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♢18♢ 魔犬の帰還(2)

 ゾーラはガングルーの後に続き、最上階への階段を上がる。

 窓の外の曇天は雷鳴と共にときおり光り、炎の小さくなった蝋燭の火が北風に吹かれてジジ……と揺れている。

  


 長く薄暗い廊下を歩き、最上階の最奥の部屋まで来ると、ゾーラは灰色のズボンのポケットから鍵束を取り出して開錠した。


 「さあどうぞ。ガングルー様」

 ゾーラが仰々しく頭を下げると、ガングルーは爪音を鳴らしながら、小さな机に顔を突っ伏しているバラに近づいた。

 「……?」

 うとうとしていたのか、ややあってバラが顔を上げて扉のほうを見ると、そこに黒い魔犬の姿を認め、驚きに声もなく立ち上がった。

 

 「……!!」

 「久しぶりだなあ、バラ。十五年ぶり、か」

 ガングルーはグルル……と低く唸り、まだその足首に残る傷跡を見て濡れた鼻を舐める。

 「この……!!」

 次の瞬間、バラは椅子を持ち上げて駆け出し、ガングルーめがけてそれを力の限り振り下ろした。

 「おお~っと!」

 その椅子が魔犬を逸れて床に叩きつけられると、椅子の破片がばらばらに砕け跳ぶ。ゾーラはバラの背後にまわり、バラの後ろからその両腕を押さえた。


 「よくも……よくも……!!」

 肩と唇を震わせるバラの紅い目に、涙がたまる。

 ガングルーは散らばった椅子の破片を避けて部屋の中をぐるりと一周すると、バラの粗末なベッドに飛び乗り、薄い羽毛の枕を前足で踏んだ。


 「成長したララは、十五年前のお前にそっくりだぜ。足首までな」

 「……!!」

  涙を流し、腕の中で暴れるバラを、ゾーラががっちりと押さえ込む。


 「さて。そろそろ魔力の枯渇するお前との契約は終了だ。あとはヘルデスに煮るなり焼くなり、好きに料理してもらえ」

 部屋の隅、緑色の魔方陣の上に浮かぶバラの影を振り返って、ガングルーが言う。

 そして魔獣語でなにかを唱えると、魔方陣に縛られていたバラの影がその体に戻り、魔方陣は淡く点滅しながら消えた。


 「殺してやる……!!」

 自分の体に影が戻ったことを確認し、震える声でバラが言う。押さえ込まれた両手を前方に構えようとバラがもがくと、ゾーラが背後から、バラの腹に拳を叩き込んだ。

 

 「うっ……!!」


 ゾーラに抱えられたバラはそのまま意識を手放し、「あとは任せたぜ」と、ガングルーはその小さな部屋を後にした。

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