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イクス・アイズ~未来が見えるので、すべてを救ってもいいですか?~  作者: 八十浦カイリ
第四章 異能力者たちは踊り狂う
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第107話 自分の心

「…カズ、お前こそどこで何やってたんだよ!心配したんだぞ!っていうかそもそも連絡くらいよこせって…!」

最初は再会できたのが嬉しかった。

だが、その喜びは、一瞬にして打ち砕かれることになった。


「……がっ、何、すんだよ……っ!!」

そう、一発の発砲音によって。

それもかなり冷静に、決して狂ってなどいないような挙動で。悠希の左腕を、撃ち抜いた。

「何するんだよ?状況分かってないのか?」

自分の方を見る一哉の目を見て、悠希は直感的に理解してしまった。

あれは仲間を見るような目じゃない。


『敵』を見る目だと。


「カズ!!どうしちまったんだよ!!つーかオレたち一生懸命探したんだからな!!!」

「うるさい」

またも発砲音が響く。だが、その銃弾は、一つの土壁によって防がれた。

「ごめん。悠希君。彼はもう話をできるような状態じゃない。どこかに逃げよう。あれはもう、完全に精神を侵食されちゃってる」

「どうして!どうしてあいつはあんな事!!!」

「…ごめんね。あたしも。もうダメだと思う」

「……なんだよ。優芽ちゃんまでそんなこと言うのかよ。オレ、もうどうすりゃいいのかわかんねえよ!!!」


泣き出す悠希をよそに、一哉は踵を返してどこかに行ってしまった。

「お前の声を聞いていると頭が痛くなる。悪いが、後だ」


「後で必ずお前を殺してやる」


そう睨みつける一哉の表情は、今まで見た何よりも冷たかった。


夏生が悠希の方を見れば、悠希はすっかり大人しくなっていた。

「……なぁ。オレさ、実はどっかで、もうこうなっちゃってんじゃねえかって思ってたんだよ」

「…どういうことだ?」

「だって、ここ最近のカズ。ちょっと様子おかしかった。やけに焦ってるみたいだったし、機嫌も悪かった。だから、なんか能力にやられて、操られてんだと思う」

「洗脳されてる……か……」

実際、マイナス感情が大きい人物は、操りやすいと夏生は聞いたことがあった。

いや、以前に樹里がそんな話をしていたのだ。


「最近、色々と物騒なニュース多いでしょ?ああいうの見てたら、ぶっちゃけ夏生も参っちゃわない?」

「…まあ。それはそうだね。殺人鬼の話とか、能力者が狙われてたとか。気を付けなきゃって思うけど、でも。自分の感情は自分でもどうにもならないんだよ」

当時の夏生は、父親との確執もあり、自分の心に余裕がなかった。

樹里だけじゃない、優芽や鳴海にだって、何度感情をコントロールできずに醜態を晒したかわからない。

「樹里にもわかるだろう?オレって、元々そういうコントロールが苦手な方なんだよ」


「そ?でもね。一つだけ言おうか。感情が不安定な人間は、何かに付け込まれる。だから私っていっつも笑ったようにして流してるわけ。そりゃ、不安とか不満がないわけじゃないけど、不安や不満に支配されて自分が自分じゃなくなるくらいなら、流しちゃった方がいいよ」

「随分長い『一つ』だなぁ」

「はは、伝えたいこと言おうと思ったら溢れちゃった」

そして、何故樹里はそんな話をしたのだろうと。当時の夏生は考えた。

だが、今になって思えば、あれは樹里なりの自分への忠告のようなものだったのだろう。


「夏生くん?」

「ごめん。ちょっと前に樹里に言われたことを思い出しててさ。きっともしかしたら、九条君にもどこか不安定な所があったのかもしれないと思ってね」

「……カズに不安定なとこ、かぁ」

悠希は顔を伏せる。

親友である自分が、よりにもよって一哉の変化の予兆に気づかなかったのだ。悠希は自分でも頭が悪いという自覚はある。しかし、これは頭が悪いでは、もう許されないのではないだろうか。

「近しい人だからこそ気づけないってこともあると思うよ。それを言うなら、オレだって樹里の裏切りに気づけなくて、結果的に白川さんを危険に晒したんだ。それよりも、これからすべきことを考えた方がいいとオレは思う」


3人はお互いに傷を抱えながら、すっかり肌寒くなった道を歩く。

「うーん……あたしも、そうかなぁ」

「そう?」

「ほら。あんまり前のことばっかり考えてられないなって思い始めたの。前のことばっかり考えてたら、なんか嫌な事しか思い出さないって思ってさ」

「…あー。優芽ちゃん、色々あったみたいだもんな」

悠希も知らないことではあるが、色々と能力のことで苦労を続けていたという話は聞いている。

だからこそ、後ろを振り返ると、それはそれは本当に嫌なことばかりだったのだろう。

「やっぱ、前見て歩いてくしかねーのかなぁ」


「ちなみにさっきのも樹里ちゃんからのアドバイスだよ」

「…もしかしてアノ人、結構優しい人なの?」

「いやぁどうだろうなぁ。オレ達の事本気で殺しに来てたのもまた事実だし。ただそれなりにオレ達のこと、放っておけなかった気持ちはあったんじゃないかな」

高橋樹里という人物は、確かに夏生や優芽たちにとっては裏切り者だし、悠希にとっては最早敵としての一面しか知らないばかりか、直接対峙したこともない。

「敵だったのに放っておけなかったのかなぁ……なんか、改めて樹里ちゃんのことわかんなくなってきちゃった」

「つまり。九条君も何か複雑な感情があって、今あの立場にいるんだと思う。だから、もしかしたら。彼とは和解できる道はあるんじゃないかな」


「…うん。九条君ってずっと『CRONUS』にいたから、根っからの裏切り者じゃないんでしょ?」

「ぶっちゃけ、そうだと信じたい。…今のオレには何もわかんねえからさ」

実際、悠希は不安だった。

もし、『最初から』一哉が裏切り者だったら?

そうすれば、きっと高橋樹里のように和解できる道もなく、殺し合うことになるだろうと。

「とにかく、今は考えてもしょうがねえや。うん、とりあえず。華月さんから何か連絡あるまでオレ家に帰ってるよ!!」

「そうした方がいい。休んだ方が色々と落ち着くだろうし、それに今は能力の影響で色々と物騒だろうしね」


「…えっと。一言だけいいかな?」

「優芽ちゃん、どうしたの?」

「何かあったらすぐに連絡ね!ピンチだったりとか、何か変なもの見つけたとか、そういうのでもいいから!」

「…おー、わかった」


3人はそのまま帰路へと就いた。

一体この事件は、どのように収着して、どのような結末を迎えるのだろうか。

九条一哉は『CRONUS』に戻ってくるだろうか。

不安を抱えながら、悠希、優芽、夏生はそれぞれ自分の家のドアを開けた。


同時刻。

まだ人通りも多いであろう路地で、相変わらず飛び交う人々の怒号を背景に、二人の男女が向かい合っていた。

「おいおい奏ちゃん。そんな顔してどうしたよ?機嫌悪いのかい?」

「ふざけないでもらえますか」


奏はそのまま、目の前にいた青年の胸倉を掴み、こう言った。


「私はもう、憎悪を抑えられないのです」


「この国へも、この国の異能者へも」


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