♢番外編♢ ~『蝶々幻想物語』~ ※ネタ割れ閲覧注意※
※ご注意※
このエピソードは、今後の本編ストーリーのネタ割れを盛大に含みます。
物語のネタ割れをご希望にならない場合は、最終話の後にお読みになることを推奨します。
ご了承のうえ、お読みください。
♢♢♢
夜のとばりが家々の灯りを包み込む、あるいは、家々の灯りが夜のとばりをそっと照らす――
――そんな、幻想的な夜。
その青髪の少年は、今日もあたたかなベッドにもぐり、寝物語をねだっていた。
「ねえゾーラ。まだぜんぜん、眠くないよ。なにかお話しして?」
少年の隣。枕を並べて横になっていた青髪の女は、「ええ~今夜もぉ?」と唸り、「もうネタ切れだって~」と、両腕を伸ばして天井を仰ぐ。
「ゾーラ。あまりセルムを甘やかすな。……これでも与えておけ」
二人の側でその遣り取りを聞いていた青髪の男は言い放ち、古びた棚の引出しから何枚かの手紙を出した。
そして乱雑に、セルムと呼ばれた少年に手紙を投げつける。
「もういいよ、お父さんは。あっちへ行って。ねえゾーラ、この手紙を読んで?」
ベッドにばらばらに散った数枚の手紙を拾い上げ、セルムが甘い声音でゾーラにねだる。
「くぅ~! 出たな、セルムの必殺にゃんにゃんボイス!」
謎の発言とともにゾーラはセルムから手紙を受け取り、それを読み始める。
「……こうして青い蝶に恋した灰色の蛾は、青い蝶の代わりに人間に捕まり、死んでしまいました。―――おしまいっ」
「ゾーラ。これは悲しいお話なの?」
無垢に尋ねるセルムの言葉に、ゾーラは黙って頷く。そして最後に、その物語の作者の名前を付け加えた。
「作者、レムノウ。……そうそうあいつ、魔族のくせにロマンチストなんだよねえ」
「……ゾーラ」
青髪の男はこめかみを押さえながら、冷ややかに見下ろした視線をゾーラに送る。
「はっ。もうしわけありません!」
「……敬語はもういいかげん、やめろ」
「御意!」
「……」
そんな二人の遣り取りの意味も分からず、退屈そうなセルムは更にゾーラに物語をねだる。
「ねえゾーラ。次はこの本を読んで?」
「ええ~! またあ? ほんとにきみも、飽きないね~」
そしていつもセルムの枕元に置いてある厚い本を手に取ると、ゾーラはわざと声色を変えてそれを読み始めた。
「だめ! そんな変な声でふざけないで、ちゃんと読んでよ!」
まだ幼いセルムにダメ出しを食らい、ゾーラはしぶしぶ、真面目に読み始めた。
「――『蝶々幻想物語』……。ええと~……『勇者セスナとその仲間は、魔王を討つために、遥か北の地に、遠い旅に出ました――』……」
もう何度目かも分からない。その物語が語られるのを、人間と魔族の子である半魔のセルムは、母譲りの深紅の瞳を見開いてじっと聞く。
息子であるセルムと、元配下であるゾーラ。
血の繋がりのない二人の仲睦まじい姿を、青髪の男は金の瞳で、懐かしそうに見つめた。
♢♢♢
その部屋の下の階。
今はもう閉められたその店には【魔道具屋――ヘルデスの店】と書かれた看板が、今は裏返しにされ、優しげな夜風に吹かれて揺れていた。




