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♢24♢ 聖女(2)

 「――遥か昔。この世界には、ひとりの悪魔が存在していました。その悪魔はあるとき二人の悪魔に分かれて男女となり、男女ふたりの子どもを産み落として死にました。そのふたりの子どもは魔族の始まりとなり、更に交わって子どもを増やします。その生まれた子ども達の中で特に力のあった者が、この世界の最初の魔王となりました」


 ザワザワ。聖堂内がざわつく。

 

 「その魔王は大陸上の生き物や動物に、力の出る青い魔石を与えました。その魔石には与えられた者の心と体を支配する力があり、この大陸の生き物や動物たちは、次々に魔物へと姿を変えてしまったのです」


 ルマリアは続ける。 


 「その魔石は多くの魔物の心と体を支配しましたが、魔物が少しだけ、もとの心を取り戻す時がありました。そのとき、魔物の傷ついた魂は癒されるのを待ちます。そして青い魔石は、SOSを発するように、白く輝くのです」


 語り終え、ルマリアは左胸に当てた手を降ろす。


 「――これが、この大陸の創世記です。では質疑応答を始めます。質問がある方は、挙手してください」


 ザワザワ。


 聴衆はざわめき、そこここで手が上がる。


 「はい。ではそちらの、はい、あなたです。どうぞ」


 ルマリアに指された男は立ち上がり、声を張った。

 「――その最初の魔王の名前は?」


 「ザギウス。私たちの記憶に新しい前魔王のハルデスは、このザギウスの子孫だと言われています」


 ルマリアは男の質問に答え、更に続ける。

 「ちなみに、前魔王ハルデスが考案したとされる灰色の魔族服の青いボタンにも、青い魔石と同じように、心と体を支配する効果があると言われています」


 ルマリアは再び、質問を集う。

 「では次。そちらの、あなた」


 「――魔物の魂を癒すとは、具体的にどういうことですか?」


 質問されたルマリアは、見えないボールを包むように両手を脇で構え、そのボールを前方に勢いよく打ち出すような仕草をする。

 「魔物の青い魔石が白く輝いたときに、聖なる回復魔法を、白く光る魔石に打ち込むのです。このように、波ァーっと」


 ルマリアの実演を見ていたセスナは、突如、声を上げた。

 「そうか、魔石だ!」

 「え?」

 ララが驚いてセスナを見る。


 「魔物の青い魔石だよ! あの魔石を攻撃しちゃ、いけなかったんだ」

 「どういうこと?」

 セスナは気持ちが昂っているのか、早口でまくしたてる。


 「魔物の青い魔石が白く光った時。そのとき、白く光る魔石に回復魔法を打てば、魔物の魂は解放される。つまりぼくらの戦い方次第では、魔物は命を落とすことなく、魔物になる前の心を取り戻せるのかもしれない」



 ルマリアは聴衆を一瞥し、指の先でチョイチョイ、と手招きをする。 

 「回復魔法を会得したいという方は、カモン。このあと私のところへ来てください」

 

 セスナとララは顔を見合わせて、同時に頷いた。



 「これにて創世記のお話、および質疑応答を終わります」



 

 ♢♢♢


 人々がぞろぞろと教会塔の出口に向かう中、セスナとララは小走りで祭壇の上のルマリアに駆け寄る。

 ララはルマリアの足元に歩み寄ると頭を下げ、単刀直入に切り出した。


 「ルマリア様。魔女のララです。ルマリア様が仰る回復魔法というのは、どうすれば使えるようになりますか?」


 ルマリアは質問を受けると、白いローブの裾を持って祭壇を降りた。

 そしてララを見ると、先ほどと同じように、「波ァー」という魔法発動の実演を伴って説明してくれた。


 「心の底から、相手の魂の救済を祈るのです。そしてあなたがいつも攻撃魔法を使う要領で魔法を打つ。そうすれば、あたたの祈りのエネルギー派は、聖なる回復魔法へと変わることでしょう。魔物のみならず、戦いに傷ついた仲間も、同じように癒すことができます」


 「魔法を打つ時は、その【波ァー】という構え方でなければいけませんか?」

 「いいえ。ぜんぜん。ご自由にどうぞ」

 ララはほっと安堵する。

 

 後ろで二人のやり取りを見ていたセスナは、「どの国も人の上に立つ人というのは、ちょっと変わった人なのだろうか」と、聖女の真面目な横顔を見て考えていた。





 ♢♢♢


 手漕ぎ船の上。セスナとララは冷たい夜風に体を冷やさぬよう、水夫が貸してくれた毛布にくるまって、宿屋への帰り道を揺られていた。


 「この世界に存在する魔物は、創世記の頃の魔王が、青い魔石を使って生み出した。そして全魔王ハルデスも、青いボタンを用いて、魔族たちを意のままに統べてきたんだ」

 真剣な面持ちで水面を見つめるセスナが言い、ララが風に吹かれる髪を押さえて応える。


 「セスナ。私、回復魔法を使えるようになりたいわ」

 ララが言うとセスナも頷き、二人は船の縁に背を預けて、美しい水の街を見上げた。


 「うん。ララならきっとできるよ。実戦で少しずつ、身につけていけばいいさ。今日はもう遅いから、宿屋へ帰って寝よう」



 ザザ……ザ……。

 夜の船を漕ぐ水夫の広い背中を、セスナとララはじっと見つめる。

 

 この先には、どんな冒険と真実が、ぼくたちを待っているのだろう。


 「やれるだけ、やってみようよ」。セスナがぽん、と、ララの肩に手を置く。

 ララは少し笑うと両手を脇に構え、セスナに「波ァー」と繰り出した。

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