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第96話 悠希と優芽

対策課の現状については、わかっていないことも多い。

それもあって、華月たち5人はチームを組んで聞き込みをする…ことになったのだが。

「…またあたしたち一緒なんだ」

「だねー。ま、オレらでも大丈夫でしょ!」

悠希と優芽の2人組、そして。

「本当にこのチーム分けで良かったのか?紬」

「ええまあ。本当は、一哉にも一緒に行ってもらう予定だったんですけど」

華月と紬の2人組だ。実際は、紬たちのチームに一哉もついていく予定だった。だが。


「僕はこのまま残る。ちょっと調べたいことがある」

「本当にいいのか?それに君じゃ客の対応も出来ないだろ」

「…いや、ちょっと気にかかったことがあって。独自に調べようと思ってる」

こうなった一哉は説得しても引かないと悟った華月は、そのまま残らせることを了承した。

「…それで、こうなったん、ですよね」

「それにしてもうちの社員は説得しても引かないやつばかりだよな!まったく。ここ半年の心労で10歳は老けそうだよ」

「…そういうジョークいうから、一哉とか悠希にああいう扱いされるんじゃないですか?」

「そうかもな……それにしても君も言うようになったな」

見上げる体勢ながらも、その表情からはどこか自分への信頼が満ちているように、紬には見えた。


「…さて。僕達も行くか。とはいえ、調査自体はほぼ情報がないところからだからな。時間がかかることは覚悟しておけよ、紬」

「わかりました。…姉さんに何があったのか。必ず突き止めてみせます」

こうしてそのまま、事務所にいるのは一哉一人になった。

残された一哉は、眉に皺を寄せながら、そっとパソコンを起動した。

「…さて、僕はやるべきことをやる」


「あいつらに出し抜かれる前に、僕が全部やるんだ」


「おー悠希くん、こんにちはー」

「こんにちはー。おじさーん、腰の調子どう?あんま無理すんなよー?」

「おうすっかり元通りだよ!」

「悠希くーん、この間はうちの子と遊んでくれてありがとね。あの子また悠希くんに会いたいって言ってたから、今度もよろしくね」

「えへ、そりゃ嬉しいな!」

「悠希兄ちゃん、今度またカードゲームやってよ~!オレ強いカードゲットしたからさ!今度は負けねえぞ!」

「おう!じゃあオレも本気で勝負してあげるね!」


「…悠希くん、もしかしてこのあたりじゃ人気者?」

街を歩いていれば、悠希に声をかける人物が何人もいる。中には、一緒に歩いている優芽にも声をかける者もいた。

「んー。オレ暇なときとかさ、ちょっとこのあたりの人達のお願い聞いたりとか、遊んでやったりとか、してたんだよ。そしたらこんな感じんなった」

自分の家の近くに住んでいる人たちともあまり交流を持たない優芽にとって、悠希の周りにこれだけ仲のいい人がいるという光景は、かなり新鮮なものに見えた。

「へー。すごいなぁ。あ、そうだ。さっき、困った人の相談に対策課の人達が乗ってた、って話あったじゃん?」

「うん」

「あの人たち、ちゃんと悠希くんみたいに、話聞いてあげられるのかな?」


「優芽ちゃん、対策課の人と会ったことあったっけ?」

「ううん、一人だけ」

優芽が会った『対策課』の人間は、久遠寺奏一人だけだ。

それも、自分たちに向けてかなり高圧的な態度で接してきていた。

鳴海が化けた偽者ではあったが、華月たちが最初は違和感を抱いていなかったのを見るに、あの人物像そのものはそこまで間違いというわけではないのだろう。

「あー、あの人かぁ。あの人なー。オレもぶっちゃけちょっと苦手なんだよな」

「そうなの?なんか、ちょっと意外……」

悠希に『苦手』という概念があるとは思わず、つい優芽は驚いてしまう。


「そりゃオレにだって苦手な人はいるよ!つーか、最初カズも苦手だったし!」

「そういえば色々と正反対だもんね。…むしろどうやって仲良くなったの?」

言われてみれば、頭脳派の一哉と肉体派の悠希とはタイプが全く違う。

優芽はますます、あの2人の人間関係に疑問が浮かんでしまった。

「いやー、なんつーかほんとにいつの間にかって感じだったなぁ。までも、何だかんだであいつオレのこと信用してるからな」

「全然そうは見えないんだけど……」

「オレはそう思ったね。何でかって言われても上手くいえね」

きっと直感のようなものなのだろうか。優芽にはわからない何かがあるのか。何故か、自分でもわからない寂しさのようなものが、優芽の胸を刺すように溢れ出た。


「…優芽ちゃん?」

「んー。何だろうな、やっぱ2人、仲いいんだな、って思って」

「そりゃあそうだけど。なんか様子変だぞ?あれか?もしかして熱あるのか?」

「違うけど!!???」

いきなり額に向けて手を差し伸べようとしてきたので、優芽は慌ててその手をはねのける。

「えっ!?あ、あー…でも。調子悪いとかじゃないなら良かった!でもキツかったら言ってくれよ!な!」

「うぅ……うん、そうする……」

自分の身を案じてそうしていた悠希に、優芽は何も言えず、そのまますごすごと引き下がる。


2人は少しでも対策課に繋がる情報を集めようと、街の人へ話聞こうと動く。

だが、予想に反してほとんど何も集まらなかった。

それもそのはず、市井における対異能力犯罪対策課の知名度は、2人が思っているよりもずっと低かったのだ。

「異能力…犯罪…なんて?聞いたことねえなぁ」

「いくら悠希くんと言えど、流石にそういう冗談には付き合えないね」

取りつく島すらなしという様子で、何も成果が得られなかった。

「あの人たちってそんな知られてなかったの!?マジか~~~」

「あんまり知られてないからこそ、有名になろうって躍起になってんのかもね」

「そうだなー。そもそも、このへんの人達、オレが探偵事務所で働いてるっていうのも、ほとんど知らねえもんな!」


そんな状況においても、悠希はまだ笑顔だった。

「悠希くん、もうちょっと焦った方がいいんじゃない?だって、誰も対策課の人達について、何も知らないんだし…」

「って言っても、焦っても何もいいことねーって。これ、父ちゃんが言ってたんだけど。焦ったら普段出来ることが何も出来なくなるんだって」

「今そういうのいいから……!」

優芽の顔に、焦燥の色が浮かび始める。流石に、成果ゼロで帰るわけにはいかないだろう。紬たちも、一哉も働いているのだから。

それに、何より優芽は、紬には負けたくないという気持ちがまだあった。


「よっ。なんだキミら、アツいね?」

焦る優芽の前に、声をかける人物が現れた。一見女性のようだが、節々に見える骨格や声の低さなどから、おそらくこの人は男性なのだろうかと判断した。

だが、そんなことは、優芽にとってはどうでもよくなる程の事実が、その男から告げられる。

「あ。そういやキミオレのこと知らないんだったね。オレは異能力犯罪対策課の相良広夢。なんて呼んでもいーよ。ところで……」


「キミたち何してんの~?良かったら、オレに話してみてくんなーい?」

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