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イクス・アイズ~未来が見えるので、すべてを救ってもいいですか?~  作者: 八十浦カイリ
第四章 異能力者たちは踊り狂う
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第110話 大人としての責任

「新島華月は、全てを知っている」

鳴海から聞かされた事実。一体、鳴海の言う「全て」とは、どこからどこまでなのだろうか。

「本人に直接聞いてみればいい。丁度席外してただろう?」

と言いながらも、既にどうやら鳴海は華月をここに呼ぶ準備をしていたようだ。


「…まあ、君たちを裏切るようなつもりはないさ。全面的に『Avalon』とやらは敵だし、君たちがやつらに敵対するのであれば、僕は君たちにも協力することを約束する」

あくまでも華月は普段通りの様子で、小春たちに相対する。

「まあ、簡単に言えば、僕は最初から知っていたんだよ。『Avalon』とやらが暗躍していることも、小春。君が神の力とやらを持っていることも、そして君がこの街に住んでいるということもな」

「鳴海さんに言われて、何となくは察してましたけど。でも。それは別にもう問題じゃないんじゃないですか?」

「…いいや、問題はここからだ」

華月はそこで目を伏せる。


「小春。君を『Avalon』に対する切り札として、僕は利用しようとしていたんだよ」


「それは…どういう……」

利用。

それが良いニュアンスの言葉でないということは、小春にとっては一目瞭然だった。だが、どうにもしっくりこない。これまで彼女と築いてきた関係性が、打算だけのものではないと思えたからだ。

「第一おかしいと思わなかったのかい?身元もわからない女の子に、わざわざ探偵事務所などという胡散臭い場所に、勧誘してまで雇ったこと」

考えてもみれば、法律的にもほぼグレーとも言えるようなこんな場所に、わざわざ勧誘してくる大人など普通に考えればまともなものではない。

「そして…これほどまでの人数を雇って、仕事もロクにない中、何故こんな場所を経営できているのか。君は怪しいと思ったことはないのかい?」


「…そういえば、そう。かも……」

「疑えないのも無理はない。何せ僕がそう仕向けたのだからな。実際、君を雇ってから『Avalon』に関する案件は大きく増えた。やつらが僕たちに向かって近づいてくれたんだ」

そして小春にとっても、『Avalon』なる組織との関わりは、大きく増えてしまった。

恩人となるはずの男を殺されたこと。

予知によって止めることが出来なければ、事務所が燃やされかねない事態になったこと。

そして、自分自身も殺されかけ、顔を変えてまで逃亡する羽目になりかけたこと。


「それで…華月さん。あなたの本当の顔っていうのは、一体何なんですか?」

紬が華月を睨みながら、小春の前に立つ。

「本当の顔も何も…そうだな。あえて言うのならば、あの組織から脱走してきた『裏切り者』って所かな」

「………華月さん、あの組織の人間だったんですか!?」

「元々Avalonは異能力について研究をする組織でな。元々は真っ当な組織だった。僕は大学を卒業した後、研究機関に入ってな。…もう25年も前になることだが、その時は前向きに、人々を救うために活動をしていたと思う。だが、10年もしないうちに組織は変わっていった」


「神の力というやつを、発見してからだ」


藍原優芽は家に戻っていた。

と言っても、家の中にさして居場所などというものは、彼女にはなかった。

両親が再婚してくれたのは嬉しかった。でも、新しい父親は自分のことにはあまり興味がないのだろうか、たとえテストで満点が取れたと言っても。新しい能力が使えるようになったと言っても、学校で楽しく友達と過ごしていると言っても。

返事すら、返してはこなかった。

やがて、母親も自分の方を見なくなった。ご飯は常に、両親の残り物を貰うか、レトルトや冷凍食品をレンジで温めて食べるかくらいしかなく、まるでこの家に自分はいないかのようだった。


他人の感情を操作するという能力。

この強力すぎる力は、むしろ自分の孤独を強調するだけの結果になってしまった。

もしこの力を両親に向ければ、きっとまた自分に向けて振り向いてくれるだろう。けれど、それは能力によって作った偽りの感情だ。

だったら、昔お友達だったあの少女だけでも、自分のことを好きになってくれたなら。

それでも、あの子の隣には、もう久遠寺紬がいて……。


考えれば考えるほど、気分はブルーになっていく。

ふと脳裏に浮かぶのは、探偵事務所で一緒にいる、あの明るい髪の少年の顔。

彼の心さえ自分に近づけられれば、本当の意味で微笑んでくれる人が出てくれるだろうか。

なんてことを考えているうちに、もう時刻は夕方になってしまっていた。

そういえばお昼ご飯を食べていないな、と思いながらも、わざわざ毎日三食食べる必要なんてないだろうと、適当に時間を過ごすことを決めた。

その時、優芽のデバイスに着信が入った。

「……どうしたんだろう?」


『あー、もしもし優芽ちゃん?』

その通話から聞こえてきた声は、優芽にとって大いに縋りたい、あの声だった。


「そしてやつらの目的は変化していく。『Avalon』の目的は、異能力を生かしての人々との共存から、異能力そのものを排除することへと変化していった」

異能力の排除。

人々の安寧な暮らしを脅かし、この国の治安も大きく悪化させた才能<ギフト>という存在に、『Avalon』は憎しみを覚え始めたのだという。

「勿論僕も下手すればこの計画に賛同していたのかもしれない。だがやり方がまずかった。やつらのやり方は、何人かの異能力者を生贄に捧げるようなものだったからな」

「生贄……っていうことは、もしかして私の力も、何かに使われようとしていた、って事?」

小春はようやく、自分の命が狙われているその目的を理解し始める。


「やつらが狙っているのは世界そのものの改変。すべての《神の力》が揃えば、世界そのものがやつらにとって都合よく改変されていくことだろう。人を殺すこともいとわないようなやつらだ。そうなれば世界はどうなるかわからない」

華月はいつもよりも力強い声で、はっきりと宣言する。

「僕は君たちに出来る限り協力してほしい。この世界全てを掌握されるのはマズい。異能力そのものの排除だけじゃない。きっと君たちが安心して暮らせる日々はその瞬間から終わってしまうだろう。最悪、世界が滅ぶようなことまで起こるかもしれない」


「好き勝手に世界を改変できるなら、世界の滅亡を望んだとしても、それが実現してしまう…そう言いたいわけですか」

「紬は理解が早いな。……そうだ。僕が一つ握っている事実を、あと一つだけ話してもいいか」


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