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第89話 守るための戦い

「優芽!鳴海の手当てを!!」

「わかったけど夏生くんは大丈夫なのっ!?」

「大丈夫だ、まだ動ける!それよりも鳴海を優先してくれ!!」

夏生から指示を飛ばされた優芽が、鳴海の元へと駆け寄る。

「鳴海くん、しっかり…!」

「ああ、優芽か……悪い…しくじった……」

肩口から血を流し、倒れ込む鳴海は、先ほどまでが嘘のように弱っていた。

「血、止めなきゃ……!」


何かを破く音がする。鳴海が顔を上げれば、優芽は服の袖を千切り、血を流す肩口に当てていた。

「いいのか…?その服、高かったんだろ…?」

「別にいいの。服なんてまた買えばいいから。ほら…出来るだけ安全なとこに移動して……!」

こうして2人は、その場を離脱しようと、歩き始めた。だが。

「おっといけませんねぇ。まだ戦いは終わっちゃいませんよ?」

蟷螂の刃が、優芽の元へと迫る。ただでさえ身体能力に欠ける優芽が、その攻撃を避けられるはずもなく、蟷螂の鎌は優芽の身体を裂く……はずもなかった。


「ぐぅぅぅっ!!!」

バチバチと閃く電気が、男のもとへと到達し、男は一瞬動きを止めた。

「藍原さん。ここは私達に任せて!」

「ありがと。…まさか紬ちゃんに助けられるなんてなぁ」

「早く!」

「わかってるよ、もう!!」

不満げに口を膨らませるも、命が助かったことに優芽はそっと胸を撫で下ろした。

「…さっきまで泣いてたくせに、あんなにカッコつけちゃって」

戦場となった学習塾跡を背に、優芽は小さな声で呟いた。


「電気とは厄介ですが、その攻撃には隙がある。アナタ…もしかしてそんなすぐには撃てませんか?」

紬の電気を操る才能<ギフト>は、ある程度力を溜めてからでなければ正確に狙いを定めることも、大きな電力を操ることも出来ない。

よりにもよって、蟷螂はその弱点をすぐに見抜いていた。

「助かりましたよ。アナタのような隙の大きい狩りやすい相手がそこにいて。アナタたちなかなか隙が少ないですからねぇ。とはいえ、アナタは本当に弱い。あれだけの啖呵を切っておきながら、人一人守れるとはとてもグハァッ!!!」

男の紬への挑発は、迫りくる一発の銃弾によって阻止された。


「だから勝ち誇って煽るなっての」

「人の話くらい最後まで聞きなさい……親に習わなかったのですか?」

「自分が満足できなければ人を殺していいとも習ってないけど?」

「減らず口を…ワタシはあなたのような口の減らないガキが一番嫌いで……ぐぅっ!?」

男が背後を見れば、明るい髪の少年…朝賀悠希が、ガッチリと自分を拘束していた。

だが気づいた時にはもう遅く、細身の少年が出すとは思えないほどの力で羽交い絞めにされていた。

「カズ!今のうちに!!」


「うぐっ……ぐはぁっ!ごぼぁっ!!!!」

一哉は直立不動のまま、何度も男を銃弾で撃ち抜く。そのたびに鈍い音と、男の喘ぎ苦しむ声がその場に響く。

「逃げ出そうと思っても無駄だ。悠希の筋力はバカにならない。お前如きじゃ対抗できないんだよ」

「ブハァッ……ハァッ……ァァッ!!!」

「うぐっ……!」

ところがナイフで刺された痛みで、悠希の拘束が弱まる。

ナイフで刺し、その隙に逃げ出すことに成功したのだ。

「はぁっ……。無駄、と言いましたか?油断しましたねぇ……ワタシはお前のようなガキが…一番嫌いなんですよぉぉぉぉぉ!!!!!!」

男はそのまま一哉の方へと飛び掛かる。だが、その突撃は土の壁によって阻まれた。


「麻木…夏生ぃぃぃぃぃぃぃ!!!どこまでもワタシの邪魔を!!!!」

「だからその名前で呼ぶなって、言ってるだろうが!!」

土の礫が何度も男を打ち据える。一つ一つはそこまで大きな傷にはなりえない。だが、既に銃弾を何発も受けている男にとっては、その程度の傷と痛みすら、怯むには充分な威力だった。

そして男の方へ、また、銃弾が一発飛んでくる。


男の身体能力と動体視力なら、その程度の銃弾、避けられるはずがなかった。

だが、男は銃を撃った人間を、認識していなかった。

この程度の人間、心を折ってしまえば何も出来ないだろうと思っていたから。

しかし、その人物はしっかりと、立って敵を見据えていた。

背の高い夏生の陰から放たれた銃弾に、男は気づくことが出来なかった。

「白川、小春ッ……。お前、何故……!」

その言葉は、胸を貫いた一発の銃弾によって、中断された。

気を失った男の目には、自分の事を決意を秘めた目で見据える白川小春の姿が、映っていたのだ。


「はぁ……流石に、7対1は卑怯、だったかな……」

静寂が広がる。あちこちに入ったコンクリートのヒビと、散らばった赤黒い血痕が、激しい戦闘があった痕跡を如実に伝えていた。

「無理もないよ。それに、全員揃ってなきゃ、ここで殺される所だったからね」

「夏生さんもほら、怪我してるので、早いところ病院に行った方がいいです」

「…あはは。それよりもなんだけど。親父っ…いや、麻木栄次郎に、会わせてはくれないかな、久遠寺さん」

夏生は麻木のことをあくまで『麻木栄次郎』と呼んでいた。

「もう、父親だとも思っていないけど、でも。『そうだった』人ではあるんだ。だから、少しくらいは会って話をしたい」

「…わかった。でも、それが終わったらすぐ病院に行ってくださいね」


「んぎゃああああいたいいたいいたいいたいいたい!!」

「じっとしろ。そのくらいの傷なら応急処置で何とかなるから、まずは消毒。傷口から菌入ったら危ないっていつも言ってるだろ」

「だとしてもめちゃくちゃしみてて痛いんだってあばばばばばばば」

ジタバタとする悠希を無理やり押さえつけながら、一哉は悠希の傷の処置をしていた。

悠希も口ではこう言いつつも、強く抵抗はしていなかった。

「というか、無茶する割に油断しすぎ。ああしてくるくらい予想出来たよね?」

「それが出来るのはカズだけだし!あとカズの方も『お前如きじゃ勝てねえよ』とかカッコつけてたくせにって痛い痛い痛い」

「随分口利くようになったな悠希……?」

騒がしいやり取りをしながらも、彼らの心の中にはどこか勝利の喜びのようなものが、空気として漂っていた。

自分たちはいったん、勝ったのだ。


応急処置を終え、止血の済んだ鳴海が、優芽に支えられながらフラフラとした足取りで、小春の方へ歩いてくる。

「…鳴海さん。今回は色々と…ありがとね。なんか、自分と同じ顔の人と喋るの、不思議な気分だけど」

「ああ。その事なんだが」


「悪い。…俺はもう、あの力は使えない」

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