表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/65

♢22♢ 射手座の部屋

 アクア帝国水上都市シャルルの大通り。石造りの宿屋の、二階の一室。セスナはフロントで【NO.9】と書かれた鍵を受け取った。それを回して、若木のプレートに射手座の模様が彫られた部屋の扉を開ける。


 「わあ……」

 扉を開けたセスナの目の前には、青い星座の壁紙にアンティークな家具や調度品が整えられた、大きな飾り窓の八帖ほどの部屋が開けた。


 「わあい、ふかふかのベッドだ!」

 昨夜はマジックテントにマットレスなしで直寝したため、セスナはベッドの白いシーツに駆け寄って思い切り身を投げ出す。


 「よかった……くさくない、くさくない」

 ふっくらとした羽毛の枕に顔を埋め、セスナはまじないのように繰り返す。

 そうしてしばらくその状態で体を休めたのち、背中に背負った大剣を降ろし、青いマントと腰の革袋も外した。

 


 「そうだ。お風呂に行こう」

 セスナはキャッチコピーのように独りごち、部屋を出て、宿屋の壁に貼られた案内図を見る。現在地を確認してから湯気のマークを見つけてその場所を記憶すると、トコトコと歩き、大浴場を目指した。


 「お風呂、ここだ」

 宿屋一階、突き当たりの大浴場は、左右で男湯と女湯に分かれていた。

 向かって左に、剣のマークの青い暖簾、右に、盾のマークの赤い暖簾が掛かっている。

これは大陸共通の表示様式であり、セスナは脱衣所で上下揃いの青いシャツとズボンを脱ぎ、革のショートブーツも脱いで揃えて、シューズボックスに入れた。

そしてそのまま裸足で進み、ガラガラ……と、大浴場の引き戸を引く。



 ――バシャバシャ。

 ――カポーン。


 大浴場には水音と木桶の音が響いており、何人かの先客が気持ちよさそうに、湯気の立つ洗い場で体を洗っている。

 しかし洗い場にいるのはなぜか老父ばかりで、浴槽の湯につかっているのも老父ばかりだ。

 セスナは不思議に思いつつ、タオルで前を隠して洗い場に向かう。


 旅の疲れをひと息に落とすように、せっせと身体を洗っていると、隣の椅子で同じく身体を洗っていた老父が、セスナに声をかけてきた。


 「お兄さん、いくつ?」

 セスナは少しビク、として、ええと……と口ごもりながら「16です」と答える。

 「ほう。若いのう。肌がピチピチしておるわ」

 セスナはどうリアクションしていいものか、あはは……と曖昧に笑ってごまかす。

 「わしも七十年前は、それはそれは、色男でのう。あんたよりもこう、もっとマッチョで、男らしかったわい。わしのばあさんと初めて出会ったのも、この宿のロビーでな。あの頃は……」

 セスナは体を洗いながら「この話は長くなりそうだ」と見切りをつけ、さりげなく話題を変える。


 「ところでおじいさん。どうしてここには、若い人がいないんですか?」

 「んん?」

 老父は少し首をかしげてから、手を伸ばして石鹸を手に取り、それを泡立てている。

 「今夜20時、ルマリア様の生誕祭があるじゃろう。教会塔にはすでに無料の屋台や見世物屋が並んでおる。若い衆はそれを目当てに、今頃は教会塔に列をなしておるんじゃないか?」

 「へえ。おじいさんは行かないんですか?」

 セスナが質問を重ねる。

 「わしら年寄りに20時からの説教はちと、きつくてな。それに近頃の若いもんは、男同士とはいえ簡単には裸を見せたがらんでのう。こういう大浴場はわしらシニアの貸切風呂状態じゃ」

 ふぉっふぉっ……と、老父が笑い、セスナはふうん、と頷いた。

 

 「聖女様のお説教って、ぼくも聞ける?」

 「もちろんじゃ。ルマリア様は心のお優しい、それはもう女神様のようなお方じゃ。求めるものには分け隔てなく、そのありがた~いお話を聞かせてくださるがゆえ」


 老父の話を聞き終えると、セスナは広い浴槽で疲れた体を芯から温める。そして風呂から上がると、急いで宿屋のロビーに向かった。


  

 ♢♢♢


 先ほどと同じ、ロビーの隅のソファには、先に風呂を出たララが座ってセスナを待っていた。

 「セスナ!」

 ララはセスナを認めると、手を振ってこちらへと呼ぶ。


 「すごくいいお湯だったわ」

 「うん。かけ流しじゃないのが残念だけど」

 「かけ流しって、なに?」

 森の小屋で育ったララの問いかけにセスナは、バタフライ王国にあるかけ流し温泉のことを説明した。

 「ここのお風呂は温泉じゃなくて、ただ川の水を集めたものを洗浄して、それを温めただけのものなんだ。いつかぼくが、ララを本物の温泉に連れて行ってあげるよ」

 セスナは言い、火照った頬にパタパタと手風を送る。


 「ありがとう、セスナ。それで今夜の食事はどうする?」

 「せっかくだから、教会塔で催される無料の屋台に行ってみない?」

 セスナの提案に、ララも頷く。

 「そうね。勇者手形があるとはいえ、王国のために節約するに越したことはないわ。今は19時の少し手前だから、ここから船で教会塔に向かっていけばちょうどいいと思う」

 ララが机の上のチラシの地図を指差し、二人は立ち上がった。

 


 こうして青いマントと大剣を背負ったセスナ、そして黒いローブのララは、宿屋を出て再び手漕ぎ船に乗り、東へ十五分ほど、ルマリア教会塔へと向かって船に揺られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ