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イクス・アイズ~未来が見えるので、すべてを救ってもいいですか?~  作者: 八十浦カイリ
第四章 異能力者たちは踊り狂う
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第111話 やつの名は

「そうだ、夏生。最近、この近くがやけに物騒になってるだろう。夏生も気を付けた方がいいんじゃないか?」

「……ああ、そうだね。気を付けるよ」

父親からそんなことを聞かされた夏生は、今まさに自分がその件について首を突っ込み、調査をしているなんてことは思いもしないだろうと、少し不思議な気分になる。

「元々、探偵なんていう不安定な仕事は、私はあまりオススメしなかったんだけどね。そうだ、大学の勉強は大丈夫かい?」

「大丈夫だよ。今度の試験だって手ごたえはあった。出席日数はちょっとギリギリだけど、それでも単位はしっかり取れてるよ、栄次郎さん」

「それなら安心だけどね。それと……私のことをまだ父親とは、呼んでくれないのだね」


麻木夏生は父・栄次郎と、少し複雑な関係性にある。

政治家であった栄次郎の失脚によって、一家離散してしまった夏生にとって、麻木栄次郎は最早父親とは呼べない存在だ。

離婚してからも父親の苗字を使い続けていた夏生だったが、それでも拒否して麻木とはずっと名乗らなかった夏生にとって、栄次郎は憎むべき存在でもあった。

だが、ある事件での栄次郎との再会によって、家族は再びつながることが出来た。

それでもなお、夏生は散々憎んできた父親を、今更また父と呼ぶことは出来なかったのだ。


「そういうそっちこそ、バイトは大丈夫なの?オレの方から言うのもなんだけど、その歳じゃ仕事も少ないんじゃないの?」

「いやぁ。仰る通りで。昔に比べれば暮らしは楽になったけどね。代わりに仕事がきつくて。身体もなまってたから筋肉痛に悩まされる日々だよ。しかも筋肉痛が2日遅れてくるんだ。夏生はまだそんなことはないよな?」

「ないよ流石に。というか、そういう年寄りあるあるを聞かされても、オレにはまだ共感しようがないね」

夕食の味噌汁を啜りながら、そんな会話をする。麻木家の食卓の日常風景は、そうやって過ぎていく。


そろそろ食器を片付けようかと考えていた所で、夏生の耳にやや聞き慣れない音声が聞こえてくる。

それが家のインターフォンを押した音だと気づいた頃には、もう栄次郎がそれに対応しようとしていた所だった。

「お客さん?こんな時間に?母さんはまだ帰って来る時間じゃないよな?」

慌てて箸を置き、栄次郎にこっそり追従して玄関前まで向かうと、そこには一人の男性が立っていた。

中肉中背の、やや明るい髪色をした、眼鏡をかけた40代半ばほどの男だった。


「…知り合い?」

「なんだ、夏生も来てたのか。いや、彼のことは私も知らない。…いや、どこかで会ったような気がするんだが、あいにく思い出せない」

「僕のことは知りませんか、麻木栄次郎さん」

「それなりに名の知れている身とはいえ、一方的に名前を呼ばれるのはあまりいい気はしないな」

「そうかい。つれないね。ただ、僕がしたい話はそういう話じゃない。ビジネスの話さ」

それを聞いて男は、栄次郎に向けて名刺を手渡す。


「ん?この名前は……」


『あ、そうだ。今時間ある?』

「ん、あるけど……悠希くんの方こそ、どうしたの?」

少しそっけない態度ではあったが、優芽は通話の奥にいる少年の顔を思い浮かべて、思わず少しだけ頬が緩んでいた。

『いや、なんつーか。話?聞いてほしくてさ。華月さんとか、春ちゃんじゃ忙しそうだし、何せカズはあんなことになっちまってただろ。だから、優芽ちゃんしか頼れなくってさ』

「ほんと?それは嬉しいけど、でも、悠希くんらしくないね。どうしたの?」

声が聞きたい。きっと彼は自分に向けてそう言いたかったのだろう。だが、今の優芽には、嬉しさよりはまず先に、何故?という疑問が浮かんでしまった。


『今ってさ、オレの知らないところで色んなこと進んでるだろ?春ちゃんだって難しいことに巻き込まれてるし、何度もオレだってそういうの遭った。でもさ、そういう時考えちゃうんだよ。オレってほんとに役に立ててるのかな、って』

珍しく悠希から出た台詞。それは弱音だった。普段、お気楽でそんなことを考えるようには映らない優芽にとって、とても新鮮で、かつ『らしくない』と思えてしまうものだった。

「役に立ててるか、なんて、そんなこと言ったらあたしの方が、だし。元々、小春ちゃんがあんな目に遭ったのだって、元はと言えばあたしが近づいたからだし……」

本当に偶然とは思えない出来事だったが、それでも優芽にとっては痛ましい事件だった。

未だに彼女の顔を真正面からは見られない。だって、それは自分が余計な事をしたせいで変わってしまった顔なのだから、もう今の小春の姿は、優芽にとって罪悪感の象徴ともいえるものなのだ。


『それは偶然だししょうがないよ。というか、オレだって同じ立場だったらどうしたらいいかわかんないと思う。それよりもさ。オレってすっごい頭悪いし、カズにもいっつもバカバカ言われるし、能力だって別に強くねーし……』

「今悠希くんがそうなってるのだって、あの謎の能力のせいなんじゃないの?そう思ったら、そういう気持ちって、消えちゃう気がする」

『……いや。洗脳されて無理矢理生やされたとかじゃないんならさ、この気持ちは紛れもなくオレもなんだよ。だからこそ、あの能力がオレは怖くてたまらないんだ』

「…ごめん、今ちょっとデリカシーないこと言っちゃったかな」

『気にしなくていいよ。つーか、オレがそんなことで怒るわけないじゃん』


以前、優芽は夏生にこんなことを言われた覚えがある。

まだ『イカロスの翼』が出来てすぐ、夏生に誘われて数日も経たない頃、学生との喧嘩からトラブルが起きた時だった。

「本当にすまないと思っているんなら、そうやって謝ったらいい。でも、自分が謝れば場を収められる、自分を犠牲にすればそれで済むって思ってるなら、そんな謝罪は無意味だ。それは相手に罪悪感を植え付けるだけだ。そんなことしない方がいい」

きっと、今の言葉は、相手に罪悪感を植え付けるためだけの言葉だったのだろうと、優芽は心の中でひっそりと、思い返した。

「そう、そうだよね悠希くん!そうだあたし……」

何とか、話題を転換させようと、最近あった出来事などを悠希に話そうとするも、それらはほとんど一緒にいた時の話で、何だか新鮮味がなく、ただ時を無為に過ごすだけに終わってしまった。


「それで…僕が握っている真実の話なのだが」

華月は神妙な面持ちで、改めて紬と小春の顔を見る。

「神の力を利用しようとした人間。その計画を思いついたやつの名は」


「…白川、秋人」

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