表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/123

第78話 最悪の状況

「ごめん、遅くなっちゃった」

陽が落ち、すっかり外も暗くなった頃に、紬たち3人が事務所へと来た。

「もー、おっそーい!」

「3人ともどうしてたのー?ぶっちゃけ心配だったんだぞー!」

優芽と悠希はソファに寝転がりながら漫画を読み、文句を言いながら紬たちを出迎えた。


「お腹減った~!もう晩御飯の時間だぞー!」

「買ってきてやったから文句言うな。とりあえず、それでも食べながら現状について話す、ってことでいいんだよな?」

「ああ。それにしてもこんなに遅くなるとは思わなかった」

「…で、何してたの」

薄目で見る優芽に対して、夏生が目線を合わせながら話を始める。

「事情聴取だよ。樹里と戦ったってことは話しただろ?」

「そっか…樹里、ちゃんと……」


夏生から事情は聞いていた。

だが、あの樹里と命がけの殺し合いをしたなどという事実を、優芽はどうも受け入れることが出来ないでいたのだ。

「それで、あれから彼女の身柄を警察に拘束した。白川さん銃撃事件の犯人としてね」

色々とありすぎて、もう遠い彼方の出来事だと思えてしまうような、あの銃撃事件。

小春を銃撃しただけにとどまらず、再会した紬や夏生たちにまでその凶弾を向けてきたとなれば、もう有罪は免れないだろう。

ずっと紡いできたはずの『イカロスの翼』の絆は、もう完全に断たれてしまったのだろうか。

優芽は、痛む胸を必死に抑えていた。


「そりゃ、優芽ちゃんからしたら複雑だろうなぁ。オレたちからしたら、あの中の誰かが、いきなり銃向けてきたみたいなもんなんだろ?しかも、大切な幼馴染にさ」

「…そーだよ。悠希くんはさ、そういう。幼馴染とか、いないの?」

「うーん、いないなぁ。オレアホだからなかなか友達とかできなくて。でもさ、友達の大切さっていうのだけはわかるよ?ツムツムも、カズも皆大事な友達!」

「わかってんのかなぁ……」

そう囁くように呟いた優芽の声は、溶けるようにして消えた。


「はっきり言って、状況としては最悪に近い状態だ」

「そっちは華月さんがやられて、白川さんを人質に要求されてる。しかも、当の白川さんは今病院で寝ている真っ最中だ。これがどういうことかわかる?」

「え、春ちゃん病院に戻ったの?」

「そういえばそれも言ってなかったね。さっき、病院に戻ったって報告があった。…めちゃくちゃ怒られたっていうのと合わせて」

「小春ちゃん、ちょっと会わない間にそんな無鉄砲になったの…?」

どこか遠くを見るような目で、優芽は今はこの場にいない幼馴染の顔を思い浮かべる。

「白川さん、昔はどうだったの?」


「いや…その、一哉くんから聞いた小春ちゃんの印象と、あたしの記憶にある小春ちゃんって、全然違うからさ。もっと大人しい子だったよ。

今思えば、近いタイプだったから友達になったんだろうなって」

「いやあんた全然大人しいタイプじゃないだろ」

「昔はもっと地味な子だったの!!!というか、失礼すぎ!」

顔を赤くして怒る優芽に、紬がなだめるようにして手を差し伸べる。

「…ごめん。一哉はこういうやつだから。ちょっと嫌かもしれないけど、慣れて」

「アンタもアンタで大概だな?」

「おいおい待て待て喧嘩はなしだ。それよりも、お互い得た情報とか、これからどうしようかとか、話した方がいい」


「悪いけどナッツン先輩の言う通りだぞ!で、ツムツムさっき言ってたのどういうこと?」

「ナッツン先輩…?」

「悠希はね…気に入った人に変な呼び方する癖あるから。ごめん、慣れて」

夏生は困惑していたが、紬の言葉に納得したような顔を浮かべた。

「華月所長いないと話まとまんないねー」

「普段あの人にどれだけ頼り切ってたのかわかるね……。それで、さっきの話なんだけど。今小春って病院にいるでしょ?でも、人質として要求されてる小春は、簡単に病院からは連れ出せない。ましてや、今朝いきなりいなくなってたから、余計に監視の目は厳しくなってると思うんだよ。何でいなくなってたのまでは…わかんないけど」

「脱走でもしてたんでしょ」


「…いやいくら小春でもそこまではやらないと思う。とにかく、相手の要求は無茶苦茶すぎる。だから…何とかしないといけない」

「無理でしたって言って土下座でもするか?」

「そんなので止まる相手だとは思えない。隙が出来たなとか言って、その隙に攻撃してきたりとかしてきそうでね……」

「あー…やりそ。あたしたちちょっとしか見てなかったけど、いかにも性格悪そうなヤツだったもん」

華月の方も、流石に無策だとは考えられない。だが、どういう手段を使ったのか、彼女に傷をつけ、捕らえたというのは事実だ。

相当に厄介な相手であるというのは、5人にも理解が出来ることだった。


「そういえば言い忘れてたけど、華月所長の他にもう一人おじさんいたじゃん?」

「…ごめん、色々ありすぎて言うの忘れてた」

「おじさん?」

その呼称に相当するような人物が浮かばず、紬たちは頭をひねる。

「華月さんの高校の時の先輩でさ、確か……えっと……」

「麻木栄次郎さんでしょ。さっき会ったばっかじゃん」

「だってオレ人の名前覚えるの苦手なんだよ~~~~!!」

紬は聞いたことがある。悠希が妙な呼び方をするのは、フルネームを覚えるのが苦手で、自分で紐づけ出来る名前をつけないと名前を間違えるから、だと。

麻木栄次郎。全く聞き覚えのない名前に、紬は違和感を覚えた。一哉も心当たりがないのか、どうでも良さそうに悠希たち2人を見ている。


だが、夏生だけは様子が違った。急に立ち上がり、顔中に冷や汗を浮かべている。

「……待ってくれ。何でそこで『あいつ』が出てくるんだよ!?」

「何!?知り合い!?」

「知り合いなんてもんじゃない。麻木栄次郎。……縁が切れた俺の父親だよ。坂巻っていうのは母親の旧姓でさ。俺は元々麻木夏生って名前だったんだ。日本を変えようって政治家にまでなったのに、落ちぶれて無職になって、母さんに捨てられたあのダメ親父が……何で……」

「10年前にニュースがあった。政治家の大量汚職発覚事件。そういえばその中にそんな名前があった気がする」

「汚職っていうのは嘘だ。そんな小さいことするやつじゃないのは知ってる。けど、あの男は恨みを買ってた。……なぁ、『CRONUS』。君たちが相手してるのは、そういう奴らなんじゃないのか?」


夏生の形相が一変する。

「悪いけど、俺はもう付き合ってられない。そんなデカいやつの相手なんて……俺は自由に生きたいんだよ。もう、縛られたくないんだ……」

「夏生くん……」

「優芽、そんな憐れむような目で俺を見ないでくれよ…いっそ軽蔑してくれよ…」

錯乱しているのか、夏生の言うことはまったくと言っていいほど要領を得ない。

数秒置きに、考えている事が二転三転しているようにも見えた。

「坂巻さん。降りるなら別に構わないです。でも、本当に後悔はないですか?もし、あなたが降りればその父親とはもう二度と……!」

「あなたに一体何が……」

「坂巻さん」


それでもあくまで、紬はまっすぐに夏生の方を見据えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ