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♢16♢ 旅の仲間(1)

「ふう~」

 ザリアの森。休息所オアシスの横の井戸から水を汲み、セスナは乾いた喉を潤す。

 正午近くに王都マッシュルームを出てからおよそ半日。甘露のごとく感じられる井戸水をごくごくと飲み干し、セスナはオアシスのテントから外の森に出た。

 

 さきほどオアシスの簡易ベッドに毒を受けたララを寝かせたセスナは、革のアイテム袋から束になって紐で括られたマジックテントを取り出す。

 それはテントひとつ分が三ミリという驚異的な薄さまで畳まれており、セスナはその束から一回分のマジックテントを広げ、それをオアシスの隣に張った。

 

 「よいしょっと、ふう。らくちんだ」

 セスナはマジックテントにオアシスの中から毛布を持ち込み、横になってそれを顔まで引き上げた。

 「こういう硬い寝心地がもたらすアウトドア感て、旅の醍醐味だなあ」

 毛布からはおそらく歴代の旅人やツワモノ達が残したであろう、なんともいえぬ香りが漂い、なにかの我慢ゲームのようだ。

 

「でも……まさかあの子に会えるなんて」

 セスナはオアシスのテントで寝ているララの体調が気になるものの、自身も初めての旅だ。大陸最強の軍事力を誇るこの国の、更に王都マッシュルームが誇る王立アカデミーの騎士たちが、連続百メートル走のあとにアカデミーのグラウンド三周したくらいの疲労を感じていた。


 「あの子……ぼくのこと……覚えているかなあ……」

 だんだん重くなる瞼と戦いながら、「あと十五分くらい休んだらあの子の様子を見に行こう」と思っているうちの二分めくらいで、セスナは眠りに落ちた。



 ♢♢♢


 「ねえ……ねえ!」

 泥のように深い眠りの中、突如、肩を揺さぶられる。

 目を開けたセスナは一瞬、ここがどこか分からなかった。


 「ねえ、もうお昼よ。起きて!」

 「は……はい……? あっ……はいっ」

 自分を揺り起こすその少女の顔を見て、セスナは飛び起きた。

 

 「助けてくれてありがとう。私はララ。いちおう、お礼を言っておこうと思って」

 美しい黒髪の少女はララと名乗り、長いまつ毛をパチパチさせて言う。

 顔色は良く、紅い瞳と唇が、そこだけ浮き上がるように鮮やかだ。

 「あっ……はい……え……ええと……」

 セスナは高速で昨日の出来事を思い返し、同時に自分の髪の毛はいま、ボサボサに爆発していないだろうか? と頭に手を当てて確認して少女に尋ねる。

 「あの、鏡ないかな?」

 「え?」

 「ぼくの髪、大丈夫?」

 「ええと……ごめんなさい。意味がよく、分からないわ」

 ララは困惑したように眉根を下げる。

 その顔を見て察したセスナは「あっ、その、もう大丈夫。鏡はあったかも、ぼくのポーチの中に」と慌てて両手を振ってごまかす。

 「……そう? 私、なにも持っていないから。ごめんなさい」

 ララが視線を落として言うと、セスナは話題を変える。


 「あの……ぼくはセスナ。きみとまた会えて、嬉しいよ」

 セスナは実際に乱れている髪を整えながら、はにかんで言う。

 「……?」

 ララはパチパチと瞬きをし、セスナの顔を見つめる。

 

 「……」

 しばらく沈黙が流れ、ようやくララは「ああ…」と言った。

 「たしか商人のおじさんと一緒に、薬草を届けてくれた子よね? ごめんなさい私、毒を受けて記憶が遠くなっているみたい」

 ララが不器用に微笑む。気を遣ってくれるのが逆に切なく、セスナは少し気落ちする。

 「でも、きみが元気そうになって安心したよ。えっと……ララ、さん」

 「あなたが助けてくれなければどうなっていたか……本当に、感謝するわ」

 ララが手を差し出して握手を求める。

 セスナは「セスナ、ララでいいわ」という感じの展開を期待していたため、またも肩を落とし、微妙な笑顔でララと握手を交わした。

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