1話 チュートリアル
二年前大晦日。
「新しい年を知らせる除夜の鐘です」
毎年n〇kで放送している年越し番組を見て年を越すのが定番だ。ごーんと108回目の除夜の鐘が鳴る。
日本人なら誰しもが心落ち着かせるであろうそんな鐘が新年を告げる。
ピロン!
目の前にゲームで見るようなウィンドウがでてきた。
〈ちっぽけな人類が≪脅威≫に対抗するため神から権能が与えられました!〉
〈一ノ瀬 一颯!こんにちは!ダウンロードを始めます!〉
ダウンロード?やめてくれもうそろ新しいタイトルがリリースされるんだぞ……もう容量ないて。
「ん?」
目の前のウインドウにダウンロードバーのようなものがあり、どんどん進んでいる。
まあ異世界転生やら特別な力に目覚めるというのは病を患っているときはよく考えたものだ。
俺なんてって現実を見れば病なんて治った。
まあ現実を見ればなんて言っても一ノ瀬 一颯16歳イケメンで程よく筋肉もついている。悪くないはずだ。
「ん?」
眠いし疲れてるんだ俺は、きっとそう、幻覚だ。
だがしかし生まれてこの方16年、病を患っているときでさえ幻覚なんて見たことない。
これは幻覚なのだろう。「病が再発し、進化したんだ!」自分にそう言い聞かせた。
そう思えばもはや親近感さえ覚えてきた。
〈ダウンロードが完了しました!システムのチュートリアルを始めます!〉
もはや幻覚だとか夢だとかなんでもいいじゃないか。楽しもうじゃないか。
「お願いします!」
〈これはシステムウィンドウといいます!〉
「ふむふむ」
〈システムウィンドウにはメッセージ・ステータス・ボックス・ギフト・ヘルプの5つがあります!〉
「ふむふむ」
〈メッセージではシステムとの会話ログが確認できます!〉
「ふむふむ」
〈ステータスでは自分のステータス値・所持スキル・スキルツリーが確認できます!〉
「ふむふむ」
ステータスどれだけ欲したことか、それも今では見たいけど見たくないアニメのようなものだな。弱かった時立ち直れる気がせん。
〈ボックスはアイテムを保存できます!〉
「ふむふむ」
ゲーマーが思うようなボックスであれば楽でいいな。
〈ギフトはシステムや上位次元からの報酬が受け取れます!〉
「ふむふむ」
クエストかなんかの報酬だとしたら神からのクエストなんてぜってーろくなもんじゃねえな。
〈ヘルプは簡単な質問に答えます!〉
「ふむふむ」
〈これらは声に出すか頭の中で唱えると操作できます。ギフトと唱えましょう!〉
「ふむふむ」
ギフトと頭の中で唱えた。
〈権能:システム(自動付与)〉
「ん?」
細かいところまで作りこまれている、俺はここまで細かく妄想したことなんてなかった。
「あれ?まじもんっぽいな……」
ならばだ、漫画からの知識と病を患っていた……。
「この俺が出す最適解は…………。」
「やべぇ逆になんも思い浮かばん」
作品によって最適解なんて違う、当然のことだ。
「はあ、だったら情報収集が鉄則か。」
短いため息をつき、気持ちを切り替えた。
「システムヘルプ」
ピロン!
〈質問は何でしょうか?〉
システムウィンドウ関連の話を要約するとこうだ。
Q.ステータスについて。
A.体力(HP)、魔力(MP)、攻撃力(ATK)、 防御力(DEF)、 素早さ(AGI)、 器用さ(DEX)、 知力(INT)、 抵抗力(RES)、 運(LUK)の9つある。
職業は現在の職業が反映されています。lv.10になれば転職が可能。
スキルにはノーマル(N)、レア(R)、ユニーク(U)の3種類ある。
Q.ボックスについて。
A.ボックスの仕様は容量タイプで、ボックス自体に定まった形はなく容量分ならなんだって入る。
容量には個人差があり、容量はレベルやスキルによって増える。
ボックスの中では時間が経過しないので食べ物が腐ったりしない。
Q.ギフトについて。
A.ギフトをもらうにはクエストの報酬や上位存在からのプレゼントなど。
システムウィンドウ自体は理解したがこれからどう立ちっ回ていくか、根本的な問題は解決していない。
もし世界中の人が持ってるとしたら……やな予感しかしない。
「システムヘルプだ」
ピロン!
〈質問は何でしょうか?〉
「権能は全世界の人に与えられたのか?」
〈はい!偉大な神は全てのちっぽけな存在に権能を与えました!〉
数年前の俺なら喜んで飛びついただろう。
おっちぬ未来しか見えないのは溜めに溜めた知識と冷静さから来るのだろう。
「権能はなぜ与えられたんだ?」
〈人類が《脅威》に対抗するためです!〉
脅威なんてアバウトすぎるだろうがと内心キレながらも冷静さを保った。
「はあ……じゃあ脅威って何?」
〈《脅威》とは魔王から始まり魔神に終わる一連のイベントを脅威といいます!〉
イベントということは、神は人類が脅威に打ち勝ってほしいからではなく暇つぶしか何かなのだろう。
イベント素晴らしい響きだ。そんなもので死にたくなんかない。
「脅威はいつ来るの?」
〈人類の平均レベルが20になると《脅威(魔王)》が始まります!〉
簡単なことしか教えないとか言う割にはけっこー教えてくれる、この手のパターンはハードモードってのがお約束だろう。
なんでも教えてくれるシステムはどこまで教えてくれるのか興味がわいてきた。
「魔王ってどれぐらい強いの?レベル50が10人くらいで勝てたりするの?」
〈……。〉
「ち、沈黙……?」
同じレベル50でも質や職業構成によっても違いが出てくるだろう、そんな抽象的な質問には答えられないのは当然か。
「抽象的な質問には答えられないのか?」
〈はい……。〉
なんだか感嘆符がないだけで元気がなさそうに見えてしまう。
〈役立たずでごめんなさい。〉
申し訳ない気持ちに苛まれる。
「役立たずなんかじゃないって、むしろ役立ちすぎてる!もっと質問していい?」
〈はい!!!〉
魔王の強さや質を図るのはまた今度として、……こいつただのプログラムじゃないのか?
「えーっとシステムって感情あったりする感じ?」
〈ありますよ!私たち精霊はちっぽけな人類のお手伝いのため派遣されました!〉
「精霊って1人1匹?いるの?」
〈精霊はたくさんいます!ですので!〉
〈私はあなただけの専属です!〉
「……。」
匹かはおいておいて、こういう事を言われるとなんかこそばゆい。
〈照れちゃいましたか?意外と可愛いですね!〉
ピロン!
〈精霊から自由にお話(契約)!のリクエストです! 承諾:拒否〉
契約⁉契約のほうはかっこに入れるなよ。契約なんて簡単に決められるはずがない。
〈拒否すると精霊が哀しみます。承諾すれば精霊の声が聞こえるようになります!それになんとヘルプが強化されます!〉
「君の声が聞こえるようになるの?」
〈はい!ですので契約一択です!〉
「えと、承諾で」
半ば圧に負ける感じで承諾した。
〈わーい!わーい!〉
可愛いすぎる。実態がないのに声と文面だけで惚れてしまいそうだ。
「えと、それじゃあまず名前はなんて言うの?」
〈精霊に名前はありません!なので一颯さんにつけてもらいたい、です。〉
なんだその恥じらうような言い方は!可愛いすぎるだろうが!
名前なんて亀にしかつけたことしかない、そんな俺にどうしろと。
「精霊ならモチーフ?とかあるよね」
〈それは内緒です!で、でも私は植物を操ることができます!〉
「精霊で植物なら、ドライアド……ドリアードでリアはどう?」
〈リア!リアとっても気に入りました。リア!リア!〉
気に入ったようで何よりだ。
嬉しそうに自分の名前を呼んでいるリアに心が温まる。
〈ここだけの話強くなる方法の1つとしてシステムの精霊の能力を借りるというのがあります!あと精霊は増やせます。〉
こんな可愛いい精霊がふ、増やせるだと!!!
「どうやってせ……」
〈次の質問はなんですか!〉
「どうやってせ……」
〈次の質問はなんですか!〉
うん。
「強くなる方法って何があるの?」
〈ダンジョンに潜って装備を整える!こればかりは運とタイミング次第ですね!〉
〈これもダンジョンになりますが、レベル上げたりスキルを増やすことです!〉
〈これは割り振られた精霊次第ですが精霊の力を借りることです!〉
「あーね、さっき言ってた精霊を増やすってのは?」
〈そんなに私以外の精霊と契約したいのですか?〉
リアはあまりほかの精霊が好きじゃないのか、精霊を増やすのはだめらしい。精霊の増やし方は次の機会でいいか。
「リアがいやだって言うなら他と契約することはないよ」
〈はい!そうしてください!〉
〈なので代わりに強くなる方法のヒントを指しあげます!ヒントだけですよ!〉
〈遺物です!〉
遺物は歴史的価値がある物に力がやどる的なノリのものなのかな。
まあそれもダンジョンに潜ればわかるか。
「てゆーかさ、ダンジョンってどこにあんの?」
ピロン!
〈全人類のチュートリアルが終わりました。〉
え、チュートリアルってギフト見て終わりな感じなの???
ゴゴゴゴゴゴ
不気味な地鳴りが世界を包み込んだ。
「うん、オワタ」
最後までお読みいただきありがとうございます。