第49話 想定外の再会
「ね~、あたしのこと覚えてる~?」
そう甘ったるい声で小春の方に話しかける少女は、艶のある黒髪をツインテールにした、幼さと色っぽさを両方兼ね備えたような、どこか不思議な雰囲気だった。
身体中にリボンがあしらわれたその衣服は、明らかに「幼さ」を強調した様相だが、くねくねとした仕草や、妙に豊満な身体からは、大人っぽい色気も感じられた。
それに、香水か何かつけているのだろうか、彼女からは非常に甘い匂いが漂っていた。
小春は、そんな外見の少女に全く心当たりがなかった。
もしかして小学校や中学校の同級生にいた…?と脳内で検索をかけようとするが、こんな強烈な容姿の同級生がいたなら、流石に卒業してから何年も経っていても記憶に残っているはずだろう。
「えっと…すみません。どなたですか?」
もし本当に知り合いだったらごめん、と頭の中で謝りつつ、でも本当に心当たりがないので、どうしたらいいのか小春にはわからなかった。
「え~?本当に覚えてない~?」
「すみません本当に記憶にないです!!あと道中で身体押し付けるのは、その!誤解されるので!!」
少女の言動と、胸元のあたりに感じる妙に柔らかい感触に、小春はひたすら困惑していた。
「誤解~?ねえ誤解って何~?もしかして小春ちゃん」
「失礼ですがお名前を教えてはいただけないでしょうか!!あと逃げたりするわけじゃないんで離してください!!!」
何やら妙なことを言い出したので、無理やり少女を引きはがす。実際、こんな所、紬に見られたら絶対変な誤解をされるだろうし、仮に一哉や華月にでも見られたとしたら…考えるだけで、小春は顔が赤くなってしまった。
「藍原優芽だよ~。それでも心当たりない?」
藍原優芽。そんな名前の人物にやっぱり心当たりはなく、まだ小春は頭をひねっていた。
「あ、ピンと来てない感じだ~。じゃあ。あたし。お父さんとお母さんが離婚しちゃっててさ。笹山優芽って名前なら、わかる~?」
数秒頭をひねった小春はようやく思い出す。確か、小学校のどこかの学年で、出席番号が近かった女の子に、そんな名前がいたような……。
ただ、小春の記憶にある笹山優芽は、こんな全身から甘ったるさを振りまくような印象ではなく、眼鏡をかけ、背筋も少し丸まった地味な女の子だったような……。
「あ!思い出した思い出した!優芽ちゃんだよね!小学校の時の…全然印象違うからわかんなかった!」
記憶にある笹山優芽の人物像を思い出してみたが、目の前の藍原優芽とはどうしても結びつかない程の様変わりに、やはりますます小春の困惑は増していった。
唇の下にほくろがあることに気づいてから、やっと同一人物であることを認識できたほどだ。
「も~。そこまで言わないとわかんないなんて、ひどいや~」
「正直これだけ変わってたらわかるわけな……。それで、どうしたの?それに、何でわざわざ私に……?」
小春は、いつか華月にこんなことを言われたことがある。確か、ある依頼人から持ち込まれた事件を、紬たちと共に活躍していた時のことだっただろうか。
『僕の知り合いが詐欺の被害に遭ったことがあってな。そのきっかけが昔の同級生から急に電話がかかってきたことだったんだ。そいつは随分はお人よしでな。その同級生がどうにも胡散臭いグループに入ってたというのが見え見えだったというのに、人助けのつもりで随分金をだまし取られてしまっていたらしい』
続きは確かこうだ。
『だから君たち。特に小春と悠希。お前たちも気をつけろ。急に昔の知り合いから声がかかってきた時は、疑ってかかれ』
優芽とは小学校の頃、何度か話をした記憶はある。それこそ、友達と言ってもいいような間柄だった。そんな彼女を疑うのは心苦しいが、何せいきなり道中で抱き着いてくるなどという事をやってきたくらいだ。
何か目的があって、自分に接触してきたんじゃないか…?
そんなことを、考えざるを得なかった。
それに、ここまで様変わりした理由というのも気になる。一体、会わない間に彼女に何があったのだろうか。そんなことを考えていると、つい彼女に対する不信感のようなものが、芽生え始めてきてしまった。
「ぼーっとしてる~。もしかして、昔よりずーっとカワイくなったあたしに、見とれちゃった~?」
優芽はそう言いながら、大きく膨らんだ胸元を見せつけるような仕草を取る。先ほどから、小春の視線は、やけに優芽の方にひきつけられてしまっていた。
「うん、そういうわけじゃないんだけど…。ごめん、私急いでて。早くおうち帰んないと…」
「え~?ちょっとくらい話聞こうよ~?そ・れ・に、小春ちゃん、あたしの方、さっきからずーっと見てるでしょー?」
まるで図星を突かれたような気分だ。その心を覗き込むような言葉に、ますます目が離せなくなってしまう。
「あたしさー。高校の先輩に誘われて、ちょっとしたサークル?グループみたいなの入っててさ。小春ちゃんも興味ない~?」
興味がないと言えば嘘になる。それ以上に、どうも心臓の鼓動が早鐘を刻むように加速している。
「あ、あの……。どういうグループかだけ、教えて、くれ。ませんか……」
言葉がたどたどしくなってしまっていることに、小春は気づけなかった。さっきは何とか振りほどこうとしたのに、何やら今は、優芽と別れるのがとても惜しい。あれ?私、何で早く帰ろうと思ってたんだっけ?
そんな考えが、小春の頭の中を埋め尽くした。
「どういうって言われても、才能<ギフト>を持つ子達が、よりよく『自由』に生きていくための集まりって感じ~?怪しいグループってわけじゃないよ。先輩たちも皆優しいから」
「……うん。えっと……」
もし、そこに入れば優芽と一緒にいられるだろうか。いや待て。それよりもまずは家の用事を……。
「もしあれだったら連絡先と住所あげよっか~?といっても今はあたしのだけだけど~。」
「……あ!うん。そうだね!!」
「今すぐにでも決めなくていいんだよ~?明日でいいの。小春ちゃんなら、きっとあたしたちのためになってくれるって思えたから」
何故かそう言われたことが、小春はたまらなく嬉しくなった。顔が真っ赤になって、優芽の目の方をまっすぐ見ることが出来なくなってしまっていた。
「えっと…明日。とりあえずそっちに連絡してから、向かいます」
これ以上見つめていたらどうにかなってしまうのではないかと不安に思いながら、連絡先と住所を受け取り、改めて小春は家に戻ることにした。




