ララと言う名前とおまえのその姿を見て、すぐに気づくべきだった」

 クラウズはくれないのイケオジとしての自身のサイン会のことを思い出し、「すまん。あの時、ちゃんと見ていなかった」と、ララに向かって詫びる。

 そして「本当に、大きくなった。あの頃のバラとそっくりだぜ」と、褐色の瞳を懐かしそうに細めてララを見つめ、グラスをちびちびと傾けている。




 「……」

 ララはクラウズの言葉を聞きながら、膝を抱えて、オレンジに揺れる炎を見つめている。



 「クラウズは、ララのお母さんをよく知っているの?」

 ララの代わりに尋ねるセスナに、クラウズは「ああ」と応じて、「俺はクロスがガキの頃から剣を教えてきた。そのクロスが19の頃、すでに腹の大きなバラを俺に紹介した時は、まあなんていうか、色んな意味でお似合いの二人だと思ったな」


 クラウズはしみじみと語り、そして、とつけ加える。


 「まさか娘のララがひとり生き延びて、こうしてセスナと魔王城への旅をしているだなんてなあ」

 「それが予言だとしても。つくづく人の縁ってのは不思議だぜ」と語りながら、トポトポとグラスに焼酎を足して、ひと息にあおる。




 「すべてはクラウズが、ぼくに短剣を託したことから始まったんだ」

 足を投げ出して座るセスナは少し誇らしそうに顔を上げていうと、「そういや、あの犬……ガングルーはどうなったんだ」とクラウズがララに問う。



 ララはあまり思い出したくないのか、しばし黙ってからやがて口を開き、「私のお父さんを殺したのは、自分だと言っていたわ。そして私をも殺そうとした」

 ララは抱えた膝に顔を埋めて、森の中の小屋が焼けた日のことを思い出す。



 「あの魔犬、くさいとは思っていたが……俺の注意が足りなかった。ララ。本当に、すまない」

 焼酎の瓶とグラスを置いたクラウズが、ララに向かって深く頭を下げる。



 顔を上げたララは「クラウズ、そんな。やめて」と言ってクラウズに寄り、「私は、真実が知りたい。魔王様にお会いして、すべての真相を聞き出したいの」と、未だに魔王ヘルデスへの慕情を抱いた口ぶりで続ける。




 「魔王様ねえ……」

 クラウズは複雑な面持ちで、森の小屋で魔犬に育てられた少女を見つめる。




  

 ♢♢♢

  セスナがマジックテントを三つ広げてそれを張り、三人はそれぞれテントの中で体を横たえる。



 「もうすぐ、魔王城かあ……」


 細い蝋燭の炎だけが揺れるテントの天井を見つめながら、セスナは「ぼくたち、本当に魔王に勝てるのかなあ……」と呟く。




 ――ヒュウゥゥゥゥゥ……。


 あのカラスはとうに寝たのだろうか。



 セスナ旅立ちから、二か月と一日の二十二時。

 


 ただ吹きつける乾いた風の音を聞きながら、最終決戦を間近に控えたセスナは天井を見つめていたが、やがてとろとろと深い眠りに落ちていった。

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