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第40話 『新島由良』

悠希は、どことなく彼女の視線、あるいは表情か。そこから、ただならない雰囲気を感じていた。それは悠希にとっては恐怖感となり、全身を支配し、震えとなって表に出ていた。

「じゃあ、オレの方からも聞いていいかな」

だが、怯まずに言葉を返す。こんなことでビビっていたら、一哉に笑われる。そんな一心を背に、目の前の女性をしっかりと見据える。

「新島華月、っていうの。もしかしてお姉さん?」


「悠希くん危ないっ!!」

直後、背後から叫ぶ声が聞こえる。それは小春によるものだった。その声に反応し、悠希は少し横へと身体をよじる。直後、何かが炸裂するような音が、悠希の足元で轟いた。

「驚いたわね、私の才能<ギフト>による攻撃、簡単に予測できるものじゃないはずだけど」

「今のは…火の玉か何か、オレの方に投げたんでしょ?当たってる?」

「正解。でも次はないわよ。その女の子がどういうからくりを使ったのかは知らないけど、もしかしたらまぐれだったかもしれないでしょ?」


「悠希くん!」

「わかった春ちゃん!!」

今度は悠希の足元ではない、頭上近くで炸裂した。悠希は確信していた。会話の最中に、小春の未来視が作動したのだ。

「…よくわかったわね、そこの子。一体どんな才能<ギフト>なのかしら?ねえ、私に教えてくださらない?」

「そんな事よりも一つ質問に答えてください」

「何かしら?今なら一つだけなら何でも答えてあげるけど?」

「あなたのお名前、『新島由良』って言いますよね」


直後、小春の視界の中に、2つ程の『火の玉』が飛び込んでくる。命中すれば、間違いなくそれは大きな傷となるだろう。

しかし、『視えて』しまえばそれは容易い。炸裂する方向を見て、それに当たらないように身体をよじればいいだけの話だ。

少し髪が焦げてしまった気がするが、それでも当たらなければどうということはない。

「正解。それにしても本当にどういうからくりなのかしらね。まあ、あなたのことを褒めてあげる代わりにもう一つだけ教えてあげる。私の才能<ギフト>は『火』を操る才能<ギフト>よ」


「火というのは本当に素晴らしいものなの、人間にとって最初に扱えた文明の始まり。そして……」


同刻。路地の中で、4人の男女が話をしていた。

「それで、その新島由良というのは、どういう人物だったんでしょうか?」

「ああ。なんというか…常に追い詰められていて、何か考え込んでいることが多い人だったねぇ」

男…遠藤正人は語り始める。

「まあ、私から見ればたいそう正義感の強い人物だった。だが、その正義はどこか暴走するような所もあった。だから、陰で彼女はこう呼ばれていた」


「まるで火のような女、とね」


「そして……。焼死というのは、人間が最も苦しく死ぬ死に方。人間にとって光でありながら、人間を最も苦しく死に至らしめる存在なのよ……!」

女は妖しく笑った。その笑顔は、まさに予知で見た未来そのものだった。

小春は理解する。この女性が…新島由良が、まさに自分たちの居場所をこれから燃やし尽くそうとする、下手人だということに。

「随分とイカレちゃってるみたいだけど、出会い頭に人を燃やそうとしてくるなんて、真っ当な人間のやることとは思えないね、オバサン」

「あなたの方こそ口の利き方がなっていないんじゃないかしら?ああでも、そういう生意気な子供を黙らせて、わからせてやるのも案外良いかもしれないわね……」


「一哉くん!」

「よっ、と……!やっぱ、アンタの未来視っていうの、本物なんだな」

「だから、ずっと本物だって言ってるのに…!」

まだ信じられていなかったのか。そんな事実に、小春は思わず口を尖らせた。ただ、今はそんなことに不満をこぼしている場合ではない。

銃を抜き、改めて女性…由良に対して、対峙することを決めた。

「今ここでアンタを撃っても正当防衛認められるよね、だったらやらない理由はないか」

渇いた音が空に鳴る。一哉の放った銃弾はそのまままっすぐ、由良のことを貫こうと向かっていく。


だが、それが由良を貫くことはなかった。

由良の眼前に、大きな炎の壁が一瞬展開され、そして銃弾を防いだのと共に、消失したのだ。

「待ってこの人、銃が効かない…!」

「銃…?ああそうね、人を殺す武器としてはかなりよくできたものだけど、そんなもの私の火に比べれば最早オモチャよ」

絶望的な戦力差だった。

小春は一哉の才能<ギフト>を知らない。しかし、ここで銃を持ち出してきた時点で、彼に何か戦闘のできる才能<ギフト>がないことは、明白だった。


「まずいなー、いつもの恰好じゃないから、オレも戦えねえや」

「広夢さん…?それどういうこと?」

「あー、オレの才能<ギフト>って服を媒介にしてるんだけど、今のこの恰好じゃ使えねえの。だから、今のオレ、戦力外」

「そんな……!」

一哉に続いて、広夢も今の戦いでは、どうやら頼りにならないらしい。絶望感は、ますます大きく広がっていく。

「つーわけでさ、ちょっと着替えてくるわ。それまで時間稼いどいて」

「相良さんって言ったっけ?逃げたら一生恨むからね」

「オレがそんなことするわけないでしょー!?ま、せめて信用くらいはしてほしかったな!」


そのまま、戦場を離脱する広夢を、小春は黙って見送っていくしかなかった。

「3対1だけど、才能<ギフト>はこれを覆すものでもある。本当、才能<ギフト>って素晴らしいわよねぇ」

「ああそうだな……もし、オレに才能<ギフト>がなけりゃ…このあたり、どうにもなんなかったかもなぁ!!」

突如、由良の背後から何かが飛んでくる。それは人の脚だった。思わず反応の遅れた由良は吹き飛ばされ、道に転がされた。


「この……!」

「へっへーん、ま。オレいわゆる馬鹿力ってやつらしくてさー。カズのやつがよく褒めてくれるから、この力気に入ってるわけ」

「どっちかというと褒めては…いや、いいか。そういうことにしといてあげる。ありがとう、悠希」

「どーいたしまして!さあ、今から警察に通報すれば、由良さんはお縄だよ!」

悠希はそのままデバイスを取り出そうと、ズボンのポケットへと手を伸ばす。絶望的だった戦況が、一瞬にして有利に切り替わった瞬間だった。


「白川さん、とりあえずこいつがモタモタしてるより先に通報しよう。というかこいつ、デバイス事務所に置いてってる」

「そういうことは先に言ってよカズ!?」

モタモタとポケットの中をずっと漁っていたが、やがて悠希はその動きを止めた。わざわざ言わないでおいておくとは、随分と意地が悪いなと、小春は少し呆れ顔で一哉の方を見た。

「ああ、白川…?白川、そう」

「私の苗字が…どうかしたんですか……?」

不思議な由良の言動に、思わず小春は疑問を抱く。


「ああ。そういえば昔殺した中に、そんな苗字の二人がいたなって、思い出しちゃったわけ」

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