第118話 最悪の犯人
「でもさ、その犯人。君たちは絶対殺せないでしょ?」
そう、樹里は薄ら笑いを浮かべながら、小春たち『CRONUS』の面々に問いかけた。
「……ああ。そういうことか。全く、胸糞が悪すぎる。本当に当たってほしくない可能性だった。最悪すぎて言い出すことすら出来なかったさ」
華月が突如、頭を抱え始める。そのリアクションに、紬も小春も全てを察してしまった。
「あー…確かに『最悪』だね。絶対にあってほしくない可能性だ」
「うん。私も…考えたくなかった」
2人は目を伏せる。
「ああ。そりゃ最悪だわ。よりにもよって、それにうちの姫さんまで巻き込まれてんだもんな」
それに続いて、広夢も同じようなリアクションを取った。
だが、悠希ただ一人だけが、それの意味を理解していなかった。
「え?どういうことなの?つーか皆察してる感じだけど、どういう意味?」
「君わかんなさそうだから私の口から説明しようか?」
「いや。アンタが言うと説得力もクソもない。だが、『仲間』から言わせるのも嫌だ。これはオレから言うさ」
広夢がいつになく真剣な表情で立ち上がる。いつもの飄々とした態度は、その表情から完全に消え去っていた。
「九条一哉がこの事態を引き起こしている可能性だよ」
「へ…?カズが……?でも、そんなのあり得ないよ!だってカズは、オレ達の仲間で……」
「夏生君だってずっと一緒にいたやつに裏切られてんだぜ?ぶっちゃけどこに裏切り者が混ざってたとしてもおかしくねえよ。その恐ろしさはアンタが一番よくわかってんだろ?新島所長よ」
「ここで僕に話を振るか。ただまあ、一哉が事態を引き起こしていたとしても、ただ才能<ギフト>が暴走している可能性だってある。あいつに才能<ギフト>は元々なかった。だが、よりにもよって最悪の状況でそれが目覚めてしまった。その結果がこれだ」
才能<ギフト>は、誰もが好き好きに制御できるわけではない。
それこそ、小春だって未来予知を制御できず、それによって自分の精神を蝕み、死のうとしてしまったことまである。
「でも、それって……」
「ああ、僕たちで一哉を止めなくてはいけない。だがここまで大規模な災害とも言える事態を引き起こしたわけだ。責任は…負わなきゃいけないかもな」
たとえ故意でなかったとしても、軽傷者重傷者を合わせて何千人規模の惨劇を引き起こしたのだ。何らかの責任は取らされる。
そしてこれは、九条一哉の戻る場所がもう、なくなってしまうということまで意味することになる。
「覚悟はしておけよ。これは嫌がらせや嫌味なんかじゃない。僕だってこんな事態になるなんて思ってなかったさ」
「でも、裏の事情はもしかしたらあるかもしれないからさ。それによっては、もしかしたら一哉君も……」
「希望的観測だがあり得るかもな。だが、あいつが故意に何か引き起こしたとしたら、それこそ……」
「…なんだよ。なんだよなんだよ!!!カズが急にいなくなったと思ったら、急にあいつが犯人扱いって!オレそんなの信じたくねえよ!!あいつはオレの友達なんだよ!!!」
「信じたくないって言ってもさ……」
「そんなの知らねえよ!!!!!!」
「おいっ、待て……!」
声を荒げた悠希は、そのまま『CRONUS』を飛び出していってしまった。
一哉と特に仲が良かったのもあって、彼にとってこれは本当にショックが大きかったのだろう、感情の整理がつけられるはずもない。
「まったく、困ったな……!」
華月は頭を抱える。何せ、今のこの状況だ、事務所周りはある程度平和とはいえ、今は町中大暴動。悠希の身体能力をもってしても、安全でいられる保証はないのだ。
「とりあえず、落ち着いてから悠希に連絡かけよう。今はどうすることも出来ないし、無理に連絡したところで、かえって逆撫でするだけになる。でも……」
「あー、紬ちゃん。もしかして彼見殺しにすること心配してる?」
「煽ってるつもりなら無駄だから。確かに心配なのは心配だよ。でも、決して見殺しにはしないから」
ニヤニヤと見守る樹里に対しても、紬はあくまでも毅然と対応した。
ただでさえ、例の能力の影響で気が立っているところに、こんな煽りにまで乗りたくないと、紬は表情を強くする。
「それで、あなたは結局何がしたいの。本当に協力してほしい気持ちあるの?」
「まあまあそんなに怒らない。実際のところ協力してほしいのはそうだよ。何せ、こんな制御も何も出来てないような能力で、有力な能力者のサンプルが殺されたりなんかしたら、大きな損失だよね?そもそもさ」
樹里は姿勢を正し、紬に向けて向き直る。
「『Avalon』が関わっていない可能性の方が、私は高いと考えてるんだよね」
「…へー。どういうわけか聞かせてもらいたいね」
「今回起こした騒動が『Avalon』にとって何のメリットもないからだよ。さっきも言ったでしょ?それに、私はさっきも言った通り、こんなことを起こす能力者知らないんだよ」
そう語る樹里の目線は、どこか不満げだった。まるで、こっちも迷惑していると言わんばかりに。
「もし下手人が九条一哉だったら、本当にそっちで何とかしてほしいけどね。というか、君たち『Avalon』を好き放題に犯罪起こす迷惑な集団か何かだと勘違いしてない?」
「好き勝手に犯罪起こしまくってる時点で、そういう集団だとしか見られないと思うけどね。つーか、構成員の犯罪行為容認してる時点で立派な犯罪集団だ」
そう答える広夢は呆れ顔だった。自分達が彼らにどれだけ迷惑をかけられたか。それでもなお、被害者のように振る舞う樹里が、広夢は我慢ならなかったのだ。
「相手が犯罪集団であろうとも、今回『敵の敵』というのだけは有力なんだ。もし嘘をついているのだとしたら、僕たちは一生君を許さない。一生ブタ箱入りは逃れられないだろうな。君も一生をあの牢獄で暮らすのは嫌だろう?」
「だから今の私は何も出来ないって言ってるでしょ?この丸腰状態で協力を要請しているっていうのが、私なりの誠意だと思ってほしいね」
「あの……!ちょっといいかな」
一触即発というような空気の中に、小春が口を挟む。
「私、正直あなたのことは信用できないし、怖い。でも、だとしたら今ここにこうやって足を運んでいるのが、何よりの証拠だと思う。信用されるわけないって、樹里さんはわかってるんだよね?」
「わかってるよ。ところで……」
樹里が何か言い出そうとした途端に、事務所の外で大きな音が鳴った。
「おい、誰かここに……!」
事務所の中が大きく揺れる。地震かと思ったが、近くに地震速報は出ていない。まさかと思って華月は外を覗く。
「………っ!」
「皆、逃げてっ……!!!!!」
何かを『視た』小春が、叫び出したと同時に、轟音がまたも事務所内に鳴り響いた。




