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第121話 居場所

「才能<ギフト>の使いすぎは脳に負担がかかる。そして脳に負担がかかり過ぎた能力者は…死ぬことがある」

樹里から告げられた真実。才能<ギフト>の使いすぎは脳に負担がかかり、やがて死に至る。というもの。

「ま、正確には死ぬわけじゃないけどね。いわゆる脳死状態?植物人間ってやつ。私は哲学的なことは詳しくないけど、自分で思考して動けない人間なんて死んでるのと一緒だよね」

「…所長。その可能性は何で考えてなかった。アンタは知らないわけじゃないだろ」


「知っていたさ。だが、それは胸糞の悪い思い出を想起させるものでな。悪いが、考える余裕などなかった。僕の都合だ。すまない」

「トラウマの一つや二つ、このあたりの人間ならそりゃあるだろう。それよりも、例の騒ぎがピタッと止まったのは、やっぱり九条一哉の脳の活動が停止したからだと。樹里。お前はそう考えているのか?」

「私の推測ではね。一般的に才能<ギフト>っていうのは、眠っている人間でも作動する。…それは小春ちゃんが一番実感してることでしょ?」

樹里が小春の方に目線を向ける。少し粘り気のある視線に、小春は思わず少し背筋が寒くなった。

「私の力が特別だから、なのかもしれないなって考えてたけど、やっぱり眠ってても才能<ギフト>っていうのは発揮されるものなの?」


「ああ。軽い程度の話なら、紬が眠っている最中、髪のあたりからすごい静電気が出てたことがあっただろう。その程度の話だ」

「そもそも才能<ギフト>っていうもの自体が、いつどうやって発生して、どのようにして広まったのかはわかってない。中には能力がない人間もいるが、こういう仮説を立てているやつもいるんだ。『すべての人間は才能<ギフト>を持っており、それがないと思っているやつは、全員自分が持っていないと勘違いしているだけ』ってな」

才能<ギフト>の発生からは、せいぜい100年と経っていない。

故に、これ自体が謎だらけであり、わかっていないことだらけだと、数々の研究者は語る。


「一哉くん。病院に連れて行った方がいいかな?今家族もいないみたいだし…そういや、華月さんはご家族の連絡先は知ってる?」

「知っているさ。連絡くらいはしておいた方が良さそうか。…と言っても、この騒動が起きてから既に1日以上経っている。ご家族も把握していないとは思えないがな」

そう言いながらも、華月はデバイスを取り出し、連絡をかけようとする。

その間も、小春は眠っている一哉の顔を見ていた。

普段、嫌味だらけの彼からは想像もつかない程の穏やかな寝顔は、とても能力の使い過ぎでどうにかなったようには見えない、ただ、寝息は聞こえない、何とも表現しがたい状態であった。

「お前はこの九条一哉ってやつに対して、どういう感情を持ってる?」

「うーん……」

四季に聞かれ、そのまま小春はしばらく考え込む。


正直に言うと、小春はこの少年とそこまで関係値があるわけではない。

頭脳と論理で物を考える一哉と、感情のままに走る小春では、どうにも常に話が噛み合わないのだ。

加えて、一言多く頻繁に毒を吐く一哉を近づきがたいと思っているのも確かだ。

その一方で、自分のそそっかしい所には、少しイライラしてしまうと聞いたこともある。

「そんなに仲が良くないのに、助けたいのか」

「だって私達の仲間だもん。『CRONUS』は私の大切な居場所だから、そこにいる人は私にとって、皆大切な人だよ」

「……そうか」


四季もまた、自分の『居場所』であった場所を思い出していた。

麻木夏生…当時は坂巻夏生と名乗っていた青年の作った、『イカロスの翼』という小さなサークル。

実際は樹里も含め、自分が夏生を監視するために出来たような団体だったのだが。

しかし、夏生のおせっかいも、優芽のどこかよくわからないあの態度も、四季自身にとってはそこまで気分の悪いものではなかったのも確かだ。

「…お前は、そう思える相手が出来て良かったな」

「……?」

どう答えたらよくわからなくて、思わず首を傾げる小春。

「あー。要するに、お前は『こっち側』こなくて安心してるって話。そっちに行っちまったら、もう戻れなくなるんだからな」


それでもなお、小春は四季の台詞に、どう答えたらいいのかわからなかった。

きっと、自分が今でもこうやって暮らしていけているのは、もしかしたら幸せなことなのだろうか。

「…ふふ。すっかり家族の情、芽生えちゃってるね」

「何だ?お得意の嫌味なら、言った瞬間張っ倒すが」

「その顔で凄まれても全然怖くないから。あーでも、そうだねぇ。守るべき家族がいるっていうのは、ちょっと羨ましいなって思っただけ」

「お、おう……そうか」

てっきり、また嫌味でも言われるのかと思った四季は、思わぬ発言に少し固まってしまう。


「はぁー。全く、私のことなんだと思ってるのさ」

「性格カスの銃撃ちマシーンだと思ってるけど」

「…あのさぁ。そこまで正直に言われると私もリアクションに困るんだけど」

正直すぎる四季の返答に、樹里は肩を落とす。

「盛り上がってる所済まないが、残念ながら一哉のご両親に連絡が取れない。こういう時まだ連絡出来る相手がいればいいんだがな……」

悠希は今まだ事務所にいる以上、一哉のこの状態を伝えられる相手がいない。

一体、彼の両親はどうしてしまったのだろうか。唐突な不安が4人を襲った。


「しょうがない。その旨を伝えた上で病院に連れて行くしかあるまい。できれば悠希のやつも回収したいんだが、流石にあの場に近づくわけにもいかないな……小春。紬に関する予知はまだ出てないんだな?」

「……うん。紬さんがどうにかなる予知は、まだ。これからどうなるかわからないから、まだ油断は出来ないけど……」

「なんていうか、その予知ほんっと不便だよね。自由自在に未来見れて、それを変えられる力かと思ったら、<イクス・ホルダー>も大したことないね」

その言葉に、少しだけ小春は苛立ったような反応を返した。

「でも、この力のおかげで助けられた人も多いから。確かに不便だけど、大した力じゃないとは思ってないよ」

「それもそっか。…さて。しかしほとんど何もわかんない状況だけどさ、皆どうするつもりなの?私もまだ自由に動けるわけじゃないからさ、物次第じゃ……」


不意に家のインターフォンが鳴る。

「…待って、誰!?まさか一哉くんのご両親じゃ……」

「連絡はしたから流石に違うだろう。……おい、誰だ!?というより誰が対応する!?」

「あんたまで慌てだしたらどうにもなんねえ!俺が対応してくる!!」


四季は脱兎のように駆け出していった。

「(おい嘘だろ……!?何で今……つーか、あいつ……まだ生きて……!!)」

それもそのはず。彼はその人物に心当たりがあったのだ。


「やあ小春。どうしたんだい?」


「まるで死人を見るような顔をしてるじゃないか。」

玄関の前に現れた人物は、四季にとって最も会いたくなかった人物。


「…………ちっ」


「(親、父………!!)」

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