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♢43♢ 滅亡の都市(1)

 セスナ旅立ちから、二か月と一日の十六時。



 「アアー……アアー……」と、いつのまにか暗い灰色へと変化していた上空を、大きなカラスが獲物を探して旋回している。



 巨大な岩石が点在する広大な荒れ地を北上してきたセスナの一行は、古代都市と呼ばれるその一帯に足を踏み入れ、そして驚愕した。




 「――なんだ、こいつは……!?」


 赤髪の剣士クラウズが、三か月ほど前までは確かにそこに存在していたはずの、古代建築の壮大な都が、見る影もない残骸と化しているのに驚いて立ち尽くす。



 「ここが、いにしえの都、古代都市ダークマター……?」


 初めて見るその消し炭となった街の様子に、セスナとララは目を見開いて周囲を見回している。



 タッ、と駆け出したクラウズは、数メートルほど走るとその場にしゃがみ込み、消し炭の街の残骸を拾い上げてその匂いを嗅ぐ。


 「この街が滅ぼされてから、そう時間は経っていないみたいだ」

 手の中でボロボロと崩れ落ちる黒い塊を見つめ、「同士討ちか……?」と続ける。



 するとしゃがみ込むクラウズの背中を見つめるセスナとララの背後で、ウイィィィン……という聞き慣れない音が聞こえてきた。



 その低音に、瞬時に警戒した三人が背後を振り返る。



 すると黒い円柱形の棚の上部に、猫耳のついた不可思議な物体が、「チャンチャンチャン~♪」という陽気なメロディーとともに、三人に向かって前進してくる。


 何かを運ぶ目的で作られたのだろうか、「お待たせいたしましタ! 料理をお取りくださイ!」と、子どもの声で発声し、くるりと反転して、そのまま停止している。


 その猫耳部分からはプスプスと細い煙が上がっており、やがてそのまま動かなくなった。



 「なんだ、こいつは……」


 立ち上がったクラウズに続き、セスナとララも、その不可思議な猫耳の物体に歩み寄って、三人で覗き込む。



 「これ。音楽の国のムジカのエデン城で見た、あの不思議な装置と似ているわ」というララの言葉にセスナも頷いて「大太鼓おおだいこの鉄人と、カラオケDOMドムという名の装置だったね」とララを見る。


 「俺はこの三か月くらい、サンドウィッチ王国のいくつかの街を調査していたが、その前に訪れたこの都は、こういう不思議な装置がいくつも動いていたんだがな」とクラウズが周囲をぐるりと見て言う。



 美しい装飾が施された石造りの円柱も、消し炭となった今では黒塊と化して、少し後ずさりするララのブーツの底からジャリ……という低い音を立てる。



 「だがその頃から、この街の古代都市の民と呼ばれる種族は、何かを警戒するように、この街の奥にある黒い棺の周りを固めていた」

 クラウズが思い出しながら説明すると、セスナとララは「きっとスズア姫が言っていた、いにしえの揺りかごのことだね」と推測する。



 「ねえ、その棺のところへ行ってみましょうよ」

 ララの提案にセスナとクラウズは頷き、三人はジャリジャリと黒い消し炭を踏み越えながら、崩れ落ちた円柱の奥へ続く道へと進んでいった。




 ♢♢♢


 黒々とした消し炭の山を踏み分けながら進む三人は、やがて艶のある黒い小石が現れた小道を、更に進んでいく。


 

 ――ジャリ。ジャリ。


 クラウズを筆頭に、セスナ、ララと続き、三人はその禍々しいほどのオーラを放つ漆黒の棺に近づいた。




 ――オォォォォォォォ……。

 


 その棺はやはり、セスナとララがエルフの森で、エルフの姫スズアに見せてもらったものと同じ、「いにしえの揺りかご」と呼ばれる、暗黒の棺だった。




 「たしかスズアは、エルフの森にある棺の中の、初代魔王ザギウスの武器が、ダークマターの民に持ち出されたと言っていたけれど……」


 セスナの言葉にララも「それにスズアはこうも言っていたわね。いにしえの揺りかごは、この大陸に三つ、存在する。ひとつは古代都市ダークマターに、もうひとつはバタフライ王国のザリアの森に、そしてもうひとつが、エルフの森にあるものだと」



 顔を見て話しあうセスナとララのやり取りに、クラウズは「なんだおまえら。しっかり情報収集してるじゃないか」と感心して、「これがその、いにしえの揺りかごの、その内のひとつってわけだ」と、腕を組んで棺を見下ろす。




 「この棺の中には、なにが入っているんだろう……」

 セスナがふ、と口にする。


 するとララが「開けてみる?」と単純な方法を提案する。




 「クラウズ、開けてみて」

 ちょっと怖いから、というセスナとララの願い出に応じるクラウズが、傷だらけの大きな手で、漆黒の棺の蓋に手をかける。


 するとバチイィッ! と、静電気のようなものがクラウズの手に走って、青い光がまとわりつくように、その手をぐるぐると包んでいる。




 「おそらくなにかの術によって封印されているんだろう。棺は俺たちには開けられんようだ」

 クラウズの言葉に少しほっとしたような顔のセスナとララは、「よかった。もしかしたら強力な魔物が飛び出してくるかもしれないから」と、宝箱あるあるのエピソードが展開されなかったことに胸を撫で下ろす。




 ――アアー……。アアー……。


 未だ暗い上空を旋回するカラスが、空から三人を見下ろしてぐるぐると飛んで鳴いている。




 「暗くなってきたね」

 日の落ちかける空を仰いだセスナが言い、クラウズは「今夜はこの街の適当なところで野宿だな」ともちかける。

 

 三人は黒い小石の敷かれた道から広い通りへと出ると、消し炭の山の隙間にちょうどよさそうなスペースを見つけ、そこに腰を下ろした。

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