1話 始まりは武器装備不可と共に
新作のVRMMOものです。
「ほえ~、こりゃすごいな! マジで別の世界に飛び込んだって感じだ」
レンガ造りの道や家屋。
大通りに並ぶ様々な露店。
少し裏通りに向かえば悪臭漂うスラムのような場所もある。
道を行く人々の服装はボロ雑巾のようなものを着ている者から、これ見よがしにジュエリーをぶら下げる者まで様々。
そして町は石造りの防壁に囲われており、出入りに使われる門には兵士が立っている。
正しくファンタジーゲームなどに登場する中世ヨーロッパ風の場所である。
大学一年生の佐倉優斗はVRMMO<マジカルルカファンタジー>の世界にプレイヤー<サク>としてたった今、降り立った。
「夏希に誘われてしゃーなしで始めてみたけど、案外楽しそうかもな」
サクがこのゲームを始めた理由。それは幼馴染のゲーマー女子である川口夏希から一緒に遊ぼうと誘われたからである。
誘われたばかりの頃はゲームにはあまり興味がないと断っていたのだが、夏希がしつこかったため仕方なくゲームを購入して今に至る。
「で、俺の見た目ってどんな感じ?」
とりあえず誘われたからこのゲーム始めただけだったため、サクはアバターの設定を髪色と身長をリアルのものから10センチほど盛ったこと以外はランダムな設定を選んだ。
そのため己は一体どんな姿になったのかを確かめるため、鏡の代わりになるものがないか探す。
本来はシステムからアバターの装備を変更するウィンドウを呼び出せば自身の姿を確認できるのだが、ゲーム慣れしていないサクは現実同様の動きを取った。
周りに姿を確認できるものがなかったため少し困った顔になるサク。視線も自然と落ちてしまい足元を見る。
「あ、水たまり。鏡みたいに反射してんな。髪色……結構いい感じか。他はこれじゃ分からないけど、今は仕方ないか」
足元にはたまたま水たまりがあり、そこにサクのアバターの顔が映っていた。髪色は指定した桜色、顔は不自然じゃない程度にいじられていて絶妙にリアルを特定できなさそうなものになっていた。
「よし。じゃあ、いっちょ遊んでみますか!」
自身の姿を確認したサクは顔を上げ、目的地もなく歩き始めた。
――――一時間後。
「どうしてだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
大きな噴水がある広場にて、サクの悲痛な叫びが響き渡る。
あれから町中を歩き適当なプレイヤーやNPCから情報を聞き出した結果、一先ずステータスの確認と装備を揃える必要があると分かった。
そのためサクはシステムを呼び出し自身のステータスを見たのだが……。
――――――
サク
Lv.1
ジョブ:合成士
HP:100 MP:50
力:3
魔:3
技:15
耐:5
速:10
運:24
スキル:合成
<装備>
武器(右):装備不可
武器(左):装備不可
頭:―
体上:旅人の装い(上)
体下:旅人の装い(下)
靴:布の靴
装飾品1:―
装飾品2:―
装飾品3:―
――――――
なんと武器の欄が装備不可となっているではないか。
ファンタジー系のVRMMOでは戦闘がかなり重要な要素となっている。そして敵を倒すには攻撃する必要がある。その攻撃の威力は大半がステータスと武器の攻撃力を参照する。つまり武器を装備できないということは戦闘でかなり遅れをとるということに他ならない。
いくら誘われたから始めたといえどもお金を払ってゲームを買っているのだから序盤からそのような強制縛りプレイをさせられて喜ぶ者がいるはずもなく、あの悲痛な叫びへと繋がったのである。
「ざっけんな! そりゃあ、ステータスとかジョブとか種類多過ぎて、めんどくさくなってランダムにはしたけどよぉ!!! だからって、こんな! こんな仕打ちしなくたっていいだろ……」
<マジカルルカファンタジー>はステータスの育成で個性を出せたり、ジョブが豊富だったりすることを売りにしているファンタジーVRMMOだ。中にはジョブ設定をランダムにした場合のみ就くことができるレアなジョブも存在するほどである。そのため普段ゲームをしないサクからするとそれら全てを決めるのがかなりめんどうだった。よって、今回はほぼ全ての要素をランダムにしたのだが、結果としてこのような悲劇が起こってしまった。
「てか、何がどう影響して武器装備不可なんてことになってんだよ……」
「あの~、何かお困りですか?」
「ん?」
サクが一人で叫んだり唸ったりしていると後ろから声がかかった。
振り返るとそこには赤い髪の女性が立っている。
「えっと、知り合い……じゃないっすよね?」
「はい。たまたま見かけてすごい顔しながら唸っていたので気になって」
親切心から声をかけてくれたようだ。
「顔にも出てたか……」
「ええ、それはもう般若みたいな顔になってましたよ?」
「そ、そこまで」
「はい! それで何があったんでしょうか? せっかくですし、私にわかることであればお教えしますよ!」
「いいんですか? じゃあ――あ、そうだ。先に名前聞いてもいいですか? 俺はサクです」
「自己紹介してなかったですもんね。私はネルです! よろしくお願いします、サクさん!!」
「こちらこそよろしくです!」
互いに笑顔で握手を交わす。
現実だと日本の学生が自己紹介した際に握手をするなんてことはあまりないが、この町の雰囲気が自然と二人にそういった行動を取らせた。
「それで俺の困っていることなんですけど、ステータスの武器の欄が装備不可ってなってるんですよね」
「…………」
「ネルさん?」
サクは悩みの種を打ち明けた。
一方、ネルは黙ってしまう。
そして先程までの笑顔が嘘だったかのように、表情が酸っぱい梅干しを無理矢理口に押し込まれたようなものへと変化していく。
「す、すみません! 教えるなんて偉そうなこと言ったけど、武器装備不可なんて初めて聞きました!!」
どうやらネルも武器装備不可という現象は知らないようだ。
「た、ただ、このゲームの基礎的な知識は頭に入っているので! ステータスとか色々調べて一緒に原因を特定しましょう!!」
「え、そこまでしてくれるんですか? 流石にちょっと俺も申し訳ないというか」
「いえ、私から首を突っ込んだんですから! 最後までお付き合いさせてください」
「そこまで言ってくれるなら……よろしくお願いします」
こうして二人でサクの武器装備不可の原因を突き止めることになったのだった。
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