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【更新無期限停止中】イクス・アイズ~未来が見えるので、すべてを救ってもいいですか?~  作者: 八十浦カイリ
第三章 ぼくたちは空を翔びたかった
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第57話 運命と責任

その夜、小春の元に一通の電話が来る。

デバイスに表示されたその名前は、「高橋樹里」。あの『イカロスの翼』で出会った背の高い女性だった。

自分に何で樹里が用があるのか、疑問に思いながらも小春は電話を取る。

「もしもし、おっ。早いね。この時間ならもしかしたらもう寝てるかもって思ったんだけど」

「もしもし。えっと、樹里さんですか?あはは…あと、1時間くらいしたら寝る時間ですけど。でも、まだ大丈夫ですよ」

時刻は22時。確かに、下手すれば寝ている時間であるし、仕事の後で疲れた時などは、このくらいの時間にはもう既に寝ていることもあった。


「それで単刀直入に言うと。君にお願いがある。」

「お願い…ですか?」

夏生や優芽には頼めないようなことなのだろうかと、首を傾げながら小春は樹里の話を聞いていた。

「この事は誰にも話してないし、あくまで噂話レベルのことなんだけどね。『イカロスの翼』に、裏切り者がいる」

「裏切り者……」

突如出た穏やかでない単語に、小春は目を剥く。そんな小春に、樹里はあくまで冷静な態度で話を進めた。

「どうも夏生関係で彼のことを探ってるやつらがいるみたいでね。彼、ああ見えていわゆる『やんごとなきご身分』だって言われてるくらいには、色々周りでトラブルが多いやつなんだ」


坂巻夏生という人物の人物像について、小春が詳しく知る部分は少ない。

異性で年齢もかなり上ということもあるのだが、何ぶんあのようなタイプと接する機会は、小春にとっては少なく、彼のような人物に接することに、小春自身があまり慣れていないのだった。

だが、トラブルの渦中に多く巻き込まれるという点においては、少しだけ共感するものもあった。

「自由自由って叫ぶのもそれが理由だったみたいでね。それで、さっきは裏切り者って言ったけど、そんな物騒なもんじゃない。ただ、何者かが夏生を監視しているかもしれないって話なんだよね」

「監視……一体、何が目的でそんなことを…?」

「大体察しはつくけど、はっきりとした答えは出せないかな。断言するとよくないかもしれないし。…ただ」


電話の奥で、樹里の表情が変わったように、小春には思えた。

「君が見たらしい未来というやつが、どうにも気になって仕方ない」

小春は急に、背筋が冷えるような感覚を味わった。

そうだ。あの時、自分は確かに見ていた。

優芽と樹里が、死んでしまうというような未来を。

「あの時君が見たのは私と優芽が死んでしまうという未来だ。しかも、その予知は絶対に当たるという話じゃないか」

「…はい。一体、何がどうなってそんなことになるのか。私にはまったくわからないですけど」

「いやぁ、本当に困った。何せあなたはこれから死にますと言われて、はいそうですかなんて納得できるはずがない。ただ、君がそれを私たちに伝えたということは、どうにかしたいという気持ちはあるんだろう?」


考えた事もない視点だ。

確かに自分は、予知が見えたという話は、樹里に伝えている。

ただ、そこからどうしようということまでは、考えていなかった。

痛い所を突かれて、針の筵の上とはまさにこのことだろうか。ただ、そこから逃げようなんていうことは、それこそ考えられなかった。

「優芽ちゃんのことは、旧友だし、それこそ、今のあの能力の影響が残ってるのか、すっごく、愛おしい子だな、って思うんです。」

「あの能力は一朝一夕じゃ抜けないからね。それこそ、まだやられちゃってるかもしれない」

「それでも、何となくその気持ちって、嫌じゃないんです。えっと…話を戻します。樹里さんはこういうことが言いたいんですよね?予知を見た、それを伝えたということは、それの解決に出来れば協力してほしいって」


「理解が早くて助かる。とはいえ強制はしない。君がどうしたいか、その上で考えて欲しい」

とは言ったものの、事実上の脅しに近かった。

協力しなければ、自分たちを見殺しにすることになるぞ、と。

同時に、自分は人の運命を預かっているという重みが、小春の胸に強くのしかかる。

今まで、その予知で自分のみならず、紬たちの命も何度も救ってきた。

もし、運命を変えられる者がいるとしたら、自分しかいないんじゃないか。

「……あの。一つだけいいですか」

「?」


「お金、持ってます…?」

「…えっと、それはどういう……?」

「あ、すみません、えっと、話が長くなるんですけど。まず私の職業から……」

「職業…君、高校生とかじゃなかったの?もしかして、年上だったかな」

樹里の見立てそのものは、決して間違ってはいない。何故なら、彼女はまだ16歳だからである。

ただ、現在白川小春は高校生でもなければ、ましてや学生というわけでもない。

「私…探偵なんです。いえ…正確に言うとまだ助手バイトなんですけど。だから、うちに依頼するという形でしたら、大丈夫です」

これは、小春が自分自身、今この仕事に誇りを持ち始めている、そして紬や華月たちを信頼している証左でもあった。


「なるほど、でもいいのかい?仕事という形になっちゃったら、君はその事務所の人達だって巻き込むことになる。それに、責任だって大きくのしかかる。どのみち、引き受けた君の責任は重くなる」

「構いません。紬さんも…所長も。他の人達だって、皆頼りになるし、絶対に一緒にいていいって思える人達なんです。

私一人ではどうにもならないことでも、皆が助けてくれるんです。だからこそ……私は人を頼りたい、って思ってます」

「…そうか。君の言いたいことは理解した。とりあえず、事務所の名前と住所だけでも教えてくれるかな。明日にでも向かうよ」


小春が事務所の住所と名前を教えたると、「ありがとね。これで、何とかなりそうだ」という樹里の声とともに、電話が切られる。

「はぁ……っ、緊張、した……っ」

思い切り啖呵を切った後だったからなのか、ぐったりとその場に倒れ込んでしまう。

「大丈夫かなぁ……そう、だよね。大丈夫…だよね」

ここでふと彼女は、救えなかった人物が一人いたことを、不意に思い出してしまったのだ。

何故、あの人物だけが彼女の『予知』から外れてしまったのだろうか。


どうにもならないことを考えてしまった時の夜は、長い。

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