7話 魔法スキル
スライムを倒してレベルアップした後。リトルストーンゴーレムの強さを計るための次なる標的を探していた。場所はスライムと遭遇したのと同じ。ネルがここに現れる兎の魔物が次の標的として最適だと言ったため、サクはそれを信じて兎の姿を探していた。
「おっ、あそこ何かいるぞ!」
今回、魔物が潜んでいたのはひまわりのような花ではなく白い小さな花の群生地のような場所だった。
「あれは……兎じゃなくて猫か?」
サクの瞳が捉えたのは一生懸命に咲いている小さき花々を跳んでは踏み潰しては再び跳ぶ。トランポリンで跳ねているような挙動をする不審な緑色の猫だった。
「マウントキャットっていう魔物だね。ここで見かけるのは珍しいかも。私がおすすめした一角兎よりちょっと強いけど、どうする?」
マウントキャットは基本的に山に生息しているが、時折放浪癖のある個体が下りてくることがある。今回の魔物はそれに該当するものだろう。
「見つけたからには狩るに決まってるだろ。ゴーレムがな!」
やる気満々なサクはなんとも情けない言葉を吐きながら、リトルストーンゴーレムへ指示を出す。
「あの猫を倒してくれ、ゴーレム」
ゴゴゴゴゴ。
ピキーン!
「ん? なんかこいつ今、目の光が強く――――」
ババババババババババババ!!!
「すっげええええええええええええ」
主人がざっくりと倒せとしか言わなかったため、ゴーレムは彼我の距離を参照して遠距離攻撃を実行した。リトルストーンゴーレムが持つ唯一の遠距離攻撃。それこそが魔法スキルのストーンバレットである。10センチほどの小石を魔法によってかなりの速さで無差別に連続射出するこのスキルはサクの琴線に触れたようである。
「ストーンバレット初めて見たなぁ。魔法スキルとして知ってはいたけど、土属性の魔法ってプレイヤー人気が低いから滅多に見ないんだよね」
スキルスクロール等で誰でも習得できる魔法は基本的に火水風土の四属性である。火属性魔法はサクのような単純な頭をしているプレイヤーがカッコ良いからという理由で習得しがち。風もややその傾向があり。水はこの四属性の中だと唯一回復系のスキルが存在するためそれを習得する者が多い。最後の属性は土なわけだが、こちらは絵面が地味な魔法が多いためプレイヤーには不人気となっている。
サクを興奮させているストーンバレットに関してもゴーレムが使用しているからこそ様になっているのである。
「こんなかっけースキルがあるのに不人気なの意味わかんないな~」
二人が吞気に会話をしている間もリトルストーンゴーレムとマウントキャットの攻防、いや一方的な狩りは続いていた。
マウントキャットは持ち前のジャンプで小賢しく躱してゴーレムへ攻撃を仕掛けようとするが、小石の弾幕の密度が高く距離を詰めることができていない。これでは名前の由来にもなった飛びついてマウントを取り噛みつくという得意の攻撃を仕掛けられない。
一つ。二つ。三つ。時間が経つにつれて徐々に小石がマウントキャットに当たるようになっていく。高密度の弾幕攻撃を避け続けるなど余程の回避能力がないとできないのである。そして一つ当たればダメージを受ける。ダメージを受けると一瞬次の動きに支障が出る。そうなるとまた次の攻撃が当たりやすくなる。といった風に、一度攻撃を受けたマウントキャットは最早サンドバッグ状態になっていた。
「お~、お疲れゴーレム」
戦闘結果は見事リトルストーンゴーレムの勝利。
戦利品であるドロップアイテムを持ってサクもとへと歩いてきた。
サクは労うようにゴーレムの頭を撫でる。
「それはマウントキャットの毛皮かな? 今回もドロップアイテムがあるなんてサク君やっぱり運が良いね」
「ドロップアイテムって毎回手に入るもんじゃないのか?」
「そうだよ。戦闘に勝ってもアイテムがドロップしないことも結構あるんだ。その辺の確率とかは運の数値が関係しているだろうって言われているけど、詳細はまだ誰も解明できてないんだよね~」
「ほえ~。じゃあ、案外これから運にSP振っていくのもありだったりするかもな」
「えっ、それは流石にやめた方が……」
<マジカルルカファンタジー>のプレイヤー間で言われていることの一つに運にはSPを振るなというものがある。レベルアップ時にしかもらえないものを内訳の分からない能力に割り当てるのは如何なものかという理由からだ。
アタッカー系のジョブに就いているなら、力や魔に振った方が火力を出せる。タンク系ならば耐に振るとその役目をしっかりと果たしやすくなる。運も意味からしてドロップアイテムが手に入る確率などに関係してくるという説があるが、他の能力のほど分かりやすいメリットがないため避けた方が良いとなっているのだ。
「ネルは反対か? 俺は案外良いと思うんだけど運特化。<合成士>だからいろんなアイテムを合成してなんぼって感じだろ? だからドロップアイテムが手に入る確率は少しでも高い方が良い気がするし。あと俺の勘が運を上げろって言ってるんだよな~」
「サク君がしっかり考えた上でそうするっていうんだったらいいと思うよ。元々武器装備不可で自分では火力だせないんだし。これからもゴーレムとかをたくさん作って戦闘に使っていくんだったら、実質力とかもサク君からしたら捨て能力になっちゃうから。あと私もちょっと運特化にするとどうなるのか気になるっていうのもある!」
「ならしばらくは運中心に上げていくか! よーし、方針は決まったしどんどんレベル上げようぜ!!」
その後、サクのレベルが5になるまでリトルストーンゴーレムは魔物を狩り続けたのだった。
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