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♢34♢ 音楽の都

 セスナ旅立ちから、五日目の正午少し前。


 果てしなく続く平野を行きムジカ王国のもうひとつの関所に到着したセスナとララは、まず見張りの兵士に「今日は「おみこし」は通りませんよね?」と確認し、頷いたその兵士に勇者手形を見せた。


 「マルス王の手描きキノコを確認した。お前たちの通行を許可する」

 甲冑の兵士がうやうやしく声を張り、関所の入り口を塞いでいた槍を退けて、セスナとララに道を譲る。


 通行を許可された二人は石造りのアーチをくぐり、大陸北東の音楽大国、ムジカ王国の王都エデンへと向かい、西へ続く小道を進んだ。




  ♢♢♢


 「あっ、見て。カラフルな屋根が見えてきたよ」


 セスナとララが西への小道を進むこと、およそ二時間。

 小道はやがて大通りへと通じ、セスナは音楽の都エデンに立ち並ぶ、色鮮やかな三角屋根の家々を認め、指差してララを振り返る。



 「かわいい。まるでおとぎの国みたいね」

 ララはそのメルヘンチックな街並みに感心して、興味深そうに辺りを見回している。

 

 大通りを歩く二人の脇には「~ようこそ音楽の都エデンへ ビート通り~」と書かれたのぼりがはたはたと風を受けてはためいている。

 


 「ビート通り……」

 セスナはのぼりを見て呟き、ララは「セスナ、なにか聞こえるわ」と言って、背後を振り返って耳を澄ます。

 

 よく見ると大通りのそこここに、カラフルな拡声器が設置されており、そこから楽しげなBGMが流れている。

 しかし大通りに人気はなく、セスナとララは閑散としたビート通りを、きょろきょろと見回しながら進んでいく。



 「宿屋で少し休みたいけれど、それらしいお店が見当たらないね」

 そろそろ歩き疲れてきたセスナは太ももをさすって「ふう」と息をつく。

 ララも「今夜はお風呂に入れるかしら」と言って、「レストランやカフェもないみたい」と、そのおもちゃのような街並みを見上げる。


 ビート通りの商店街には店らしきものは並んでいるのだが、どこも店の扉は閉ざされており、そのカラフルさとは裏腹に、寂れたシャッター街と化している。



 「どうする? セスナ」

 同じく歩き疲れたララが、セスナに意見を求める。

 セスナは「うーん」と唸り、「そうだ、エデン城に行こう。王様に事情を説明して、少し休ませてもらおうよ」と提案した。



 するとちょうどそこに、二人の前方から、杖をついた老婆が歩いてくるのが見えた。

 セスナとララは小走りで老婆に駆け寄り、「おばあさん。エデン城はどっちですか」と声をかける。

 声をかけられた老婆は「はい?」と、耳に片手を当てて首をかしげる。

 

 「エデン城は! どっちですか!」

 セスナは老婆の耳元で声を張る。

 すると老婆は「はいはい」と合点して、「もうすぐそこ、ほれ、あのひときわ鮮やかなお城が見えるじゃろう。あれが、我らがエデン城じゃ」と、自分たちから百メートルほど離れた所にそびえるおもちゃのような城を指差した。



 「おばあさん。ありがとう」

 ララが微笑んで頭を下げる。

 回れ右をしたセスナとララが歩き出そうとすると、老婆は「あんたたち、旅の人なのかい?」と、杖を手に、二人ににじり寄って話しかける。

 

 「はい。私たち、北の魔王城を目指して旅をしているんです」

 ララが応じると老婆は「おやまあ、魔王城とは。豪気なことじゃねえ」と感心したように更に近づいてくる。

 「それじゃあね、あんたたちにお願いがあるんだけど……」と、老婆は切り出す。

 「私のところにねえ。おじいさんと、嫁と、孫が三人、いるんだけどねえ。悪いんだけど魔王城のお土産の魔王せんべいを五袋、頼めないかねえ」

 「魔王城に、おせんべいなんて売ってるんですか?」

 セスナは意外な耳より情報に、老婆に切り返す。


 「今の魔王は知らないけどねえ。前魔王のハルデスってのは、なかなかやり手の魔王でね。魔王城を訪れた勇者や冒険者向けに原価をふっかけたオリジナル商品を、城内の売店で色々と展開していたらしいからねえ」


 「へえ……」眉唾物のそのエピソードに、二人はとりあえず頷いておく。

 


 「じゃあ、頼んだよ。帰りにこの街に寄った時に、私の家に、レシートと一緒に届けておくれ。私の家はほれ、すぐそこじゃから」

 そう言って杖をついた老婆は、自分たちから数メートルほど離れた赤い三角屋根のメルヘンな家を指差す。


 「どうしよう、セスナ?」

 困惑気味のララがセスナの顔を覗きこんで尋ねると、セスナは「命があったら、きっとお婆さんの家に魔王せんべいを届けます」と言って老婆に微笑んだ。

 

 そして二人は老婆と別れ、そこから百メートルほど離れてそびえ立つおとぎの城へと向かった。




 ♢♢♢


 ――ヒュウウ……。



 カラフルなおとぎの城の門前、棒立ちの二人に、木枯らしが虚しく吹き過ぎる。


 「このお城、見張りの兵もいないみたいだね」

 「チャイムを鳴らしてみましょうか?」

 ララの提案にセスナも頷き、ララが黄色のチャイムに指を伸ばす。



 ――リンゴーン♪


 愛らしい音が、おとぎの城に鳴り響く。

 そして待つこと十数分。手入れのされていない庭の、城内へと続く小道から、スポーツマンのような体格の男が歩いてきた。



 その白髪の男は肌寒いなか半袖のシャツを着ており、しなやかな筋肉の腕を振ってセスナとララに近づく。


 そして朗らかな笑顔で二人を見つめると、「旅の方、エデン城へようこそ。あなた達は魂のビブラート、感じていますカ?」と言って片手を差し出した。


 「えっ」

 戸惑うララと、「はい、感じてます」と言って差し出された手を握るセスナ。

 「セスナ、この人は……?」おびえるララに、セスナがそっと耳打ちする。

 「大丈夫。この人はたぶん、ムジカの王様、ハンセム王だよ。ぼくが昔、話に聞いた通りの感じの人だもの」


 ひそひそと耳打ちするセスナと手を離した男は、その手をす、と、城内へ続く小道の先へとさし示し、白い歯で笑った。



 「さあ、旅のお方。エデン城へどうぞ」




 ♢♢♢

 

 城内に通された二人は、ハンセム王の後に続き、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていく。



 ハンセム王はゆったりと歩きながら、「このエデンという街は、数十年前のベビーブームで誕生した団塊の世代が高齢化し、今ではすっかり過疎化してしまった、忘れられた音楽の都なのでス」

 

 「寂しいですネ」と、つけ加え、かすかに聞こえるクラシック音楽が、見張りさえいない城内に虚しく響いている。



 「今日はあなたたちが訪れてくれて、本当に嬉しいでス。実は今夜、町興しのためにこの城で、ゲーム大会を開催する予定でしたから」


 「ゲーム大会!?」

 二人はにわかに元気になり、振り返りながら説明をするハンセム王の顔を見上げて、セスナがガッツポーズをとる。


 「はい。ある古代の街から、不思議な装置を取り寄せました。ひとつは「~大太鼓おおだいこの鉄人 家庭用EXセット~」というもの。もうひとつは「~カラオケDOMドム非公式 精密EI採点カラオケセット~」というものです」

 「精密……イーアイ……?」

 聞きなれないその名前にララが首をかしげる。


 「エレクトロニクス・インテリジェンス。つまり電子知能のことですネ。詳しくは後ほど」


 両手を広げて説明しながら、二人は、そのがらんとした大広間に通された。



 二人をメルヘンなソファに座らせたハンセム王は、発達した筋肉美を見せつけながら、軽々とその不思議な装置を設置していく。


 「ゲーム大会は、今夜20時からでス。それまでこの城で、ご自由に過ごしてくださいネ」


 ハンセム王の白い歯が光る。



 セスナとララは目を輝かせ、そのカラフルなおもちゃの城を見回してから立ち上がった。

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