第73話 過去の栄光
「ねーしょちょー、優芽ちゃん、大丈夫そ?」
悠希、優芽、華月の3名は、失踪した小春を探そうと歩いていた…のだが。
「正直、少し休みたい……」
「優芽ももうあんまり歩けない……」
華月は青い顔をして、優芽は全身から滝のような汗を流していた。一方、体力に自信のある悠希は、顔色こそ悪くなかったものの、不調を訴える2人にひたすら慌ててしまっていた。
「どーする?どっかで休む?このあたりで休める所あったっけ?」
見渡せばほとんどが住宅だらけの住宅街だったが、その中にただ一つ、毛色の違う場所があったのを、悠希は発見した。
「あ、あそこ!ぶっちゃけ廃墟だけど、ちょっと涼しそうじゃない?」
「潰れた商店街だろそこ。涼むどころか……入れる場所すらないんだが……」
「……そっかー。あ、そういや近くにファミレスあったよね?あの猫のロボットが配膳やってるとこ」
悠希の提案に、華月がぴくりと眉を動かす。
「配膳ロボットなんて今時どこにでもいるが……ファミレスは手かもしれないな。それに怪しまれても僕たちならきょうだいで通せるだろう。それに人の目が多い場所なら、やつらも仮にいたとしても手出しは出来ないかもしれない」
「……なるほど!しょちょー頭いい!」
「すごーい。華月さんってちっちゃいけど、ほんとにしょちょーなんだなぁって」
「……君。もしかして僕のことまだ信頼してないか?まあいい。丁度昼食にはいい時間だし、ここは僕が出そう。あと悠希…ちょっとは遠慮しとけよ?」
優芽の方を訝しげな目で見ながらも、華月は悠希の言っていた店を目指し始めた。
悠希の言っていた店は、平日の昼間ということもありほぼ空いていた。
こんな時間にファミレスに来る客などいないのだろう、店員の方も少し不思議そうな目で自分たちを見ていたのだ。
「そういえば今までの流れで当たり前のように外に出てたが、優芽は学校の方は大丈夫なのか?そもそも、通っているのかも知らないのだが」
「んー?学校?ずっと行ってないよ」
「行っていない、と来たか。事情については特には聞かないが、高校は卒業しておいた方がいいぞ。…小春の前じゃ言えないがな」
「春ちゃん、そもそも通えないもんねー。オレだってたまにしか学校行ってないけど」
「成績大丈夫なのかとは言っているんだがな、おかげでそんな調子だ」
学校というものの役割は、この50年程で随分と様変わりしてしまった。
特に高校以降については、行きたいものが行けばいい、別に卒業しなくてもいい、というような価値観が一部の若者の間で流行りつつあり、中学から高校に進学する者の割合は8割程になっていた。
それでも職業選択の都合上、行った方が明らかに得なのはそうなのだが……。
「周りに合わせて生きるの、すっごい苦手でさー。あたしって周りからすごく浮くでしょ?だから、色々やっかみとか、そういう目線とかあってさ」
加えてこの能力があるのもあって、色々と酷いことも言われてきたのだという。
「…悪いのは言うやつなのに、優芽ちゃんが引っ込まなきゃいけなくなるなんて、オレはやだけどな」
「悠希くん?」
「だってさ、そうやって悪口言うやつが正しいわけないじゃん。それなのに何で、優芽ちゃんが遠慮しなきゃいけないのかなって、オレ思っちゃって」
「…悠希。気持ちはわかるが、色々彼女にも事情があるんだ。あんまり下手に首を突っ込むのは」
「でもオレ、納得できないよ。それだけ。それだけ、伝えとくね」
「悠希くん……」
「はぁ、まったく。こいつはすぐこうやって止まらなくなるんだから」
言葉に反し、華月の顔は少し嬉しそうなように、優芽には映った。
まるで、手のかかる息子を見る母親のような目をしていたように見えた。
注文していた料理が届く。
華月はトマトとイカのパスタ、優芽はパンケーキを注文していた……のだが。
「遠慮しとけって言ったよな!?」
「じゃ半分はオレが出すよ!」
「そういう問題じゃ…いや、いいか。どうせ安いし」
悠希の眼前に並べられたのは、ドリアにピザ、そして鉄板に乗せられたハンバーグ。どう見ても1人が食べるどころか、2人分以上の量だ。食べ盛りの少年とはいえ、ここまで食べて大丈夫なのだろうかと、優芽はその食事量に驚愕した。
「こいつ結構腹が減りやすい体質らしくてな。ここの奴らが小食気味なのもあるが、それにしたってだいぶすさまじい量を食う。それでこいつ全然太らないんだ」
「…それは羨ましいかも」
大量の料理をバクバクと平らげる悠希をよそに、二人はちびちびと出された料理を食べ始めた。
「そういや、二人とも大丈夫?歩ける?」
「歩ける歩ける。悠希こそ大丈夫か?主に腹の具合とか」
「ん?大丈夫だけど……」
不思議なことに、あれだけ食べたにも関わらず、悠希の様子は食べる前とほとんど変わっていないように感じられた。
華月はあいつの胃はブラックホールなのか…?などと考えて、店を出ようとしたところ、店の中に座っている人影が見えた。
平日の昼間だというのに、背中をうなだれさせて座るその人物は、やつれた顔を華月たちの方へと向けて来た。
50歳ほどのその男は、明らかに疲れた目をこちらに向けてきていた。
「…?新島?もしかして新島なのか?やけに視線を感じると思ったが」
「新島で合っているよ、麻木先輩。それで、カリスマ生徒会長様がこんな所で何をやっているんだ?」
「何をやっているんだ?はこちらの台詞だけど。相変わらず変わらないな。本当に変わらないな、新島は」
「…まったく。どうしたというんだ。調子が狂うぞ」
「どうしたも何も、職を喪っちゃってね。妻や息子とも離れ離れさ。君の方こそ、探偵の仕事はまだやってるんだろう?こんな無職の男に話しかけている暇はないんじゃないのかい?」
「…えと、このオジサン誰なんですか?知り合い?」
「こら、失礼だぞ。この人は麻木栄次郎といってな。僕の高校時代の1個上の先輩だ。なんと高校じゃ生徒会長をやっててな。まあ、生徒会と言っても大したことはやってなかったが…それなりに人気が」
「やめてくれないか新島。それは過去の話だ」
悠希も優芽も、この人物に対して同じような印象を抱いていた。
華月が話しているような印象と、今の印象が『全く一致しない』。
「僕が同窓会で聞いた話じゃ、先輩は政治家を目指しているとか言ってたが、一体何があった」
「ああ。夢は叶ったさ。だが……」
「夢が叶ったとて、それを失わないってわけじゃないだろう?」




