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♢24♢ 聖女(1)

 アクア帝国。水の都シャルルの宿屋から、東へ揺られること十五分。手漕ぎ船から降りたセスナとララは、教会塔へと続く庭園に下船した。


 ――ル~♪ ラ~♪

 形よく剪定された緑の茂る庭園に、教会塔から讃美歌が響き渡る。庭園の植込みを隔てて、いくつもの無料の屋台や見世物小屋が開かれており、その無料屋台目当てに食事を抜いてきた人たちなどの列が、そのまま教会塔の入り口まで続いている。

 

 セスナはララをかばうようにして人混みをかき分けて進み、「どの屋台にする?」とララに尋ねる。

 セスナに問われたララは興味深そうに周囲を見回し、「あれがいいわ」と言って、イカ焼きの屋台を指差した。

 そして海鮮が焼ける香ばしい香りにつられるように、二人は行列の最後尾に並び、自分たちの番が来るのを待った。


 「らっしゃい、らっしゃい」

 その威勢のいい青年はイカ焼きを刺した串を両手に持ち、列をなす人々に順番に手渡していく。

 「イカ焼き、ください」

 「私も」

 「はいよ!」

 セスナとララが前後に並んでそれぞれ手を出す。屋台の青年は威勢のいい声で、セスナの後ろに立っているララに大きいイカ焼きを選んで渡した。そしてセスナには、一番手近なたいして大きくはないイカ焼きを渡した。


 「おいしい!」

 セスナがたいして大きくはないイカ焼きに頭からかじりついて声を上げると、ララもそれを見て同じように頭からかじりつく。

 次に二人は酒を扱う屋台に並び、それぞれオレンジジュースを受け取って、揃って喉を潤した。

 


 「さあ、お腹もふくれたし。聖堂に入ってみようか」

 イカ焼きを食べて汚れた口元を手の甲で拭ってからセスナは言う。ララは「ちょっと待って」と言ってから風で乱れた髪を整え、「いいわ。行きましょ」と言って、人々の流れに飲まれるようにして二人は歩き出した。




 ♢♢♢


 素朴な石造りのその塔は五階建てで、先細りの屋根の先端に、しずく型の銀の装飾が施されている。

 生誕祭の夜の聖女の特別な説教を聞こうと、扉の外にまで溢れた人々の中。

 「あの涙の形みたいなのが、聖ルマリアのシンボルなのかなあ」

 教会のあちこちに見られるその装飾を見て、セスナとララも爪先立ちになって教会の中を覗き、うんと首を伸ばしたセスナが言う。


 そしてやっと人波が聖堂内へ流れ出すと、セスナとララも押されるように歩き出し、設置された木造りのベンチに、なんとか二人で腰掛けることができた。


 ――ザワザワ……。

  

 等間隔に並んだベンチの正面に設置された、五十センチほどの高さのある、老木の演説台。 

 演説台の側面は階段になっており、誰でも簡単に昇降することができるようになっている。

 人々は美しいステンドグラスを背にしたその演説台に聖女が立つのを、今か今かと待ちわびて囁く。


 そして待機すること十数分。演説台からすこし離れたところ、演説台の下に敷かれた水色の絨毯へと続く扉が開き、聖女ルマリアがその姿を現した。


 ――ワアァ……。

 ルマリア様だ、ルマリア様だ、と、人々は興奮してその名を呼び、胸の前で両手を合わせて頭を垂れる。


 聖女ルマリアはよどみない足取りで祭壇へと進み、白いローブの裾を持ち上げて祭壇に上がると、目の前の人々に向かい目を細めて頭を下げた。


 「みなさん。ルマリア教会塔へようこそお越しくださいました」


 ――ワアァ……。


 その聖女は長く柔らかな金の髪を後ろでふんわりと三つ編みにまとめ、若木のようにみずみずしい褐色の瞳をしている。


 「やっぱり。あの女神の像は、あの人だったんだ」

 ベンチに腰かけたセスナが、顔を寄せて隣のララに囁く。


 するとルマリアは手の平を天に向けて持ち上げ、そのままの姿勢で口を開いた。


 「遥か昔。この大陸の創世記を、今夜はみなさんにお話したいと思います」


 ――ワアァ……。


 歓声を上げていた聴衆も、やがてルマリアの言葉を待ち、聖堂内はシンと静まり返った。

 「メモなどを取りたい方はどうぞ、ご自由に。お話の最後には質問も受け付けます」


 ルマリアはにこやかに伝え、天に向けていた片手をす、と、左胸に乗せて、壁際を振り返る。

 「ル~♪ ラ~♪」

 ルマリアの合図に合わせて、教会の隅に控えていた合唱隊が歌いだし、荘厳なBGMでルマリアを演出する。


 清らかな歌声を背負い、左胸に手を当てたルマリアは、静かに語り始めた。

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