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運命なんてなかった

運命じゃなくても

作者: まつか

愛を育んだ話


「私にこれから一生、貴女の喜びも、悲しみも、共に分かち合う権利をください。愛しています。」


そう言うと、彼女は涙を浮かべながらこっくりと頷いた。





彼女を初めて見た時、恋は落ちるものだと言うのはこれかと衝撃が走った。


あの日俺の通う学園に、転校生が来る事になった。

そこそこ大きな街なので仕事の都合で一家で移住してくる人も多い為そんなに珍しくもないが、久しぶりの転校生にクラスメイトは皆ソワソワとする。

俺も(面白いやつだと良いな、)等と考えながら、先生に呼ばれ教室に入ってきた転校生を見やった。


その瞬間の俺は、口を開けてポカンと間抜けヅラを晒していた事だろう。

教室に入ってきた彼女は、小柄でクリクリとしたオレンジ色の大きな瞳に色白で優しそうな顔立ち、フワフワとした亜麻色の髪を可愛らしくみつ編みにしたとても可愛い女の子だった。


(か、可愛い……!)


それからの俺はガムシャラだった。

残念ながら彼女は俺の番ではない。

だが、自分でも何故かは分からないが確かに俺は彼女に惹かれているのだ。

初日から何かにつけ彼女に声をかけ、隙あらば女子すらも押し退け側にいた。

いつも退屈そうにしていた俺の変貌に、クラスメイト達は驚きつつも直ぐに察してニヤニヤとしながらも協力してくれた。

番じゃないと説明して驚かれる事もあった。

彼女も最初は少し戸惑った顔をしていたが、段々と打ち解けるにつれ笑顔を見せてくれるようになり俺は舞い上がったりもした。


しかし、俺にはどうしても気になる事があった。

時々だが、彼女はフッと遠くを見るように寂しげな顔を覗かせるのだ。

出来ればどうしたのか聞きたい、そしてその憂いを取り除いてあげたい。

そう思っていたが、先にそれを恥を忍びつつ父に相談した際に「人にはね、誰にも話せない悩みがある人もいるんだ。それを黙って見守ってあげるのも愛情だよ。」と言われてしまったのでグッと堪えて側で見守る事にした。


彼女と仲良くなってからは、日々彼女の側で愛を囁くようになった。

恥ずかしそうに困った顔をする彼女、でも側に居る事は許してくれる彼女、時々はにかむ笑顔を見せてくれる彼女に俺は益々惹かれていった。



そして長いようで短かった彼女との学園生活の最後となる卒業式の日の帰り。


「初めて会ったあの日から、ずっと貴女に恋をしています。私にこれから一生、貴女の喜びも、悲しみも、共に分かち合う権利をください。愛しています。」


そう言いながら薔薇の花束を彼女に差し出しすと、彼女は涙を浮かべながらこっくりと頷いた。




あれから2年、今日は俺達の結婚式だ。


一度だけ彼女の幼馴染で『運命の番』を名乗る男がやってきたが、恥ずかしながら俺が我慢出来ずに婚前交渉をしてしまった為「もうお前の番じゃない、俺の最愛の人だ。」とそう告げたら襲われたので撃退した事もあった。

彼女にはその事は話していない。

今でも時々あの寂しげな顔を見せるが、そんな時は優しく後ろから抱きしめてキスの雨を降らせるのが定番になった。

これからも、彼女には心穏やかに暮らしてほしい。

その為の努力なら惜しみなく出来る。


みんなの祝福を受けながら、義父から彼女を託されて二人で教会の絨毯の上を歩く。

彼女のウェディングドレス姿は泣きそうなくらい綺麗だ。


「愛してるよ。」


彼女を見つめてそう言うと、


「私も、愛しています。」


そうはにかみながら返してくれた彼女を俺は思わず抱き上げ口付けると、周りから歓声が上がった。

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