♢35♢ カラオケバトル(1)
セスナとララの二人は、今夜20時に開催されるというゲーム大会まで、エデン城の城内で自由に過ごすことを、ムジカ王国のハンセム王に許可された。
「おなかすいたね」
「私も」
大広間を出て意見の一致した二人はとりあえず食堂に行き、そのがらんとした部屋の、オレンジ色の長テーブルにつく。
しばらくすると給仕係の男がやってきて、セスナとララに希望のメニューを訊く。
セスナは「ちょっとガッツリ系の、お肉料理がいいです」と希望し、ララは「ヘルシーなデザートつきのレディースセットでお願いします」と注文した。
給仕係の男は「畏まりました」と頭を下げて食堂を出る。
そしてしばらくすると二人がそれぞれ注文した料理をワゴンに乗せてガラガラとやってきた。
「おまたせいたしました」
男はセスナの前に「~スタミナ系 ガッツリ炭火焼き男メシ~」と書かれた水色の紙の添えられた、カルビ焼き肉定食の乗ったトレーを配膳した。
「わあ、おいしそう!」セスナは箸を手に声を上げる。
そして男はララの前に「~ヘルシーレディースセット 和メルヘン懐石風~」と書かれたピンクの紙の添えられた、カラフルな小品が美しく盛りつけされた低カロリー和食膳を配膳した。
「わあ、かわいい!」ララも箸袋から箸を取り出して微笑む。
♢♢♢
「ふう、ごちそうさまでした」
それぞれの料理を食べ終えた二人は、食後のスムージーを飲んでから立ち上がる。
「次はお風呂にしようか」
セスナの提案にララも頷き、城の一階の奥、赤い暖簾と青い暖簾の前で別れると、それぞれ貸切状態の大浴場で、旅の疲れと汚れを丁寧に洗い流した。
「セスナ!」
風呂上がりのララが、大浴場の前に並べられたソファーに腰かけて、セスナを呼ぶ。
「いま何時だろう」
ララの隣に腰かけたセスナが壁の時計を見上げると、カラフルに彩色された鳩時計の鳩が「ポッポッー」と愛らしい声で鳴きながら、17時ちょうどを告げた。
「ゲーム大会まで、あと三時間か……」
ソファに深く腰掛けたセスナが欠伸をして言うと、隣に座るララもつられて欠伸をする。
「セスナ、あんなところに売店があるわ」
前方の柱の陰になっている売店を認めたララが立ち上がって指を指す。
セスナも立ち上がって、二人はそのメルヘンチックな売店へと向かった。
♢♢♢
「いらっしゃい」
おとぎの国の傘のような屋根の売店。
売り子の老婆はにこにこと二人を迎え、「ゆっくり、見ていっておくれ」と、試供品のキャンディーを二人にくれた。
フルーツ味のキャンディーを舐めながら、セスナはふうん、と、あまり興味のない様子でお土産の品を眺めている。
ララはとにかく「かわいい!」を連発し、深紅の瞳を輝かせて喜ぶ。キーホルダーやストラップ、クリアファイルやぬいぐるみなどを次々と手にとっては、目移りして選んでいる。
そして悩むこと二十分、ララは小さなピンクの音符の飾りのついたヘアピンをひとつと、鮮やかな青色のヘアゴムをひとつ、勇者手形で購入した。
「セスナ、これで髪を結ったら」
ララは言いながら、セスナに青いヘアゴムを手渡す。
そして自分の前髪のサイドに、ピンクの音符のついたヘアピンを挿した。
「うん」
セスナは受け取ったヘアゴムで金の髪を結い直し、「どう?」と言ってララを振り返る。
「旅の記念ね」
ララは嬉しそうに頷き、「ララも似合ってるよ」とセスナが言うと、少しはにかんだように笑った。
♢♢♢
その後の時間を城内のゆったりとしたソファでのんびり過ごした二人は、鳩時計が19時半を示す頃、「少し早いけど、大広間に行こうか」と言って、揃って腰を上げた。
――ペチャクチャ。
二人が大広間に入ると、そこにはすでに何人かの先客がいた。そのほとんどは後期高齢者で、その中には昼間、セスナとララがエデン城への道を尋ねたあの老婆の姿もあった。
「いま、病院どこ行ってる?」
「整形と内科」
「同じ、同じ」
「王都の個人病院が軒並み潰れてしまって、隣町まで行かんとならんのはキツいのう」
老人たちの雑談を聞きながら、セスナとララは、設置されたカラフルなパイプ椅子に腰かけて20時を待つ。
そして待機することおよそ二十分。
――パッ。
突如、部屋の照明が落とされ、大広間は暗闇に包まれる。
――シーン……。
静けさの広がる中、ときどき誰かが咳き込む声などが響き、セスナとララは「これからどうなるんだろう」という感じで、興味深そうに正面を向いて座っている。
そしてぽつぽつと、暖かみのある電球色の照明が、大広間に灯される。
参加者の座るパイプ椅子の正面のステージの上、不思議な装置の設置された黄色の絨毯の上に、ハンセム王がマイクを片手に現れた。
「みなさん。今夜はレッツ・ミュージックナイト。一緒に楽しみましょう」
――ワアァ……。
パチパチと、まばらな拍手がそこここで起こる。
「まずはこちら。その名も「~大太鼓の鉄人 家庭用EX~」!!」
ハンセム王がマイクで紹介すると、ステージの上に設置された四角いボードのようなものが発光する。そして「チャラリ~♪」という電子音とともに、大太鼓のイラストが表示された。
「これはボードに表示される○印が光った時に、音楽に合わせて太鼓を叩くというゲームでス」
――ドドン!
ハンセム王が説明しながら、大太鼓を叩いて実演する。
「さあ。誰か挑戦したい人はいますカ?」
――ザワザワ。参加者にざわめきが広がる。
「はい」
すると高齢者の一人が手を上げ、杖をついてステージに上がった。
――ドン! ドドドン! ドン、ドドン!
老父は音楽に合わせて大太鼓を叩き、なんなく一曲を叩き上げる。
「素晴らしいでス! それではこちらのルークさんに、賞品を贈りたいと思いまス」ルークと呼ばれた老父に、ハンセム王がカラフルなオルゴールを手渡して、二人は笑顔で握手を交わす。
「では次! その名も「~カラオケDOM非公式 精密EI採点カラオケ~」でス」
ハンセム王の紹介とともに、もう一つの黒い装置がスポットライトを浴びる。
「これはEI、エレクトロニクス・インテリジェンス、電子知能と呼ばれるものが、あなた達の歌声を聴いて、採点しまス!」
――ザワ……。参加者がどよめく。
「みごと95点以上を叩き出した方には! 豪華賞品を贈りまス!」
ハンセム王はマイクを片手に、DOMカラオケのスイッチを入れる。
――D・O・M――
四角いボードにロゴが点滅しながら表示される。
「さあ! みなさん、ふるってご参加くださイ!」




