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【更新無期限停止中】イクス・アイズ~未来が見えるので、すべてを救ってもいいですか?~  作者: 八十浦カイリ
第三章 ぼくたちは空を翔びたかった
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第48話 久々の帰り

2096年9月。夏の暑さもピークを過ぎ、未だ暑さが続くものの我慢できる程度には落ち着いてきたその頃。

「久しぶりだ~~~~~!」

白川小春は、実に1ヶ月半ぶりの我が家へと足を踏み入れていた。

新島由良との戦いから、特に大きなトラブルもないまま、平和な日々を過ごしていた彼女は、散発的に事務所に来る依頼をこなしつつ、これまでよりは各段に安定した生活を送っていた。

そして、新しくエアコンを買うまでという条件付きで、久遠寺紬の元に居候をしていたのだが、このたび遂に新たなエアコンが手に入ったため、彼女は久方ぶりに戻ってきたのである。

「それにしても…変わらないなぁ……」

大家に事情は説明していたため、ところどころ掃除はしてもらえていたようで、埃が積もっていたなどということもなく、懐かしい我が家の匂いに、小春は包み込まれるような安心感を覚えた。


「よしっ!とりあえず今日は……」

ゆっくり休もうとは思ったが、改めて一人暮らしに戻った以上、これまでのように紬が助けてくれるなんていうことはもうない。時々自分も手伝ってはいたものの、居候になっていた時と同じようには出来ないのだ。

決心した小春は、とりあえず晩御飯でも作ろうかと、キッチンの方へと足を踏み入れた。

「あっ……晩御飯、どうしよう……」

何も入っていない空の冷蔵庫を見つめて、小春はしばらく途方に暮れていた。


現在の時間は17時30分。エアコン取り付けの業者が19時30分頃には来るだろうということを考えると、今すぐにでも何か買い物をしなければ、今日食べるものはないだろう。

ネット通販というのも考えたが、ものの2時間以内に届けてくれる通販なんて、どれも送料で高くついてしまうので、今の小春にはなかなか手が出せない。

迷った小春は、すぐに着替えをして家を出ることにした。

アパートからスーパーマーケットまでは約20分。そこまで時間のかかるような遠い所ではない。…のだが、小春にはある一つの懸念があった。


不幸体質。

どういうわけなのか、白川小春は頻繁に何かのトラブルや事故に巻き込まれてしまう体質なのである。

ひったくりに遭遇したり、荷物を置き引きされたりなどといったトラブルには、もう数えきれないほど遭遇した。

給料を引き落とそうとしたら、銀行強盗に遭遇したことなども、記憶に新しかった。

そう、家から出られてスーパーまで辿り着くのに、また何か『不運』に巻き込まれない可能性など、万に一つもないとまでは言わないが、充分に考慮しておくべき事柄だった。


「急がないと!」

誰か知り合いに会わないことを祈りながら、適当に着る服を選び、小春は飛び出すようにアパートを出た。

出来ることなら、業者が来る前に買い物を終わらせたい。もし間に合いそうにないなら、今日の晩御飯は抜きにしてでも早く家に帰って業者が来るのを待つ。

これが小春の考えたプランだった。できれば、また『不運』に遭遇しないことを祈って……。


見慣れた街が、まるで試練の場所であるかのように思えるような緊張感。

トラブルに見舞われるのはいつものことだが、何故か今日に限っては格別な緊張感があった。

すっかり、紬の元で暮らすことに慣れてしまって、自分の家での感覚を忘れてしまっていたのだろうか。

足元にも空の上にも、そして目の前にも注意を配りながら、小春は見慣れているはずの道を進んでいく。


途中おそらく飲酒運転だろうと思われる車が突撃してきた時は、<未来視>の影響で避けられたとはいえ、小春は自分が車に轢かれる未来を見て、思わず食欲が少し落ちた。

石に躓いて頭を打った未来を『視た』時も、一瞬視界が血だらけになって何が起きたのか理解できなかった。

とはいえ、それ以外に大きなトラブルもなく、スーパーには無事辿り着くことが出来た。

白川小春にとって、車や自転車が自分に向かって走って来ることくらい、1週間に1度や2度あるくらいには日常茶飯事なのだ。

きっと普通の人はこんなに轢かれそうにはならないのだろう。もしこんなに車が危険だったら、道で車が走っていることなんてないはずだ。


晩御飯を買いに来たとはいえ、とりあえず外に出ることだけしか考えていなかった小春は、何を食べようかということに悩んでしまった。

今クレジットカードの中にある金額は、決して残り多いものではない。元々あんまり贅沢をするつもりはなかったが、それでも考えておかないといけないのは確かだ。

せっかく仕事の給料が入ったといっても、エアコンという高い買い物をした以上、未だに切り詰めた状況ではある。


結局、最初に居候を始めた日に食べたレトルトカレーの味が忘れられなくて、それを選んでしまった。

せっかく自分の住み家に戻れたはずなのに、妙にまた紬に会いたくなってしまっているのは、少し虫が良すぎる話かもしれないと、頬を叩いて自分を律そうとした。

正直迷惑もかけただろうし、どうせまた明日には会えるのだから、今そんなことを考えなくてもいいんじゃないかと、小春の感情はぐるぐると迷走していた。

(なんか…私って気が付いたらすぐ紬さんのこと考えてる……?)

そんなことを思いながら、レジまでレトルトカレーを持っていき、無事に買い物を終えて帰路へと着くことにした。


外に出れば、今は18時を過ぎているというのに、まだまだ空は明るかった。

指定の時間まではあと1時間以上はある。少し気をつければ、無事に家につくことは容易いだろうと、小春は少し急ぎ足で道を歩いていた。

ふとした瞬間に自分の恰好が目に入って、急繕いで用意した服装であることを再認識させられてしまう。

今度からは、本当に余裕を持って行動しようと、小春は改めて身を引き締めることにした。


アパートまで5分くらい。家の近くの坂を下っていたところ、小春の視界が急に切り替わる。

ああ、やっぱり油断しちゃいけなかった……。と打ちひしがれながら、その景色を見る。

そこには、自分に向けてどういうわけか体当たりをしてくる人間の姿があった。

あまりにも意味がわからないその光景に、景色が切り替わった後も小春はそれに対応できずにいた。


「小春ちゃーーーん!!!!」

「うわっ!?」

結果、それを真正面に受けてしまった小春は、あろうことか道の真ん中でその人物に押し倒される恰好になってしまった。

「久しぶり!ね~。あたしのこと覚えてる?」

小春が顔を上げると、記憶にない少女が、懐かしそうな顔で自分の方を見ていた。

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