♢38♢ VSサラマンダー
ムジカ王国王都エデンを出発したセスナとララが西へ進むこと、およそ一時間。
見渡す限り続いていた平野は、いつのまにか砂地へと変わり始めた。
砂塵を巻き上げて吹く風が、セスナの青いマントとララの黒いローブの裾を揺らす。
セスナは「あっ、目に砂が入った」と言ってつむった片目を指でこすり、「セスナ、あまりこすらないほうがいいわよ」と言うララは、エデン城の売店で購入したピンクの音符のヘアピンを抑え、前髪が乱れることを気にしている。
そうして進むうちに、二人の視界はどんどん、その美しい砂丘を捉えていく。
「なんだか神秘的ね」辺りをぐるりと見回すララが言い、セスナも「昔、カチュアと遊んだ砂場を思い出すなあ」と応じて、いまだに目をこすっている。
「あれ? なんだろう、あの赤く動いているもの」
片目をつむったままのセスナが、開けているほうの目で何かを捉えたらしい。
「なあに?」
風に吹き上げられる前髪を抑えながらララが応じると「ずっと先のほうに、赤いなにかが、うねうねと動いているよ」とセスナが前方を指差す。
二人は小走りで、その「なにかうねうねと動いているもの」へと近づいていく。
しばらくするとその赤い対象物は動くのをやめ、「あっ、大きな赤いヘビみたい」と言うセスナと「大きな赤いトカゲじゃない?」と応じるララが、対象物のすぐ側まで駆け寄った。
「……」
二人は顔を並べて、その爬虫類らしき大きな赤い生き物を覗き込む。
すると眼を閉じたその生き物の額には、あの青い魔石が、太陽の光を受けてキラッと輝いた。
「魔物だ!!」
セスナが叫び、両足を広げて腰を落とし、背中の大剣の柄に手をかける。
ララは少し後方に下がり、魔法の発動に備えて、両手を前方に構えた。
――カッ。
赤い生き物は突如、その大きな眼を見開き、龍が空へ登るように、はじけるようにしてうねりながら宙へ浮いた。
「サラマンダーだ!!」
大きな火のモンスターを見上げたセスナが鞘から大剣を抜いて、それを顔の前面に構えて叫ぶ。
「セスナ、魔石が白く光る時を狙いましょう!」
魔石にとらわれた魔物の魂を解放するため、セスナとララが決めた戦い方だ。
――ビュンッ。
サラマンダーは空中で長い尾を一振りすると、前方にいるセスナ目がけて、龍のように体をうねらせながら前進した。
「わっ!!」
高速で進むサラマンダーの燃える尾が、中段で構えてガードするセスナの大剣に、鞭を打つように火の粉を飛ばして叩きつけられる。
――ボウッ!!
セスナが構えたクロスの大剣は、サラマンダーの炎の尾の攻撃を受け、剣先に赤い炎をまとってパチパチと火の粉を散らしている。
「ララ!! 魔石が白くなるまで、とてももたないよ!!」
初めての中ボス級の敵との戦闘に、セスナは額に汗を浮かべ、後方のララを振り返って叫ぶ。
「私がやるわ!!」
叫んだララは前方に構えた両手に魔力を集め、セスナの頭上に舞い上がったサラマンダー目がけて、己が得意とする炎の攻撃魔法を発動する。
――ドオン!! ドオン!!
ララの攻撃魔法はサラマンダーに命中するが、火の精霊であるサラマンダーの魔物は、なにごともなかったかのように、空中でぐるぐると、燃える体をくねらせている。
「私の炎の攻撃魔法じゃ相殺されてしまうわ!!」
敵にダメージを与えることができず、戸惑いながらララが叫ぶ。
「ララ、ぼくが行くよ!!」
セスナはララに叫んで応じ、クロスの大剣を下段に構えてから走り出す。
そしてサラマンダーがセスナを目がけて突進してくると、そのまま斜め上へと大剣をなぎ払った。
――ザシュウ!!
クロスの大剣に切り払われたサラマンダーは、ドオッと、龍が地面に叩きつけられるように、砂塵を巻き上げながら赤い砂丘に倒れ込んだ。
――ポワア……。
するとサラマンダーの額の魔石が、白く輝き始める。
「いくわよ!!」
ララが叫び、再び前方に構えた両手に、祈りのエネルギーを集中させる。
そして思い切り魔力を集めると、サラマンダーの白い魔石めがけて、回復魔法ヒールを打ちこんだ。
――ズドオォォォォォォォォォォォン!!
♢♢♢
ぷすぷすと音を立てて消えていくサラマンダーに駆け寄り、セスナとララはそれぞれ肩で息をしている。
――ポワアァァァ……。
サラマンダーの魂は解放され、龍のようなその体は、白く輝きながらくだけて宙に消えていく。
その場に残された青い魔石を拾い上げ、ララがセスナを振り返る。
「セスナ、どうしたの?」
クロスの大剣を構えたまま立ち尽くすセスナは、その剣先を見つめて口を開けている。
「剣が、溶けちゃった」
セスナの言葉に、驚いたララが歩み寄ってそれを覗き込む。
サラマンダーの炎の体をなぎ払ったクロスの大剣は、その火力に耐えることができなかったのだろう。
全長の十分の一ほどの剣先が、どろりと溶けてそのまま固まってしまっている。
「……」
セスナとララは顔を見合わせて、互いにパチパチと瞬いて、その場に立ち尽くした。
♢♢♢
砂丘の真ん中、剣先の溶けた大剣を抱えて座るセスナの隣に、ララが腰を下ろす。
「セスナ、あまり落ち込まないで。もうすぐサンドウィッチ王国の関所よ。関所を抜けたらすぐに、王都レタスへ入って、解決策を考えましょう」
そっ、と、ララの手がセスナの肩に置かれる。
「うん……」
想定外の事態にショックを隠せないセスナは、しかし気を取り直して頷く。
剣先が溶けてしまったため鞘に納められない大剣を抱えたまま、セスナとララは砂の王国サンドウィッチの、王都レタスへと向かい、とぼとぼと歩き出した。




