18話 サクの知らなかったこと
ネルが落ち着きを取り戻した頃。ナツはすっかり毒気を抜かれていた。先程までより少し棘がなくなっている。
「で、二人はどこに行くつもりだったの?」
「私たちは山を登るつもりだったんだよ~」
「へぇ~、私も一緒にいこっと」
「いいよ~」
ナツは当然とばかりに同行すると言い出した。サクは止めようと思ったのだが……ネルが即答で了承したため言葉を呑み込んだ。
「ていうか、サクはどうして二日目にしてそんなしっかり装備してるわけ?」
ナツがこてんと首を傾げる。
「ネルの知り合いのとこで買ったんだよ。正確に言うと買ってもらっただけど」
「は? その装備結構いいのなのに奢ってもらったわけ!? まさかネルちゃんに買わせたの?」
「これそんなすげえ装備なのか?」
サクは自身が身に着けている皮鎧を見る。
「当たり前でしょ? ワイバーンの素材使ってんだから。私もちょっと前まで使ってたし」
「そっか。そんな良い物だったなんて知らなかったな。ネル改めてありがと!」
「いえいえ。私もサク君が良いアイテムもらったし。お互い様だよ~」
ネルはサクからもらった<ベビマイラのぬいぐるみ>をアイテムボックスから取り出す。
「こんなのもらったからって防具一式あげなくても……」
ナツは二人の交換は価値が釣り合っていないと感じていた。
「ナツちゃん、これ見てみて?」
アイテムの詳細を見るようにとネルが促す。
――<ベビマイラ(兎猫)のぬいぐるみ>――
魔物の毛皮を使用したかわいいベビマイラのぬいぐるみ。
装飾品として装備可能。
装備している間、スキル:跳躍Ⅰとスキル:脱兎Ⅰが付与される。
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「え、何これ……装飾品なのにスキル二つも付与されるの?」
「すごいよね。最前線の錬金術師でもまだスキルを二つ増やせる装飾品なんて作れないのに」
現在、装飾品を製作する者の多くは錬金術師である。しかし、ネルの言う通りそのトップ層ですらスキルを二つ付与できるものは生み出せていない。それをゲームを始めた日に成してしまったサクが、<合成士>が異常なのである。
更に素材が比較的手に入りやすいものであるという点も恐ろしい。
「え、それもしかしてすげえもんなのか?」
女性陣がこのアイテムのヤバさを共有する中、サクだけはそれを理解できていない。
「うん。だからサク君にお礼としてウェルシーさんのところで装備を見繕ったんだよ?」
「え、ちょっと待って。ウェルシーってあの気難しいで有名な?」
「気難しいかは分からないけど、ウェルシーって名前で防具を売ってる人を私は他に知らないなぁ」
ウェルシーは防具のデザインから作製まで全てを一人で仕上げる。全行程において一流であり、出来上がる一品は最高級。そのためウェルシーは多くのプレイヤーから防具を売って欲しいと迫られている。
しかし、ウェルシーが一人で作っている以上売ることのできる量に限界がある。よって客を選ぶのだ。ネルは人間性が気に入られて仲良くなった。サクに関してはそのネルが出会ったばかりなのにかなり深く関わっていることから興味を持った。
戦闘系ジョブに就いていない。最前線攻略勢でもない二人がウェルシーの防具を得られたのはそういう理由があってのことである。
「わ、私もウェルシーの防具欲しい……」
「じゃあ、ナツちゃんの分も頼んでみよっか」
「えっ、いいの!? あ、いやでも、私は何もあげてないのに一方的に恩恵を受けるのは違う……」
ナツはゲームにおいて一方的な関係を嫌う。そのため自分だけが得をすることを良しとできなかった。
「そうだ! 二人が今の攻略最前線の王都へ進めるまで私が一緒に戦ってあげる! 一応、ベータ版の頃からやってるし、<音速ライダー>って二つ名までゲットしてるんだから力にはなれるはずよっ!」
「えっ、二つ名持ちなの? ナツちゃんすごいね。私は先の町に行けるのはありがたいけど、サク君はどう? 自分で攻略していきたいとかあったりする?」
「別に自分でどうこうしたいってこだわりはないぞ。ただ、途中途中適度にレベル上げはさせてくれよな」
こうして三人が共に行動することになった。
「最前線の王都は山とは別ルートなんだけど、どうする?」
「なら山クリアしてからそっちいかねえか? 俺の魔法スキルを試したいんだよ。ネル的に山が丁度いいってさ」
「わかった。じゃあ、山クリア後に王都目指すわよ。ん? っていうか、ゴーレムってなに――――」
まずは本来の予定通り山でサクの魔法スキルとストーンゴーレムの強さを試すこととなった。
果たしてどれほどまでの効果が魔法スキルにはあるのか。サクはワクワクしながら足を進めるのだった。
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