♢21♢ 水上都市
ダイヤ形の大陸中央部よりやや北方。広大な水の国アクア帝国、その帝都の教会塔に、赤い夕日が沈んでいく。
セスナとララは水上都市シャルルへと入り、水に浮かぶ街の中、水夫の漕ぐ手漕ぎ船に乗っていた。
「うわあ……本当に、街が水に浮いている」
セスナは目を丸くしてキョロキョロと辺りを見回し、同じく手漕ぎ船で移動する人々が通り過ぎるのを振り返ったりして、落ち着かない。
「この街はどういう仕組みで水に浮遊しているのかしら」
ララは手漕ぎ船の縁にしっかりとつかまり、ふわりと風になびく黒いローブの裾を、手で押さえて水夫に尋ねる。
「あんたたち、旅の人かい? 水上都市シャルルは初めてかね」
水夫はのんびりと船を漕ぎながら、「おっと」と言って、すぐ側を通り過ぎる船を避けて漕いでいる。
「この街の水中部分、建造物の基部には、古代魔法である浮遊の術が施されてるんだ。この国は大陸唯一の帝国だが、争いを望まない永世平和を誓った穏やかな国だ。我らが聖女ルマリア様は聖職者でもある皇帝様でな。まだお若い女性の身でありながら、この広大な宗教国を統べていらっしゃる」
水夫が説明すると、教会塔からは美しい讃美歌が漏れ聞こえてくる。
「古代魔法……」
ララが興味深そうに呟くと、水夫はそれで、とつけ加えた。
「アクア帝国は大国だが、永世平和の旗のもと非武装を掲げるが故に、組織的な軍事力をもたない特殊な国なんだ。だから人間以外の、魔物や魔族なんかの敵の侵入に備えて、大陸中から川を引いて、ルマリア教会塔のある帝都をまるごと水上都市にしちまったのさ」
「さあそろそろ街の中心部だ」と、水夫は大きく船を漕ぐ。
セスナが水夫に勇者手形を見せると、「おっ。あんたたち、バタフライの人だな」と、白い歯を見せて笑う。
様々な商店や食事処、宿屋や遊技場がならぶ大通りで船は止まり、セスナとララはぐらぐらと揺れる足元のバランスを取りながら、宿屋の入り口に続く石畳へと下船した。
♢♢♢
「未成年ふたり、とりあえず一泊二部屋で」
窓を大きく取った、風情ある趣の石造りの宿屋のカウンター。セスナが勇者手形を見せて言うと、フロントマンは「うかがいます」と言ってその紙切れを覗き込む。
「ああ、バタフライ王の手描きキノコですね。ではお二人様一泊二部屋で。承りました」
礼儀正しくフロントマンが頭を下げる。セスナとララはそれぞれ部屋の鍵を受け取り、とりあえず、広いロビーの隅のほうのソファに腰を下ろした。
「美しい国だね。こんな時代なのに、街もにぎやかで、活気があって」
セスナが言うと、ララが「ええ」と頷いて返す。
「街にはいろいろな神様の像があったね。その中に女神のような女の人の像をいくつか見たけど、あれが聖女ルマリアなのかなあ」
繊細な装飾の施された机の上。そこにある数枚のチラシから一枚を手に取り、セスナがそれを読み上げる。
「なになに……今夜20時より。ルマリア教会塔にて聖女ルマリア生誕祭あり……だって」
セスナがチラシを手にララを見やると、ララが「私にも見せて」と言ってそれを受け取る。
しばらくその文面を眺めたララは「行ってみたいわ」と顔を上げてセスナを見る。
「じゃあさ、今からお互い部屋に行ってひと休みして。その後入浴して、このロビーで待ち合わせようか。それからまずは食事をしよう」
「今は……17時半をまわったところね。いいわ、そうしましょう」
セスナが提案し、ララが頷く。
セスナはそのちらしを小さく折って、腰の革袋に仕舞って立ち上がった。




