第53話 最上位の才能
「いやほんと、いきなり研究室でお客さんと何してんのかなって焦ったんだって」
樹里に呼ばれた青年は、再び研究室の方へと戻ってきていた。
「ほんとびっくりしたんですよぉ~?小春ちゃんってばいきなりあたしのおっぱい掴んできて」
「アンタはちょっと黙ってて」
紬のこれまでにないほど怒気を孕んだ声に、思わず小春の方も縮みあがってしまっていた。
「小春?ほんとに事故なんだよねあれは?」
「信じてください本当に事故です」
小声ではあるが、急に普段のトーンに戻ってきた紬に、針のむしろに座らされているというような気分はこういうことを言うのかと、ひたすらに震えていた。
「それで、君が新入りかい。さっきは変なこと言って悪かったな。オレは坂巻夏生。オレたち『イカロスの翼』の創設者にして、一応リーダー…ってことになってる」
「もしかして…樹里さんの幼馴染ってあなたですか?」
「正解。ってか樹里の奴そこまで喋ってんのか。別にそのくらいは『自由』だからいいけどよ」
やや長く伸ばした金髪を掻きながら、青年…夏生は話を続ける。
「というわけでこのサークルはオレたち才能<ギフト>を持つ者達が、真に自由に生きるためのサークル…っつっても、ほとんど遊んでばかりだけどな。優芽が見出したってことは、君もなんか持ってんだろ?力」
「……っ、はい!」
いきなり自分の方に明らかに視線が向けられ、小春は思わず背筋がピンと立つ。
「そんな畏まらなくてもいいのさ。オレは別に君を怖がらせようってんじゃない」
「その態度が逆に怖いんじゃないの?」
ぼそっと一言呟いた鳴海のそれに、夏生は露骨に顔を青くした。
「…えっ、マジ……?オレだいぶ背高くて怖がられやすいから、怖くないですよーっていうのいっつもアピールしてんだけど…マジ……?」
「殊更にアピールするのかえって印象悪いってさ。鳴海にそんなこと言われてたの覚えてる」
「そういうのは直接言えよ~~~~!?」
「あはは…」
いつの間にか小春を放っておいてそんなことを話し合い始める4人に、思わず小春も紬も苦笑の顔を浮かべていた。
「さて、だいぶ話が逸れちゃったけど。ここに入る条件は才能<ギフト>を持つ者、ただそれだけ。つまり…君の力がどんなものか教えてほしいってわけ」
樹里が真剣なまなざしで、小春の方を見る。
「私が代わりに説明しますけど、小春の能力は少し複雑というか……。というか、優芽さんから聞いていないんですか?」
「うーん、小春ちゃんが能力持ってるって噂は聞いてるけどー、どんなの持ってるかまではぜんぜーん」
「優芽…言われてみれば君なら知ってると思ってたよ」
「というよりー、そこのお姉さんが言う通りややこしいんだよねー。小春ちゃんの方から説明おねがーい」
突然渡されたパスに少し困惑しながらも、小春はゆっくりと口を開く。
「私は、『未来』が見えます」
その言葉に、夏生たち『イカロスの翼』の面々が、目を剥いて驚く。
「へ、へーー…。小春ちゃんそんな嘘つく子とは思えないけどー?ほんとなのー?」
「嘘じゃないよ。と言っても、自分や周りの人に来る『危険』を察知できるだけで、好きなだけ未来が見えるわけじゃない」
「ふーん?ってことは、今ここですぐに使えるってわけじゃなさそうだ。証明は出来ないな」
鳴海がやや冷たい眼で小春の方を見るが、その視線にはどこか既視感があった。そう、「CRONUS」に初めて来たときの、一哉の目線のそれだ。
「おいおい鳴海、うちにはそういうのはなしだって言ったろ?意地の悪いこと言うもんじゃないぜ?それに……」
夏生が小春の顔を、覗き込むようにして見る。
「未来が見えるなんてこと、冗談でも言う人間はそういない」
「だよね……。今までそんな能力を持った人、私も見た事ないし」
「そういえば……。自分でも思うんだけど、これってそんなにすごい能力なんだ…?」
ただ、小春は何となく疑問を口にしてみた。だが、周囲のリアクションは予想外のものだった。
「私達の大学ではこんな噂話があってね。才能<ギフト>にもランクみたいなものがあるんだって」
才能<ギフト>のランク。小春は聞いたことがなかった。紬もよくわからず、首を傾げている。
「まず、動物や他の生き物でも出来るようなことを出来る才能<ギフト>は最も低いランクに属する。私の力はものすごく集中して物を標的に当てられるって力だけど、これはどうも最下位のランクらしい」
樹里は真剣な眼差しで2人を見ながら、続ける。
「次に、超常現象を起こす才能<ギフト>。代表的なのは炎を操るだとか冷気を操るだとか。これらは最下位の才能<ギフト>より数が少ないし、使い道によっては危険だ。その次に、体質そのものが常人と変わってしまう才能<ギフト>。」
声色が変わったのを見て、2人はごくりと唾を呑む。
「…うちの大学の教授が話しててね。これ以降の才能<ギフト>は『神の力』だとか呼ばれることもあって、とても希少かつ強力なものらしい。確か、特異体質とか言ったこともあったかな?」
「樹里はこの大学で才能<ギフト>に関する講義を受けててな。才能<ギフト>に関することなら、今わかってる範囲なら大体知ってる」
「あはは、そんなこと言われると照れるなぁ。そして、最上位の才能<ギフト>は。『運命に干渉する能力』。」
運命に干渉する。小春の力は、動物的な直感でもなければ、超常現象を起こすものでもなく、まして特異体質でもない。
なら、樹里の言うそれに該当する可能性が最も高いと、彼女は直感で理解してしまう。
「私はその運命に干渉する能力というものに会ったことがない。それほどまでに貴重な能力だ。正直、噂でしか聞いたこともなかった。教授は一人会ったことがあるって言ってたけど、その教授っていうのが今年で55歳になるらしくてね。…まあ、半世紀以上生きてる人間ですら一人しか会わない程に珍しいってことだ」
「小春さん、って言ったかな。私は君の才能<ギフト>にすごく興味がある。できれば、たまに顔を出す程度でいい。私達に君のことを教えて欲しい」
真剣な目で見る樹里に、小春は思わず流されてはいと答えそうになってしまう。それを察したのか、紬が前に出た。
「小春自身がどうしたいのかにもよると思います。それに、今ここで決めるともなれば、熟考する間でもなく決めてしまうことになる。それは少し、そちらに都合が良すぎないですか」
「……君みたいな人なら、そう言うと思ってたよ。そうだ、君。フルネーム聞いてなかったよね」
ニコニコと笑いながら、樹里は紬の制止を受け流した。
「…白川、小春です」
「白川……白川……?それは本当?」
「もしかして、私の苗字に何か心当たりが…?」




