表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/65

♢23♢ 紅いドレス

 セスナとララが夜風に吹かれて手漕ぎ船に揺られている、ちょうどその頃。

 大陸最北端の古城の一室では、魔族の女ゾーラが、ごそごそと衣装箪笥を漁っていた。

 

 「あんなボロボロのワンピース、カカシじゃないんだから。シンデレラだって着ないっての」

 ゾーラはぶつぶつと呟きながら、女物の衣装を、次々と広げては放り投げていく。


 上下揃いの、灰色の上着とズボン。これは魔王ヘルデスやゾーラも着用している、魔族用の日常着だ。

 「だめだめ。こんな素っ気ないの」

 丈の長い黒いエプロンドレスに、フリルのついた白いエプロンとヘッドドレス。これは城に仕える魔族の女達が着用している、いわゆるメイド服だ。

 「まあ、悪くはないんだけど……」

 かつてこの城で仮装大会でも催されたのか、猫耳のカチューシャや魔女の三角帽子、ドクロの被り物や不思議なお面なども出てきた。

 

 「う~ん」

 ゾーラはあれでもない、これでもないと、引き出しから引き出しへと物色して、お目当てのものを探していく。


 「これだ!」

 そして箪笥の最下段の引き出しを覗き、中からやっと、その一枚を取り出して広げた。




 ♢♢♢


 玉座の間に真っ直ぐに敷かれた、赤い絨毯のその壁際。両手を後ろに組んで控えているゾーラに、魔王ヘルデスが言い放つ。

 「貴様。一体なにをそわそわしている?」

 ヘルデスは豪奢な椅子に足を組んで座り、古代文字で書かれた古い魔術書に目を通していた。


 「はっ……上空の結界の様子が、気になりましてですね」

 「結界の様子だと?」ゾーラが答え、ヘルデスがただす。

 「はい。見張りの話だと、結界にゆらぎが生じている部分があるとか……先ほどガングルーが魔女バラの魔方陣を解除したので、ヘルデス様に注がれていたバラの魔力が途絶えました。したがってそのタイミングで、ヘルデス様の魔力で維持している結界までもが不安定になり、ゆらぎが生じてしまったのかと思われますです」

 「……」

 ヘルデスは魔術書を人差し指でトントンと叩き、思案する。

 そしてゾーラに「では結界の様子を見てこい」と命じ、再び魔術書を読み始めた。



 ♢♢♢


 ゾーラは小走りで衣装箪笥のある部屋に向かい、その最下段の引き出しから、薔薇色のドレスを引っ張り出した。

 そしてそれを小さく丸めて上着の下に隠すと、城の最上階の一室へと、急いで階段を上った。


 数本の燭台が灯されただけの暗い廊下を足早に進むと、見張りの魔族の兵士が怪訝そうにゾーラを見る。

 ゾーラは構わずにツカツカと大股で歩き、その部屋の前まで来ると上着のポケットから鍵束を取り出し、開錠して戸を開けた。



 粗末なベッドと小さなテーブル、そして椅子があるだけの殺風景なその部屋で、バラはベッドに腰かけていた。

 

 「……!」


 バラはゾーラを認めると驚いて立ち上がり、戸惑ったような、嬉しいような表情で、両手を胸の前で組む。

 そしてバラに近づいたゾーラが、上着の下から深紅のドレスを出して広げて見せると、怪訝そうに眉を寄せ、目の前のゾーラの顔を見つめた。


 「そんなボロ布、服とは言えないでしょ」

 そう言い、「着替えるの、手伝うよ」と言って、赤いドレスを手にしてバラの背後に立つ。

 驚いたバラはゾーラを振り返る。そして瞬きながら正面に向き直ると、両手で顔を覆った。

 「あ~だめだめ。泣くのは着替えてからにして。ドレスが濡れちゃうから」



 薄暗い部屋の中、バラの白い肌が浮かび、ゾーラはそれを見る。

 そしてゾーラはバラが着替えるのを手早く手伝い、バラは深紅のドレスを身に纏った。

  

 バラはこの頃少し肉がつき、以前よりも血色もいい。

 なによりもともと美しかったその黒髪が再び艶めいて、バラが動くたび、うねるような毛束が上品に揺れる。


 「うん、いいね。よく似合ってる」

 ゾーラが深紅のドレスを纏ったバラの隣に立ち、柔らかな黒髪に触れて言う。


 バラは少し微笑んでから、でも、と不安げにゾーラを見つめる。

 「こんなことをしてしまって。あなたのことが心配だわ」

 「うーん。まあ、なんとかなるでしょ」


 ゾーラは軽い調子で言ってから、す、とバラの耳元に顔を近づけ、「私もあんたみたいな美人、嫌いじゃなから」と囁いた。


 「えっ……?」

 驚いたバラがビク、として身を引くと、ゾーラは「あはは」と笑う。


 そして自身の青い直毛をさらりと手で払うと、あー面白い、と言ってバラに背を向けた。


 「こりゃ、いい暇つぶしだわね。赤いリボンの黒猫ちゃん」

 「……!」


 ゾーラがからかうとバラは更に身を硬くして、赤いドレスの胸元、美しいデコルテ部分を押さえる。

 「冗談、冗談。今度は上着を持ってくるから。じゃあね~」



 ゾーラは床に脱ぎ落とされたボロ布のようなワンピースを回収すると、バラに背中を向けたままひらひらと手を振り、部屋を出て扉の鍵を閉める。


 バラはその場に立ちすくみ、ゾーラの足音がツカツカと遠ざかっていくのを、複雑な面持ちで聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ