23話 楽しみたいという欲
手を怪我していたのですが、治ってきたため投稿再開していきます。
「サク!!!!!」
「サク君!?」
ストーンゴーレムへ魔法スキル<スピードアップ>を使用した直後。サクは背後からの一撃で倒れた。気にしてくれていたナツとネルが名前を叫ぶ。それはほとんど悲鳴のようなものだった。
「う、うぅ……きっもちわりいー!!!」
二人に心配されていることに一切気づいていない当の本人はすぐに立ち上がると、お腹をさわさわしながら舌を出し嘔吐するようなジェスチャーをしている。
どうやら痛みの代わりとして採用されている衝撃を受けるというシステムがあまり彼には合わなかったようだ。戦闘を何度も行い、ダメージを受けることで多くのプレイヤーはこれに慣れていく。だが、稀にこの衝撃がいつまで経っても不快なままのプレイヤーもいるのだ。
この衝撃は設定でオンオフできるものなので、本当に体に合わない場合はオフにしてしまえば良い。
「ぜんっぜん大丈夫だったわね」
「はぁ~、サク君が無事でよかった!」
防具の質や耐を上げていたおかげサクは生き残ることができた。
だが、ピンチであることに変わりはない。立ち上がったサクを攻撃しようと山賊モンキーが動き出しているからである。
「スピードアップ!」
それを視界に捉えたサクだが一切焦っている様子を見せない。落ち着いた声色で魔法スキルを発動する。対象は自分自身だった。
バフを受けたことでサクの移動速度が上がる。
山賊モンキーのブロンズソードが胴体へと到達する直前にバックステップをし、見事回避してみせた。
「バフってすげえんだな。これだけ速くなれるんだったらやりようはいくらでもある……かも」
なんとも締まりのない言葉を吐き出しながらサクは次の行動について考えていた。
まずバフのさえ乗っていれてば自身は身のこなしという点では山賊モンキーと渡り合える。ただし、武器装備不可による攻撃能力の欠如が補えるわけではない。そのためサクにできるのは時間稼ぎ。それも複数体を相手できるほどの余裕はないため、精々目の前の個体の注意を引き続ける程度が関の山である。
ストーンゴーレムはバフさえ与えれば十分に群れを壊滅まで追いやれる。ナツとネルの方も前衛なしでも優勢。つまりサクに求められるのは現状やはりバフのみ。
「はぁ、武器がないってのはやっぱりつれえなぁ。でも、だからって諦めるのはやっぱりおもしろくねえんだよな~。よし、決めた! せめてみんなの戦いが終わるまではお前の相手は俺一人でする。倒せねえ代わりに倒されてもやんねえぞ!」
サクはバフだけをかけるという役割に不満があるわけではない。ただ、自分もバフさえかければ目の前の魔物と同等の速さになれると知ってしまったことで、少し欲が出たのだ。もっとこのゲームを楽しみたいと。
ゴーレムたちの戦闘は迫力があって見ているだけでも楽しい。でも、今心が躍るのは目の前の魔物との戦闘だった。
故にできることの範囲内で挑戦的な目標を設定した。
「ナツ! ネル! みんなの戦いが終わるまでこいつと追いかけっこでもしてるから終わったら合流しよう!!」
「え? 急に何言い出してんのよ……って今に始まったことじゃないか。いいわ。私とネルがさっさとこの猿どもを倒せばすむ話だし。その代わり絶対デスしないこと! いい?」
一方的に作戦変更を告げられて困惑するナツ。
だが、幼馴染故こういったことにも慣れているのか、すぐに冷静に戻った。
「任せとけ!」
「ナツちゃんほんとにいいの? サク君バフありでも山賊モンキーの攻撃を避けるのギリギリだと思うよ?」
エアーボムを放ちつつ、サクの方にも気を配っているネルがそう口にする。
「あいつ一度言い出したら絶対やるからね。私がダメって言ったって意味ないのよ」
ナツはネルに返事をしながら新たなスキルを発動する。サクのことが心配なのか戦闘のギアを一つ上げたようだ。
一方、山賊モンキーと一対一の状況になったサクは初めてストーンバレット見たとき以来の気分の高揚を感じていた。
「ってことで、俺のこと倒してみろよ」
サクの言葉を理解しているのか山賊モンキーはキキッと叫び、斬りかかってくる。自ら挑発したため、攻撃されるのは予測済み。体を半身ずらすことで見事に回避する。
そして仲間が勝利するまでの時間稼ぎをするべく、誰もいない方向へと駆け始めたのだった。
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