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♢30♢ 迷いの森

 セスナ旅立ちから、三日目の夜。

 

 ムジカ王国の王都エデンへと通じる関所から東南のエルフの森へと進路を変更したセスナとララは、見渡す限り続く平野を、ぺちゃくちゃと語り合いながら歩いていた。


 ――ヒュー。ヒュー。

 ――チチチチチチ……。


 風音と虫の音だけが聞こえるその平野を東南に進んでいた二人は、まばらに立つ木を見つけるとそこに近寄り、腰を下ろした。

 「けっこう歩いたね。そろそろ休もうか」

 そう言ってセスナは腰の革袋からマジックテントを取り出し、左右にふたつ並べてテントを張った。


 「お腹がすいたわ」

 ララが言い、セスナも頷く。

 「ミラクルカンパン食べる?」

 ララはセスナからカンパンの袋を受け取り、二人は木の根元に背中を預け、早くも食べ飽きたミラクルカンパンを、もそもそと口へ放り込んだ。


 「わあ、星が綺麗だね」

 セスナが言うとララも顔を上げ、二人は揃って初冬の夜空を見上げて、星の瞬きを見つめる。


 そしてどちらともなく欠伸をし始めた二人は、「おやすみ」を言ってそれぞれテントの中へ入ると、瞬く間に眠りに落ちた。




 ♢♢♢


 翌朝。

 ピチュピチュ……という鳥の鳴き声で目覚めたララは、手櫛で髪を整えると、マジックテントの外へ出た。


 ――ヒュウー。


 肌寒い風が吹きつけ、ララの黒いローブの裾が翻る。

 ララは小さく身震いをし、昨日と同じ木の根元に腰を下ろす。そして昨夜セスナから預かった本『ドラゴニアーク』の物語、自分の父と母の冒険譚を読み進めていく。


 そうして二時間ほど読書をしていると、盛大な寝癖を整えきれなかったセスナが、照れくさそうに頬を掻きながら、もう一つのマジックテントから顔を出した。 

 「おはよう、ララ」

 「おはよう。セスナ」

 二人は木の根元で挨拶を交わし、セスナもそこに腰を下ろす。


 「今日はいよいよエルフの森だね。ぼく、エルフって実際に見たことがないんだ」

 セスナの言葉にララも頷いて同意し、「子どもの頃に魔王城を訪れた際に、書庫にあった本の挿絵で見たことがあるわ」と言って、自身の耳に手を当てて、それを横に引っ張るような仕草をする。

 「長くて尖った耳が特徴の、緑の髪の神秘的な種族よね」



 ♢♢♢


 頑強な素材ながら、使用後は軽く畳んで放置しておけば雨に濡れてやがて土に還るというミラクルなエコ素材のマジックテントを片付けたセスナが「それじゃあ出発しよう」と声を掛け、二人は腰を上げる。


 そして二人は魔物の出現に気をつけながら東南へと平野を進み、視界の先に見えてきた緑豊かなエルフの森へと、足を踏み入れた。

 




 ♢♢♢


 ――ピチュピチュピチュピチュ。

 ――クォー、クォックォックォッ。

 ――キューイ、キューイ、キューイ。


 聞きなれない鳥の鳴き声に耳を傾けながら、セスナとララは初めて、ザリアの森以外の森の道を進んでいく。

 


 ――サアァァァァ……。


 森の中は想像よりもずっと明るく、澄んだ朝の光が透明なカーテンのように木々の隙間から差し込み、明るい緑色の葉が、ひんやりとした風に揺れてサワサワとそよいでいる。



 「あっ、見て。あんなところに青い鳥の巣があるよ」

 セスナは頭上の木を見上げ、その巣の中で卵を温めている水色の鳥を指差して言う。

 「見慣れない鳥ね。姿も鳴き声も、ザリアの森の鳥とは全然違うわ」

 同じく頭上の木の枝を見上げたララも言い、二人は森の中の道を、赤い木の実を拾ったりしながら進んでいく。




 そうしてしばらく進むと、セスナは頭上の木を見上げて言った。

 「あっ、見て。あんなところに青い鳥の巣があるよ」

 「見慣れない鳥ね。姿も鳴き声も、ザリアの森の鳥とは全然違うわ」

 同じく頭上の木の枝を見上げたララも言う。




 二人は再び森の中の道を進み、しばらく進むとセスナが頭上の木の枝を指差して声を上げる。

 「あっ、見て。あんなところに青い鳥の巣があるよ」

 

 「……」

 セスナの三度目のそのセリフに、ララはふ、と足を止めた。


 「ねえセスナ。私たち、さっきから同じ道を歩いているんじゃない?」

 「えっ?」


 ララの指摘に、セスナも立ち止まってキョロキョロと辺りを見回す。


 「あっ、あの二つに裂けてねじれるように曲がった大木、さっきも見たよ」

 「この赤い木の実も、さっきから同じような場所に落ちている気がするわ」


 二人は顔を見合わせる。セスナがその神秘的な森を見上げると、木々の隙間から指す透明な光が、白銀のプラチナメイルを輝くように照らす。



 ――クォー、クォックォックォッ。

 ――キューイ、キューイ、キューイ。



 「どうしよう。ぼくたち迷っちゃったんだ」

 胸の前で拳を握ったセスナが言い、ララも不安げに頷く。


 すると立ち往生する二人の耳に、葉音や鳥の声以外の、女の人が笑うような声が聞こえてきた。



 ――クスクスクス。




 「いま、誰かの声がしなかった?」

 セスナがぐるりと周囲を見回しながら言う。


 「ええ。私も聞こえたわ」

 ララも同意して、同じように辺りを見回す。




 ――ピチュピチュピチュピチュ。

 ――キューイ、キューイ、キューイ。




 そのまま二人はしばらく耳をすませていたが、やはり鳥の声だけが聞こえる。


 

 「どうしようか」

 まだキョロキョロとしているセスナが、ララに意見を求める。

 ララは顎に手を当てて考え込み、幻想的な空気を帯びた森の隙間から見える青空を見上げる。

 そしてパチパチと瞬いてから、「ここはエルフの森よね」と、セスナに確認する。

 セスナが「えっ、うん」と応じると、「じゃあどこかにエルフ族がいるんじゃないかしら」と言って、手近な木に歩いていき、その枝を二本、折った。

 そして更に若木の柔らかな枝を折り、先ほどの二本の枝を交差させて、その交差させた枝の接点を、柔らかな若木で括った。


 「念のため、これをこの場所に、目印として置いておきましょう」

 そう言って交差させた枝を、二つに裂けてねじれるように曲がった大木の根元に突き刺し、パンパンと手を叩いてセスナを振り返る。


 「セスナ。この森のエルフを探してみましょうよ」

 

 ララが提案し、セスナも頷く。





 ――クォー、クォックォックォッ。



 不思議な鳥の声を聞きながら、二人は再び、その神秘的な森の道を歩き始めた。

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