16話 ログアウト
サクはスクロールショップで白のスキルスクロールを購入した。
スキルスクロールの内容は対象の移動速度を上げる魔法スキル<スピードアップ>だ。これでゴーレムたちの弱点を少しでも埋めようというネルからの提案を受け入れてこちらを選ぶに至った。
「よし、これで新しいスキルゲットっと」
店の外に出た彼はすぐにスキルスクロールを使用。
合成以外のスキルを初めて習得した。
――――――
サク
Lv.8
ジョブ:合成士
HP:170 MP:13
力:3
魔:3
技:22
耐:12
速:12
運:50
スキル:合成、スピードアップ
――――――
「ちゃんとスキルの欄にも追加されたな」
「よかったね!」
隣にいるネルは笑顔で拍手してくれる。
「おう! ただ、MPがまだ全然回復してないからなぁ。戦闘ではちょっとしか使えないかもな」
「さっき合成したばっかりだもんね~。だったら、今日は一旦終わりにしよっか?」
「えっ、まだまだ遊び足りない――――って、もう夕方か。確かにそろそろ切り上げ時かもな」
サクとしてもっと遊びたかったようだ。
しかし、リアルの方の時間を確認すると18時だったため、ネルの言う通りログアウトすることにした。
「じゃあ、またね。私は明日も朝からお店にいるから、きてくれるの待ってるね。今日の続きをしよっ!」
「分かった。また明日!」
こうしてサクの<マジカルルカファンタジー>一日目が終了した。
「はぁ~、思ったより疲れたな」
ログアウトしたサク――――佐倉優斗はヘルメットを外す。そしてマッサージチェアのような形状をしているVRMMO専用の機体から起き上がった。
「えーと、今日までかあちゃんは海未と旅行でいないから……適当にパスタでも茹でるか」
佐倉家は母、優斗、そして妹の海未の三人暮らしである。父は五年前に交通事故でなくなってしまった。そのため三人で協力して生活してきた。とはいえ、金銭的には非常に余裕がある。なぜなら祖父が地主であり、今の家にタダで住まわせてくれているからだ。更に祖父は孫に甘々なため学費まで出してくれており、佐倉家はまさにおじいちゃん様様生活を送っているのである。
普段は優斗の母ももちろんその他の生活費を稼ぐために働いている。
だが、数日前に久しぶりのまとまった休みが取れたからと急に報告があったかと思えばすぐに妹を連れて沖縄へと旅立ってしまった。
妹の海未は何故か高校をズル休みして旅行について行ったが、優斗は一人残されている。理由は本人が急に旅行とか言われても行けるわけないだろと断ったからなのだが、実際に一人取り残されるとなると少し寂しさもあった。
ゲーム内ではネルと二人でわちゃわちゃと楽しかったからか、一軒家で一人パスタを茹でるというシチュエーションは彼にとって孤独を感じさせるものだった。
「チンのソース何があったっけ?」
家の棚を物色してパスタソースを見つけ出す。
ボロネーゼ、ジェノベーゼ、明太子。三種類のレトルトが新品で残っていた。
「やっぱ明太子パスタだよな」
優斗は明太子を選ぶ。
それから十分もしないうちに明太子パスタが完成する。
「いただきます」
バクバクバク。
バクバクバク。
優斗の食べる速度はかなりのもので二人前のパスタがすごい速さでなくなっていく。
そしてなんと完食にかかった時間は五分。
なかなかの早食いである。
その後、風呂に入りもろもろの家事を済ませた優斗はベッドへと滑り込む。
「まだ11時だけど……寝るか」
普段ならまだ肉や海鮮の料理系動画を見たり、欧州のサッカーの試合を見たりする。だが、今日はそんなことよりも早く寝たいと思っていた。
理由は<マジカルルカファンタジー>をまたプレイしたいと思っているからである。初日から良きゲーム友達ができて優斗は楽しかったのである。
――――パインッ。
「んっ、誰からだ?」
枕元に置いていたスマホからメッセージアプリの通知音がした。
優斗は寝る前にさっさと返信してしまおうと内容を確認する。
「夏希からかよ」
連絡をしてきたのは優斗を<マジカルルカファンタジー>へ誘った幼馴染の川口夏希だった。
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『ねぇ、ゆうと。明日、マジカルルカファンタジー一緒にするよ』
「え、普通にムリ」
『どうして!?』
「今日、友達できて明日も一緒に遊ぶ約束したんだよ」
『ええー! せっかくゆうとと遊べると思って楽しみにしてたのに~!!』
「残念だったな。またいつかな」
『いつかっていつ?』
「しらん」
『今、決めろ』
「めんどい」
『じゃあ、明日私も行く』
「無理。やめろ。絶対」
『???』
『私もう寝るね。おやすみー』
「おい、待て」
「寝るな」
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「くっそ、あいつ既読つけやがらねえ」
以降、三十分ほど待っても夏希からの返信はなかった。『明日、一緒に行く』そのメッセージだけがやけに優斗の頭に残っている。本気で送ってきたものなのかは夏希本人にしか分からない。だが、返信がない以上確かめようもない。
優斗は嫌な予感を抱えつつも、眠りにつくのだった。
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