4話 ネルのこと
「……流石にここまでくれば大丈夫だよね」
二人は先程、広場のような場所で<合成>スキル使用した。演出があったせいか悪目立ちしてしまい、興味を持ったプレイヤーに捕まりそうになってしまう。そのままだとジョブやスキルを聞き出そうとされて答えなければ最悪PKされる可能性もあったため、ネルはその場を去ろうとサクを急かして移動したのである。
「ちょ、ネル足はっや! 運動神経ヤバすぎ……はぁはぁ」
捕まるまいと駆け出したネルの後を追ったサクだが、距離は縮まらないどころが少しずつ開いていた。
「ステータスのせいだよ」
<マジカルルカファンタジー>のステータスの力は筋力を。魔は魔力を。技は技術力や器用さを表し、耐は肉体の強度やスタミナなどを示す。速は移動速度や攻撃速度へ影響して、運はそのままの意味である。
今回のように走った場合、速と耐の数値が参照される。
「あ、そうか。ゲームなんだった」
VRMMOは感覚がリアルに非常に近い。普段ゲームをしないサクのような人間だと感覚が混同してしまうのも無理はない。
「そうだよ。現実の日本にこんな街並みないでしょ?」
「確かにそりゃそうだ」
こうして会話をしている間に二人とも息が落ち着いてきた。
「じゃあ、うちの店入ろっか」
「店?」
「後ろ見て。<ねるのおみせ>って看板に書いてあるでしょ?」
逃亡する際、何もネルは闇雲に走ったわけではなかった。
最悪の場合でも、自身が使用している店舗へ逃げ込めるようにこの場所へ向かったのである。
「ほんとだ! ネルって店持ってんのかよ!! すげえ~」
尊敬の眼差しがネルへ注がれる。
「NPCから借りてるだけだけどね。それでも毎月お金かかるし、維持するのもけっこう大変なんだけど」
「借りてたとしても店やってる時点ですごいって! てかさ、何売ってんの? 中見てぇ!!」
「そ、そんなに良い反応してくれるとは思わなかったなぁ。いいよ、売り物も紹介したいし中に入ろ」
ネルが扉を開けるとカランカランという音が鳴る。
「おおー、音もそれっぽい!」
興奮気味のサクはネルに続いて店内へと足を踏み入れた。
「おおおおおおおおおおおお!!!!! すっげー! これってドラゴンだろ!?」
店内の一番目立つ中央部に台座が置いてあり、その上に骨らしきもので作られた2メートルほどのドラゴンが飾られていた。
「目立つし、かっこいいでしょ? これ私の自信作なの。ほら、あと左のも見てよ! こっちは泥でスライムをイメージして作ったんだ~」
「おぉ、泥の玉に顔がついてる!? なんかかわいいな」
「でしょでしょ! 店内にあるものは全部私が納得したものしか置いてないからぜーんぶ良い出来のはずだよ!!」
ネルはわざとらしく腕を組み、胸を張る。
「マジですっけぇよ! ん? でも、ネルの店に置いてるってことはこれは売り物で。ってことは、ネルは自分が良いと思った美術品を買い集めて売ってるってこと……か?」
「違うよ~。自信作って言ったでしょ? これ全部、自分で作ったの! 私ね、昔からいろんな素材で模型作ったりとか彫刻掘ったりしたかったんだ。だからジョブも、ほらっ<造型師>でしょ?」
ネルは自身のステータスウィンドウを呼び出すと、サクの方へと向ける。
――――――
ネル
Lv.13
ジョブ:造型師
HP:160 MP:110
力:10
魔:20
技:72
耐:10
速:15
運:10
スキル:造型の心得(Ⅰ)、技術の探求者(Ⅰ)、短剣術(Ⅰ)、エアーボム
<装備>
武器(右):アーリングウッドの杖
武器(左):くだものナイフ
頭:―
体上:町人の服(上)
体下:町人の服(下)
靴:町人の靴
装飾品1:シェパールリング
装飾品2:―
装飾品3:―
――――――
「レベルたっか! それにスキルめちゃめちゃあるな!!」
ゲームを始めたばかりでLV.1のサクからするとレベル二桁かつ複数のスキルを持つネルはかなり格上である。ゲームを普段あまりしないサクでもそのくらいのことは理解していた。
「へへーん。そうでしょそうでしょ! 必要なスキルを集めるの大変だったんだから!!」
「そうなのか? てか、そもそもスキルってどう集めるんだ?」
「ジョブ固有のものなら、そのジョブに合った行動を取ると既存のスキルを磨けたり新しいスキルが生えてきたりするよ! あと私のエアーボムがそうだけど、スクロールショップでスキルスクロールを買うっていう手もあるかな」
<マジカルルカファンタジー>におけるスキルはジョブと密接に関わっているものが多い。そのためレベルアップだけでなくジョブに合った行動を取るというのも強くなるための秘訣であると公式からのお言葉も出ている。
ただし、自身のジョブと無関係なスキルを取ることができないのかと言われればそうではない。ネルの言ったようなショップでスキルスクロールを購入したり、NPCから教わるといった方法で入手することも可能である。
「へえ~、ほるほどなぁ。勉強になります!」
「えっへん! これからも困ったことがあったら、このネル先輩を頼りたまえ」
「ありがたやありがたや~」
大変気分が良くなったネルはその後、<マジカルルカファンタジー初心者講座>をサクに対して始めるのだった。
―<プチ予告>――――――――――――――――――――――――――――――
ゴーレムについては次話で触れます!
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