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♢31♢ エルフの姫(1)

 セスナとララはしばらく、不思議な鳥の声を聞きながら、幻想的なエルフの森を歩いた。

 

 先ほどララが大木の根元に目印を置いたため、二人は再び同じ道を通ることなく進むことができた。

  

 「きゃっ! ヘビだわ!」

 ララの足元のすぐそばの木の根元。ニョロニョロとした長いものが自分の視界をかすめ、ララは小さく飛び退いて声を上げる。

 セスナは道に落ちていた細長い枝を広い、木のそばを通る時にそれで幹をチョイチョイと突ついたりしながら歩いている。


 木々の隙間から覗く空は雲一つないような晴天で、太陽はぐんぐんと上り始め、日が高くなっていく。

 セスナとララは時おり足を止めては、森の木々から発せられる、なにか神聖なもののような空気を体中に吸い込み、その瑞々しい匂いを感じる。


 そうしてエルフの森をさまようこと、数十分。

 セスナとララの耳に、ふたたび、女の人が笑うような声が聞こえてきた。


 ――クスクスクス。


 「さっきの声だ。聞こえた?」

 「ええ」

 セスナとララは立ち止まり、顔を見合わせてから、それぞれ周囲を見回す。


 二人は周囲に誰もいないことを確認し、再び歩き出す。するとそれまで歩いてきた道とは違う、黒く艶やかな小石がまばらに敷かれた小道のようなものが現れた。


 「あの道、なんだろう」

 セスナが首を傾げて黒石の道を指差し、ララも立ち止まってパチパチと瞬きをした、その時。


 ――ザワ……。


 二人の頭上の木々が揺れ、長い緑の髪をしたエルフの女が、セスナとララの前にすっ、と降り立った。


 「そこから先は、進んではなりません」

 そのエルフの女は透き通るような声で言い、青緑色に輝く神秘的な瞳を、セスナとララに向ける。


 「エルフだ!」

 セスナが声を上げ、ララも少し、後ろに後ずさる。


 ゆったりとしたシルクの衣を纏ったエルフの女は白銀の弓を手に、す……と歩いて、セスナとララに近づいていく。

 そして「人間ですね?」と二人に尋ね、背中に背負った矢筒に手を伸ばす。そして至近距離から、弓に矢をつがえて、セスナの右肩に狙いを定めた。

 

 「待って!」

 セスナが驚きに身動きできずにいると、ララが声を上げた。


 「私たちは人間の、剣士と魔女よ。私たちはあなたたちエルフを攻撃するつもりはないわ。道に迷ってしまったの。この森を抜けたい」

 ララが必死の様子でエルフの女に説明する。

 すると三人から少し離れた木の根元から、白い子猫が「ミャー」と鳴いて現れ、よたよたと歩いてエルフの女に近寄った。


 「リリア」

 エルフの女は子猫に優しく声を掛け、弓と矢を地面に置いて、その白い子猫を抱き上げる。

 「この猫は、人間がこの森に仕掛けた罠にかかって、怪我を負いました」

 その言葉に、セスナとララが驚いて子猫を見る。

 エルフの女に抱かれる白い子猫の後ろ足には、なにかに引き裂かれたような、まだ新しく深い傷跡があった。


 ララは咄嗟に「ごめんなさい」と謝って、エルフの女に頭を下げる。


 「あなたが人間を警戒するのはわかるわ。でも私たちは、北の魔王城に行くため、この森を抜けなければならないの。できればあなたに、森の出口まで案内してほしい」


 北の魔王城、という言葉を聞き、エルフの女が驚いた表情でララを見つめる。

 するとセスナが「ぼくたちは、東の剣士と西の魔女。北の魔王を討つために旅をしているんだ」と続ける。


 「東の剣士と西の魔女……」

 エルフの女は呟くと、少し考えるようにセスナとララを見つめて瞬き、そして地面に置いた弓と矢を拾い上げる。そして矢筒に矢を収めて子猫のリリアを抱きなおし、セスナとララにゆったりと頭を下げる。


 「私はエルフ族の姫、スズアです。この森のエルフの民の、最後の生き残りです」

  スズアと名乗ったエルフの姫の言葉に、セスナとララは驚いて顔を見合わせた。




 ♢♢♢

 

 スズアは子猫のリリアの背中を撫でながら、ゆっくりと語り始めた。

 

 「私たちエルフの民は、いにしえの時代からこの森で、あるものを護ってきました。それはこの大陸の北方、ダークマターと呼ばれるその古代都市では「いにしえの揺りかご」と呼ばれています」


 「いにしえの揺りかご……」

 初めて聞くその言葉に、セスナとララは興味深そうに、スズアの話に耳を傾ける。

 

 「いにしえの揺りかごは、この大陸に三つ、存在します。ひとつは古代都市ダークマターに、もうひとつはバタフライ王国のザリアの森に、そしてもうひとつが、このエルフの森にあるものです」


 スズアは透明な声でゆっくりと説明すると、そして、とつけ加えた。


 「ですがダークマターの民は、エルフの民との古い盟約を破り、突如私たちの森を襲いました」

 スズアは悲しげに目を伏せ、スズアの腕に抱かれているリリアがスズアを見上げて「ミャアー」と小さく鳴く。


 「私も仲間とともに戦いました。ですが戦闘中に気を失った私が目覚めた時には、エルフの民は一人残らず死に絶えていました」


 「ひどい……」

 ララが小さく呻き、セスナも怒りの表情でスズアの話を聞く。


 「ダークマターの民はこの森の「いにしえの揺りかご」……つまり暗黒の棺から、それまで封じられていたあるものを持ち出しました」

 スズアは言い、「来てください」と、黒石の道を指差して歩き出す。


 そして三人が艶やかな黒石が敷かれた小道を進むと、その道の突き当たりに、低木に守られるようにして置かれている、光沢のある黒い棺が姿を現した。


 スズアはその棺から距離を置いたところで立ち止まり、セスナとララは少し緊張しながら近づいていく。



 ――オォォォォォォォォォ……。



 その漆黒の棺は禍々しいオーラのようなものを放ちながら、異質な存在感で、この幻想的な森の奥に置かれていた。


 「この棺にはなにが入っていたの?」

 

 ララがスズアを振り返って尋ねると、スズアは少し間を置いてから言った。



 「初代魔王、ザギウスの武器です」

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