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第81話 希望の光

「ただいま」

「ただいま~~~!皆何もなかった~?」

買い物袋を運んでから、2人は事務所のソファに座った。

「何もなかった…といえばなかったんだけど。藍原さんが寝始めた」

一哉の視線の先には、毛布をかけられすやすやと寝息を立てて眠る優芽の姿があった。

「…じゃ、あんまり大声出すのは良くないかな?」

「そうだね。2人が事務所出てから、安心したのかすごい眠そうにしててさ。そんな感じだったから、坂巻さんが毛布かけて寝かせた」


「気が利くなぁ。あ、どれがいいとかあったら早めにお願い。」

紬はコンビニで買って来たおにぎりとサンドイッチを、長机の上に並べた。

「…あはは、あまりに眠そうだったもので、つい。オレは何でもいいよ。あくまでお客さんだから」

ここまで熟睡しているのなら、すぐに起きることはないだろう。眠っている優芽以外の4人で、朝食を取ることにした。

「聞くまでもないかもしれないけど、そっちは無事だった?」

「ツムツムがチンピラに絡まれてた女の子助けてた」

「よし、どうでもいいな。そんな事件いくらでもあるだろ」

流石に日常茶飯事というほど多い出来事ではないだろうが、そこまで珍しいことでもないだろう。…だが、紬の頭の中には、あの出来事が妙に先ほどから引っかかっていた。


おそらくは小春と似た不幸体質であろう、あの白髪の少女のことが。

そう言われてみれば、気のせいか仕草などもよく小春と似ていたような気がした。

それは紬自身が、小春という存在を強く意識しているからなのではないかと、最初はそう思っていた。

だが、改めて悠希に事件のことを言及されて、あれが単なる偶然ではないという風に、紬の思考は向かってしまっていた。

「久遠寺さん?どうしたの?」

「…あーいや、ちょっと引っかかるっていうか。私の気のせいかもしれないんだけどね」

「それは今触れてる事件に関係のあることか?」

「…多分、ないと思う」


しかし冷静に考えてみれば、小春は今病院で眠っているはずではないか。

今会うことの出来ない存在である小春のことを、無意識のうちにあの少女に投影していたのか。

そういえば、最初に会ったのも小春がひったくりに遭った時だったような……。

「いずれにせよ、皆『何もなかった』っていう話でいいのかな」

「いいと思う。…さっきのは、少し引っかかってるんだけどね」

「チンピラに絡まれてた子が、春ちゃんとどっか似てたって話?言われてみりゃ確かにちょっと雰囲気似てるなーとは思うけど」

いいや、これは言ってしまおうか。悠希の発言で、紬の中に決心のようなものが宿った。


「うん、顔とかは全然似てないし、何なら髪の色なんて白なんだけど、仕草とか喋り方とか、どこか小春に似てるな…って感じで」

「話聞いてると完全に白川さんのこと意識しすぎてそう見えちゃってるだけなんだけど、久遠寺さんってもしかして結構ヤバい人?」

「…九条くん。それは流石にやめた方がいいんじゃないかな」

あまりに直接的過ぎる発言に、思わず夏生も我慢ならなかったのか、制止を入れた。

「普段からそう考えるんだけどね。今、結構ややこしい状況でしょ?だからどうしてもその子が気になっちゃって。しかもその子、石に躓いてこけたとか言っててね」

「こけた?」

「うん。知ってるかはわからないんだけど、小春って極度の不幸体質でね。さっきの子も、例のチンピラ?に転んだ瞬間肩がぶつかったのが理由って言ってた」

「…ごめん。それはものすごく白川さんだ。酷いこと言っちゃったね」

「でしょ?」

少し苦笑しながら、紬は話を進める。


「ああ、それは確かに気になるかも。…それで、鳴海を探すっていう話だったけど、今から連絡してみていいかな?流石にこの時間なら起きてると思うし」

夏生がデバイスを掲げて、鳴海の連絡先へと連絡をする。

…だが、返事はなかった。

やはり、連絡の出来る状態ではないのだろうか。

「……ダメだったね」

「まあ、立場上は向こうの組織の人間なんだろうし、簡単に接触は出来ないだろうね。そうだ、鳴海さんの行きそうな場所に心当たりはある?」

「そういうのは、優芽の方が色々話を聞いてたはず……あ」

何かに気づいた夏生が視線を向けたのは、つい先ほど目を覚ましたばかりの優芽だった。


「あ、優芽おはよう。よく眠れた?」

「…あ、あたしすっごい深く寝ちゃってた?なんか、話し合い始まっちゃってたみたいだけど、何かわかった?」

「春ちゃんっぽい謎の美少女現る、って話してるだけ」

「…何それ」

「今はあんまり考えなくていいと思う。あんまり横道に逸れると余計な思考が邪魔しかねない」

「…うん、わかった」

要領を得ない様子とはいえ、一応優芽は納得した様子を見せた。紬としては、まだあの少女の存在は頭の中に引っかかっている。

しかし、考えた所で答えは出ない。どうにもならない気になるものを、気にしている余裕は今はないのだ。必死に頭の中で、余計な思考を振り切るしかない。


「そうだ。六条鳴海の行きそうな場所、って心当たりある?

昨夜、接触を試みてみよう、って話になったんだけど。どこにいるかもわかんなくてさ」

「鳴海くんかぁ。でも、あの子あんまり普段何してるかとか、あたしにも教えてくんないんだよね」

やっぱり優芽でもわからないかと、紬が肩を落としていたその時。

「でも、あんまり人のいない場所が好き、みたいなことは言ってた。」

それはかなり、大きなヒントなのではないだろうか。


「ってなると、街とか公園の方には行かないだろうってことになるかな?結構大事じゃない?」

「あと結構じめじめしてるところにいるよね、みたいな話は。樹里ちゃんから聞いてたかも」

「何だそれ……」

よくわからない優芽のヒントに、ますます全員が頭を悩ませていると。

「そもそも、鳴海の家まで向かえばいいんじゃないか?住所くらいなら聞いたことがあるし、家には向かったこともある」


「それを先に言ってよ夏生くん!!??」

「ごめん、今思い出したんだよ……ほら、行ったのも随分前のことだし、それに。失踪しているなんてことになったら、家にも帰ってる可能性は低いだろ?」

「でも、帰ってなかったとしても、近くで鳴海について聞き込みとか、そういうのでヒントは得られるかもしれないよ」

夏生の発言は、予想外ではあったがそれでも大きな希望の光だった。


六条鳴海。まさかその存在に希望の光を見出すとは、紬も最初は、思っていなかった。

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