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第38話 Side 紬&華月&京太郎

「それで、中川君。問題の現場というのはどのあたりだ?」

「正確な場所までは覚えてないんですが、確かこの近くだったかと」

「いや、具体的な場所まではいい。近くで何があったかという痕跡をたどるだけでもヒントになる」

3人はまず、現場の近くまで足を運ぼうとしていた。

「中川さん、その。改めてですけど、姉が襲われていた時の状況などは思い出せますか?」

「まず、襲われた時はかなり遅い時間でした。…と言っても21時くらいですが、とはいえ若い女性が外出にするには危ない時間でしょう?」

「まあ…そうですね。もっとも、才能<ギフト>持ちが反撃してくるとも限らない中、わざわざ襲ってくるような不審者って、それはもう蛮勇が過ぎると思いますけど」


「紬。…君はまだ犯罪者の心理というものをいまいち理解出来ていないらしいな」

「どういうことです?」

珍しく突き放したような華月の言い方に、紬は言い知れぬ不安のようなものを覚える。

「理性のあるやつはそもそもそういう行為に及ばない。冷静にものを考えられないやつなら、若く美しい女性である久遠寺奏を狙っていたとしても、おかしな話じゃない」

「なるほど……」

「とはいえ目的がわからんがね。通り魔だとしたら、あるいは屈強な男よりはリスクが少ないと考えたのかもしれない。がそもそも通り魔かどうかもわからない」

華月は常に、こういった事件においては「動機」から考える人物であるということを、紬はよく知っている。

「事件において動機は大事だ。だが何を狙って起こした事件なのかがわからない以上、あるかもしれない可能性から詰めていくしかない。…紬、君はこの事件の目的、何だと思う?」


「正直…わからないです。ただ。姉なら色々な人物から恨みを買ってそうだなと、ちょっと考えたことはありますね。逆恨みによる襲撃、と」

「最初は僕もそう考えた。だが……妹は、由良はそういう逆恨みをするようなやつじゃないと、僕は考えている。だからこそわからないんだ」

「最初に考える説が正しくないともなると、なかなか2番目の説って出てこないものですからね。…さて。目撃した時の話の続きをしましょうか」

「ああ、頼む」

「まず。この時ですが、彼女が血塗れで倒れているところを発見したのが…」

次の台詞が出てくることはなかった。


「よう中川君!暇そうじゃないか!!何してるんだい?」

「…すみません、厄介なやつに捕まりそうです」

厄介なやつ、と言われたその人物は、中川よりは少し背の高い、恰幅の良い中年男だった。おそらく華月よりは年上だろうか。

「君ぃ、あの"お姫様"はどうしたんだい?君ならあのお姫様を選ぶと思っていたのだが、こんな見るからに年下の女の子を選ぶとは、なかなか変わった趣味じゃないか?ええ?」

「遠藤さん。誤解されているようですが、彼女たちとはそういう関係ではありませんので。というかあなたの方こそ捜査中でしょうに、随分暇そうですね」

慣れ慣れしく絡んでくる中年男を、紬と華月は遠巻きに見ていた。別に悪人というわけではなさそうなのだが、どうもやりづらそうな相手だと、2人はそんな印象を抱いた。


「暇そうも何も、全然進展がなくてね。ところでもう一度聞くが、今君は一体何をしているんだい?」

「そこの2人がある事件について調べている最中でして、たまたま会ったのでちょっと手伝ってる所です」

中川はヘラヘラと、遠藤と呼ばれた男に対して応対をしていた。

「……僕らに頼みに来たくせにえらく都合の良い言い回しをするなあいつ」

「……あんまり気にしない方がいいですよ、それに私も引っかかってますけど、素直に依頼とか言えないでしょう」

「……いやまあそれはそうなんだが。それはそれとして気にいらないのだよ」

中川と遠藤の男2人をよそに、紬と華月はヒソヒソと小声で会話を続ける。


「なるほど。とはいえ捜査情報を教えてくれとか言われても教えないぞ」

「それは勿論理解していますよ。あなたの信用に関わりますからね。…これ以上落としたくないでしょう?信用」

「ぐぬぬ…これだから異能力対策課のやつらは付き合いづらいんだ。久遠寺君のやつはワガママで高慢だし、相良君はああ見えて結構いい性格してるし、デイジー君は…まあその、なんだ。色々とやりづらいし」

「ああ、そうだ。中川さん。それで結局この人とはどういう関係で?」

「この人は捜査課の遠藤正人警部です。まあ無害な人なのであんまり気にしないでください」

どうやら特に敵対するような人物ではないということらしく、2人はほっと胸をなでおろす。


「それで、先ほど色々と調べていると聞いたが、一体どんな事件の調査をしているんだい?まさか学校の自由研究というわけじゃないだろう?もしそうならやめた方がいい。このあたりは物騒だからね、お嬢ちゃんたち」

「えーっと、実はですね……このあたりで知り合いが襲われて傷を負ったらしく、私は気になって調査をしていた所だったんです」

上手い方便も思い浮かばなかった紬は、出来るだけ正直に物を伝えることにした。

「……んんっ、あー。お姉ちゃんがね、どうしても気になる、って言ってたから、わたしは止めたんだよー?」

突如、華月が聞いたこともないような高い声で会話を始めた。紬も京太郎も、その様子に動揺するが、すぐに狙いを察して話を聞く体勢に回った。

「さっき、物騒。って言ってたけど、このあたりで何かあったのー?」

「あー、お嬢ちゃんは知らないのかい?このあたりで人が襲撃される事件が起きていてね。手口はおそらく才能<ギフト>によるものだと私は踏んでいるんだが、どうも色々ときな臭いことになっていてね」


「…中川君。これを私から話したということは言わないでおいてくれると助かる」

「は、はぁ。そうですか」

「これは単なるうわさ話だが、この事件に元警察の人物が関わっているという話は、聞いたことがあるだろう?」

紬たちも聞いたことがある話だと、内心頷く。

「何でも、20年前に警察をやめた人物が、不審者と一緒に行動しているところを見た事があってね、あの人物が怪しいと私は踏んでいる」

「…なるほど、その人物の名前はわかりますか?」


「新島由良。君たちが就任する前に異能力対策課をやっていた女性だよ」

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