♢15♢ オアシス
「さあ着いたよ。ここが休息所、オアシスだ」
セスナは黒髪の少女を支えながらザリアの森を進み、オアシスと呼ばれるその簡易休息所へと辿り着いた。
簡単なテントが張られただけのその下のスペースには、簡易ベッドと毛布、小さな棚、机、椅子が設置されており、様々なアイテム類が詰められた大きな皮袋がいくつも積まれている。
そして机の上には旅人の手紙や、伝言が書かれた紙、そしてただの落書きや日記帳などが乱雑に積まれている。
セスナはそれらを見回しながら、簡易ベッドへララを支えて歩いていく。
「ええと……きみはまず、横になったほうがいいな。ぼくはマルス王が補填してくれてたアイテムがあるかどうか、確認するから」
マルス王、というセスナの言葉に、少女は驚いてセスナを見る。
「……あなた、マルス王と知り合いなの?」
「あ、きみ、喋れるんだね」
まだ苦しそうに肩で息をしながらも、初めて少女が会話らしい言葉を発してくれたことに、セスナは安心して微笑む。
「うん。王様はぼくの仲間だよ」
その言葉に、少女はにわかに体を強張らせる。
「あなた、この国の騎士団の人……?」
少女の言葉の意味を掴みかねて、セスナはただ顔を左右に振る。
「ううん。ぼくはいにしえの言い伝えの、東の剣士だよ」
そして心の中で(……らしいよ)とつけ加え、へへ……と照れくさそうに指で頬を掻く。
「東の剣士……? じゃあ、あなたは魔王様の敵ね……?」
少女は荒い呼吸に肩を揺らしながらそう言い、目の前のセスナを警戒するように、後方に身を引いた。
「え? ――うん。ぼくはこれから北の魔王城へ行って魔王を倒し、大陸に平和を取り戻すんだ」
「――!!」
屈託ないセスナの言葉に、ララはにわかに怒りの色を浮かべる。
「じゃああなたは、私の敵だわ……!」
「え?」
「魔王様の敵は、私の敵よ。あなたは私を助け、ここまで連れてきたくれた。でもあなたが本当に東の剣士なら、私はあなたを生かしてはおけない」
少女が傷口の痛みに耐えながら震える声で言うと、セスナはきょとんと少女を見つめ、そしてにこりと破顔した。
「ああでも。ぼくが本当に東の剣士かなんて、実を言うとぼくにも分からないんだ。なんだかあれよあれよという間に勇者として旅に出ることになってしまって……」
セスナはこの旅の裏事情を正直に語り、少女の肩に手を置くと、「まあ落ち着いて」と言わんばかりに、穏やかな瞳を合わせて言う。
「でもさ。たとえぼくが勇者じゃなくっても。ぼくはぼくの目の前にある、家族や友達や、自分のいる世界を守りたいんだ。言い伝えなんて関係ないよ。この世界のどこかの誰かが、魔王を倒す必要があるのさ」
そう言って少女をベッドに座らせ、自身もその隣に腰かける。
そして少女を仰向けに寝かせると、毛布を引いて少女の手を握った。
「きみはひどい怪我をしてるんだから、少し眠るといいよ。そんな毒を受けて……きっと恐い思いをしたんだろう。 大丈夫。ぼくがこうして、きみの側にいるからさ」
「……!」
少女は初めてまっすぐにぶつけられた言葉と親切に戸惑い、困惑したようにセスナの緑の瞳を見た。そしてすぐに視線をそらす。
そうしてしばらくテントの天井を見つめていると眠気がきたのか、ゆっくり瞼を閉じたり開けたりして、うつらうつらとしはじめた。
いつのまにか日の暮れかかるテントの外で、ホウホウ、とフクロウの鳴く声が聞こえる。
「大丈夫……もう大丈夫だよ」
優しい声と握られた手の、そのあたたかさを感じながら、少女はすぐに眠りに落ちていった。




