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第119話 対峙

「皆、逃げてっ……!!!!!」

小春は『視て』いた。

ボロボロになった事務所。割れた窓ガラスが散乱し、ソファからは綿が飛び出し、床や壁まで傷だらけになったその光景を。

そして、その中には血を流し倒れた紬と、樹里と、広夢の姿。

その惨劇を起こした張本人の睨みつける顔を見て、小春の『予知』は終了した。


「何だ、誰か襲ってきたとでもいうのか!?」

「その通り、です……!襲撃犯は、久遠寺、奏さ……!」

小春がその名前を言おうとした瞬間に、何かが割れる音がした。

「おいおいおいおい嘘だろ……!?」

広夢が目を見開き、その音の方を見る。それもそのはず、何せ。人間がビルの3階から、窓を割って侵入してきているのだ。

「随分とイカれてやがんな!?つーか、これがうちの姫さんだなんて冗談キツいぜ小春ちゃん!!!」


襲撃犯…奏は一度立ち止まり、破壊した事務所の中を見回す。そして。

「…紬。あなたは私がこの手で殺す。そうしないと……私の気が、収まらない……っ!!!」

鋭い刀を持ち、紬に向けて飛び掛かる奏。その一撃は、何か布のようなものによって防がれた。

「おいいい加減にしろお前。いくら仲間とはいえこれ以上は許さねえぞ。守るべき市民殺しに行くって、アンタはどこまでおかしくなっちまったんだ!?」

「関係ない。私は私という人間を証明するためだけに、あなたを越えるの、紬!!」

「そういう話題逸らしこそ、お前が一番嫌ってたじゃねえか。どうしたんだよ?」

刀の激しい一撃を、広夢の布が何とか押しとどめる。しかしだんだんと押されて、広夢の脚は後ろへと下がっていってしまっている。


「ダメだ会話通じねえ!紬ちゃん、ここはオレらで協力して止めるぞ。今ここにいる中で真っ当にそれが出来るのはアンタだけだ。他は全員逃げ……ん……?」

広夢は、奏が何か重たいものをその場に投げ捨てたことに気づいた。

これまで対処に精一杯で気づけなかったのか、どうやら何かを抱えていたらしい。こんなものに気づけなかったとは随分と余裕をなくしたなと、広夢は軽くため息をつく。

「なるほどな。お前、悠希君痛めつけて情報吐かせたろ」

先ほどまでの元気が嘘のように、頭から血を流しながら、ぐったりと横たわる悠希が、その視線の先には映っていた。頭だけではなく、身体のあちこちにアザが出来たその姿は、痛々しいものだった。


「とりあえず、悠希は流石に生きてるんでしょうね?もし『殺した』となったら、私は一生あなたを許さないけれど」

「生きてはいますよ。殺さないように痛めつける方法くらい知っています。それとも、あなたは私がそんなことも出来ないとでもいうつもりですか?」

「そうは言っていない。ただ、そんなことをしてまで私を殺しに行きたいなら、直接叩きにいけばいい。その姿勢が……私は気に入らない!!!」

バチバチと迸る電撃が、奏の方に向かって一直線に飛んでいく。頬を掠めた電撃が、顔の肉を少しだけ焦がし、焦げ臭いにおいがあたりに漂い始めた。


「…皆は逃げて。華月さんも、鳴海さんも。小春のこと…守ってあげてほしい」

「おーカッコいいねぇ。んじゃ、オレも手伝いくらいはするから、早いとここのお姫さん、止めなきゃな」

小さな事務所の中で、久遠寺の姉と妹が対峙する。

その視線は、お互いの姿だけを映していた。


小春たちが事務所の外へと出れば、そこは外の惨状が嘘のように静まり返っていた。

人の通りも少なく、まるで自分達以外が違う世界に取り残されたようだった。

「……なんか、人少ないね」

「そうだな。このあたりはいつももう少し人通りが多かったはずなんだが。なあ四季クン、これに心当たりはないか?」

「俺のこと何でも知ってるやつみたいに勘違いしてないかそこの所長?」

「勘違いはしてないが僕たちの知恵と知識じゃ限界があるものでな。三人寄れば文殊の知恵という。違う人間の知恵を少しでも借りたいんだよ」

「言いたいことは理解できるが、俺も今の『Avalon』がどうなってるかなんて知りやしないし、その外のことだって詳しくない。悪いが、あまり役に立たないと思う」

4人は静まり返った道の中を歩く。このあたりに住んでいる人間は、今何をしているのだろうか?疑問が尽きない。


住宅地を抜け、町へと繰り出すと、風景は様変わりしていた。

血なまぐさい匂いが鼻をつく。気づけば、近くに多くの人間が倒れ込んでいたのだ。

中には血を流している人間もいるが、そのほとんどは、まるで眠っているかのようにその動きを止めていた。

「……これはどういうことなのかな?」

「今の今までずっと暴れてたから、疲れて寝ちゃった、とか……?」

轟音で叩き起こされた頃から、既にそれなりに時間は経っている。あれだけの衝動をずっと続けていられるほど、人間の体力というものは多くない。

だからこそ、疲れて眠っているという推測も、あながち間違いではないのだろうと、小春は考えた。


「疲れて寝てるのは、もしかして九条一哉の方なんじゃない?能力を使った人間が寝ちゃったから、操られてたやつらも寝ちゃったとか」

「まだ九条一哉と決まったわけじゃないし、操られたとも決まったわけじゃないだろ。その推測は決めつけが激しすぎる」

「はいはい。仲間疑いたくない気持ちはわかるけどね。あー、なんか君さぁ。ちょっとそういうとこ夏生に似てきてない?あと、寝てる人多すぎてさっきから踏みそうなんだけど」

樹里は呆れ顔だった。もう彼女の中では、騒動の下手人は九条一哉ということで決まっているというのに、それを認めたくない四季の姿勢が、おかしくてたまらなかったのだ。


「そういえば、この後はどうしよう?何となく、歩いて行っちゃったけど……」

気付けば事務所もそれなりに遠くになっていた。目的もなしに動いてしまっては、今食い止めている紬と広夢にも申し訳ない。

自分達の次の行き先は……。


「一哉の家に行こう。もし、あいつが犯人じゃなかったとしても、何か手がかりを残している可能性はあるだろう」

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