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「さぁて。それじゃあそろそろ、答え合わせといこうかねぇ」


 ヌケヌケとそんな台詞を口にしながら、リニアはつま先立ちで書棚に向けて右手を伸ばす。

 そうして指先を本の上端しに引っ掛けたかと思えば、そのまま左側の一冊を引き抜いて見せた。


 そして振り返り、言う。


「まずはこっちが、最初の第一巻のはずだよ」


 続けて言葉尻に「二人とも、見てごらん」と添え、私とお嬢様の中ほど辺りに、手にした本の背表紙を突き出してくる。


「分かるかな? タイトルの少し下に、一文字が添えられているだろう? さっきも言ったけど、これは『上』を表す単語の頭文字だよ。

 つまりはこれが、物語の始まりと言うわけさ」


 なんて事をほざきつつ。リニアは「その証拠に」と呟きながら本の表紙を開くと、そのまま巻頭あたりを適当に飛ばしめくっていく。

 そして、


「ほぉら、やっぱり。最初の章に『プロローグ』とあるよ。これは正に、動かぬ証拠という奴だねぇ」


 くっそご機嫌ですね、本当に。などと思いつつも、考える。



 上下巻。



 先程リニアが口にした、ちょっと聞いたことのない言葉。

 それを胸の内でこっそりと繰り返しながら考える。


 タイトルの下に添えられていた一文字。

 確かにそれは、紛れもなく『上』の単語の最初の一文字には違いなかった。

 そしてきっとその一文字は、リニアの言うように、最初の一冊目を表す意味で付けられているのだろうとも思う。


 だからこそ、疑問に思えて仕方がない。


(この人、本当にどこの出身なんでしょうか?)


 と。


 リニアはこれを、故郷ではよく見る表現方法だと言った。

 しかし私は、そんな奇抜な巻数表示など聞いたことがない。


 これでも一応は、中級魔術師の端くれだ。

 完璧に習得したとは言えないまでも、多種の言語に対しての造詣の深さには、それなりの自信もあるつもりなのに。


(本当に、よく分からない人ですね)


 などと、少しばかり気軽に脱線していると、


「はい、じゃあどうぞ」


 そんなリニアの声が聞こえて、我に返った。

 見ればリニアが、お嬢様に向けて本を差し出している様子が視界に入る。


「え、は、え、はい?」


 思わぬ贈呈だったのか。


 驚いた顔でたどたどしく声を出しながら、それでもどうにか本を受け取るお嬢様。

 胸の前でおろおろと本を抱えるお姿は、なんとも心もとなげに揺れ動いて見えます。


 そうして。


 本を手放したリニアは再び書棚に向き直り、ゆっくりと右手を持ち上げていく。


 そんな光景を黙って見ていれば、彼女は先ほどと同様の動きで、残っていた右側のもう一冊を書棚から取り抜いた。


 お嬢様の囁くような声がする。


「では、そちらが第二巻なのですね?」


 リニアが答える。


「いいや。多分、第三巻だね」



 せーの。



(んんんんんんっ!)


 もういい加減、何度目になるのか数えるのも嫌になるほどに繰り返された展開に、私は声にならない雄叫びを心の中で響き渡らせれる。

 すると目ざといリニアが、キョトンとした顔で問いかけてきた。


「おや。どうしたんだい、カフヴィナ? そんなにプルプルして?」


 誰のせいだと。


 と、文句の一つも叩き付けてやりたい所ではありますが、でも冷静に。そうです努めて冷静に。

 私は対リニアのベテラン兵なのですからして、これしきのこと。


 そんな思いもあればこそ。

 私は何とか理性の崖っぷちに踏みとどまって、先に聞こえたリニアの発言と向かい合う。


「第二巻ではなく、第三巻なんですね?」


「そうだよ」


「やっぱりそれも、手紙からですか?」


「当然、その通りさ」


 こいつ、いけしゃぁしゃぁと。


「ちなみに、第二巻はどうしたのですか?」


「ああきっと、初めから無かったのだろうね」


 なん、だと?


「せ……説明を」


 どうにかこうにか促す言葉を絞り出せば、リニアが顔面一杯に胸糞悪い笑顔を張り付けて頷いた。どちくしょう。


 そうして再び開催される、リニア主催の高説会。


「私の見立てどおりならね。恐らくこっちの一冊は、連作ものの第三巻にあたるはずなんだ。そしてそれはつまり、こういう事でもある」



 この小説は全三部作になっている。



「ってね」



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