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第75話 欠けたピース

「こそこそ話してるみたいだけど、別に君たちは死んでもいいんだよね。あ、殺すつもりはないんだけどさ、不慮の事故で夏生も殺しちゃうかもしれないから、あんまり安全圏だと思わない方がいいよ?」

樹里は相変わらずこちらを嘲笑しながら、くるくると手の上で拳銃を弄んでいる。

「こんな風に、さぁ!!」

空を切る音とともに、再び銃弾がこちらへと飛んでくる。

夏生が何とか岩の壁を展開する。

だが、勢いを殺しきれなかった銃弾は、一哉の腕を掠め、袖に赤黒い血が滲む。


「ごめん、防ぎきれなかった……」

「いや、俺のことはいい!今だ!!!!!」

一哉の叫び声とほぼ同時に、青白く眩い電撃が樹里の方へと飛んでいく。

「んぐっ……!!!」

勢いが足りなかったのか、少し怯むだけで済んだようだが、それでもこれは予想外だったのだろう、樹里は何が起こったのかという様子で、こちらを見ていた。

「アンタの能力の欠点が見えた。……もしかして、その能力。『連射できない』んじゃないの?」

そう指摘された途端に、樹里の目の色が変わったように、紬には見えた。

間違いなく、「図星」。一哉の予想は、当たっていたのだろう。


「だから何?それが当たっていた所で、私が銃弾を君たちの急所に当てたら全部終わりなんだよ?そうやって勝ち誇っていたところで」

その言葉は激しい電撃によって打ち切られる。

「久遠寺さん。こいつが戦いの最中、ベラベラ喋ってたのも、声帯模写なんていう遊びで俺たちを脅して遊んでたのも、全部。『次の銃弾を撃つための時間稼ぎ』でしかないんだ」

銃撃の発射間隔がどんなものかはわからない。だが、これは紬たち3人にとって大きなチャンス以外の何者でもなかった。

何より、能力のタネが割れたという事実は、彼らにとって心理的負担を大きく軽減する。

正体不明の敵から、まだ対処できる敵へと落ちた。それだけで、まだ戦える気分だ。


「ひっどいことするよね。私、これでもお年頃なんだけど、火傷の痕とか残しちゃったらどう責任取ってくれるのかなぁ?」

出力が足りなかったか。あるいは根性で跳ね返しでもしたのか。まだ樹里は動ける様子だった。

「小春の身体に穴開けたんだから、むしろ丁度いいでしょ?」

「へー、そういう返し出来るんだ、意外」

「……ごめんね夏生さん。もうちょっと『強いの』行ってもいいかな?」

「それは俺に聞くことじゃない。久遠寺紬さん、貴女自身の判断で決めることだ」


「油断しないと撃つけど!?」

「構わない、ここであなたを倒すだけ!!!」

空気を切る銃弾の音と、バチバチと走る電気の音が交差する。

視界を覆いつくす黒い煙が上がる。

そこに最後に立っているのは誰なのか、一哉の目にも、夏生の目にも、まだ見えない。


-------------------------------------


「麻木さぁん、言いましたよねぇ。あんたはもうこの世にいちゃいけないって」

だらりと垂らした前髪の奥から、粘着質な視線を覗かせた男は、そのまま麻木の方に向けて飛び掛かってきた。

その場に鮮血が飛び散る。誰もが、悲惨な光景を想像するだろう。

だが、頭に思い浮かべていたそれは、いつまでもやってくることはない。

「麻木氏。この男はこっちで対応する。先に逃げててくれ!悠希!財布は渡しておくから会計よろしく!!」

「あ、ああ。新島、新島は大丈夫なのか!?」

「大丈夫だ。何せ僕は……」


「吸血鬼<ヴァンパイア>なのだからな」


セルフレジに代金を突っ込み、お釣りを受け取って悠希たち3人は店を出る。

ファミレスが見えなくなるくらいの場所まで移動した3人は、お互いの顔を見合わせた後、無事を確認して一息ついた。

「ねーおじさん、あの人何なのー?」

「わからない。ただ……まだ私が政治家だった頃、近い身体的特徴の人物を見たような気がする。人相が一致するんだ。雰囲気は変わっていたがね」

「……?」

首を傾げる悠希に、一瞬嘘でしょというような顔をした優芽が、

「昔こんな人見たことある気がする、だって」

「よしわかった!ありがと!」

半ば呆れ顔になりながらも、悠希から向けられる邪心の一切ない笑顔に、優芽は少し複雑な感情を抱いた。


「それで、狙われる心当たりとか、そういうのはある?」

「さあなぁ…私のような下っ端まで、しかも失脚して10年経ってから命を狙われるというのは、よくわからない。ただ、彼らが組織的に動いてるのだとしたら、何か計画を始動するのに私の存在が邪魔なのかもしれない」

「その組織っていうのが、あたしにはよくわかんないんだよねー……。小春ちゃ…あたしの友達が怪我したのとも、関係あるのかな、とか」

今の奇妙な状況を、自分の知っている情報と何とか照らし合わせようとする。ただ、大事なピースが抜けているような違和感。それだけが優芽の頭の中を駆け巡る。

「そ!オレたちの友達、なんか怪しいやつ?えっと?敵?裏切りもん?なんて言ったらいいのかわかんないけど、銃でバーンって撃たれちゃってさ!」


「それはすごく物騒だ……。そういえば、この近くの大学で、発砲事件があったというのは聞いたことがある」

「あー…あれそんな騒ぎにまでなってたんだ……」

小春が銃撃されたという事件。もうそれは、市井の噂として駆け巡る程に大事になっていたのか。

自分の友達のことが簡単に話題として消費されているという事実に、優芽の胸はちくりと痛み始めた。

「それで、その事どこで知ったの?」

「まだニュースにはなっていないのだけどね、滅多に起こらない銃撃事件だ、それはもう大騒ぎだった。近辺の人間なら、ほとんどに知られているはずだよ」

「そういえばめっちゃ大騒ぎだったもんね!」


「私も自分の身に何が起こっているのか、正直ほとんど把握できていない。できれば新島に聞きたい所なんだが、あいつは今あの男と交戦中だろう」

「あ!そういえば、華月さん戻ってきてなくない?」

もう10分は経っているはずだ。もし事が終わったのだとしたら、連絡の1つくらいは入る。

華月がそれを忘れるような人物でないことは、何よりも悠希が知っていた。

「ちょっと心配……戻ってこよっか!?」

「流石にそれはしなくていいと思う…それに、今はあの所長さんのこと、信じた方がいいと思うの」

「そっか…そうだよね……」

不安を口に出せば、それは現実感というものと共に増幅していた。

3人はただ、新島華月の帰りを、待つことしか出来なかった。

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