表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/65

♢20♢ 青い魔石

 バタフライ王国の関所を抜けたセスナとララは、アクア帝国へと入国し、その流れる清流を辿って帝都シャルルを目指して歩いていた。

 清らかな川の流れが太くなるにつれて、ザリアの森の木々が疎らに遠くなっていく。 

 清流は午後の日差しを受けてサラサラと澄み渡り、あと半時間も歩けば、水上都市シャルルへと辿り着くだろう。



 セスナとララは川沿いの白い砂利に腰を下ろし、ひと休みすることにした。


 「川の流れがきれいだね。あっ、なにか光った。魚だ、魚が泳いでるよ」

 セスナは砂利に座って足を投げ出し、キラッと光る川面を指差してララを振り返る。  

 「なんの魚かしら。食べられる?」

 「うーん。ぼく魚釣りってしたことないんだ。ミラクルカンパンばかりも飽きちゃうよね」

 「ええ。マンネリだわ」

 「カンパンはあとどのくらい残ってる?」

 「ちょっと待って……やだ、この袋。賞味期限が切れているじゃない。オアシスにある分も、持って来ればよかったわ」

 およそ勇者の一行とは思えない庶民的な会話で、ふたりはあれこれとやり合う。


 「お日様がぽかぽかで気持ちいいな……ぼく、寝ちゃいそう」

 そう言ってセスナがごろりと砂利に横になると、ララがセスナのポーチを探って本を取り出す。

 「それ。どんな物語なの?」

 ララが手にした本を横目にセスナが尋ねると、ララはその本を大切そうに撫でてからページを捲る。

 「『ドラゴニアーク』。ある剣士と弓士、そして魔女の三人が、北の古城の魔王を討ち滅ぼすまでの物語よ」

 ララの説明に、セスナは「ん?」と目を瞬かせる。

 「なんだか聞いたことがあるような……もしかしてそれって、大剣士クロスとその仲間の物語じゃない?」

 セスナが頭の下に手を組んだまま言うと、ララは「そうなの?」と言って更にパラパラとページを捲る。


 「巻頭ページには、「この物語を彼の地の剣士に奉げん」とあるわ」

 そして奥付を見て「初版発行は……今から八年前ね」と付けくわえた。

 「作者は……くれないのイケオジ」

 「……」

 

 ネーミングセンスはともかく、ララはその厚い本に刻まれた文字を指で追い、活字を目で追い始める。

 セスナはくあ……と欠伸をし、ふうん、と、興味のない様子で川面を見た。

 「きみが本を読みたいのなら、ぼくは少し寝るよ。三十分くらいたったら起こしてくれる?」

 そう言ってセスナが腕枕で横になる。

 ララは「わかったわ」と言って、その汚れた本を読み進めた。




 ♢♢♢


 ――キイァアアアアアアアア!!


 「!?」


 突如、耳をつくその金切り声に、セスナとララの二人は驚いて立ち上がった。

 その二人からおよそ二十メートルほど離れた場所。甲冑を纏った骸骨の騎士、スケルトンナイトの魔物が、剣を片手に現れた。


 「気をつけて、魔物だ!」

 セスナは言い、背中に背負った大剣の柄を握る。

 ララは本を自分の足元に置き、それを守るように足を広げて両手を前方にかざした。


 ――キィィイイイイイイイイ!!

 その骸骨剣士は二人を目がけ、ガシャガシャと甲冑を鳴らして走り出す。

 そして朽ちた剣を大きく振りかぶり、前方にいたセスナ目がけてそれを振り下ろした。


 ――ガキイィィィィィン!!

  

 セスナは鞘から抜いた大剣で骸骨剣士の攻撃を受け止め、思い切り弾き返した。


 骸骨剣士はよろけて後ずさるが、両足を広げて踏ん張る。


 「セスナ、どいて!」


 ララの声に、セスナが身体を反転させてバックステップを踏む。

 ララが前方にかざしたその両手が赤く光ると、火の粉を散らす火炎が、骸骨剣士めがけて豪快に繰り出される。


 ――ギャァァアアアアアア!!

 ララの炎の魔法は骸骨剣士に次々と命中し、炎に包まれて燃え上がる剣士の左胸、青く光る魔石めがけて、セスナは大剣を突き立てた。


――キイァアアアアアアアア……!!


ララが放った赤いほむらが、骸骨剣士を包んで燃やしていく。

それは次第に青い炎へと変わり、剣士はその場に崩れ落ちた。


「やった……!!」

二人が顔を見合わせて肩で息をしていると、川辺の砂利に倒れた剣士の手が動いた。


「ララ! あの人、なにか言ってるよ」

セスナが言って、二人は倒れる剣士に駆け寄る。

すると青い炎に抱かれながら、セスナに向けて右手を伸ばした骸骨剣士が苦しげに呻いた。


「私の家は……どこだ……? 妻と……子ども達が……待って……いるん、だ……」


そう言ってこと切れ、スケルトンナイトが白く光って消えていく。

そこには青い魔石だけが残され、セスナとララは何も言えずに立ち尽くした。  




♢♢♢


燃え残った甲冑と、汚れた白骨。

その骨を拾いながら、セスナは呟いた。

「どうして魔物は、この世界に存在しているんだろう……」 

「……え?」

セスナの手の動きを見つめていたララは、怪訝そうに首をかしげる。


「ぼくが以前、違法格闘場で戦ったゴーレムも、額に青い魔石があったんだ。この世界の魔物たちを、北の魔王が魔石を使って統べているのだとしたら……」

 セスナは砂利の上に砕けた魔石を拾い上げ、それを川面に放り投げた。

 魔石はポチャン、と音を立てて、清らかな流れに運ばれていく。


「僕らが北の魔王を倒せば、この世界を漂う魔物の魂も、解放されるのかもしれない」 

「……」

ララは目を閉じ、ヘルデスの灰色の服の胸元、青い炎の刻印がされた金のボタンを思い出す。



そして「とにかく、まずは情報を集めましょう」と、砂利に置いた本『ドラゴニアーク』を拾って、その砂を丁寧に払いながらララは言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ