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イクス・アイズ~未来が見えるので、すべてを救ってもいいですか?~  作者: 八十浦カイリ
第四章 異能力者たちは踊り狂う
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第103話 謎の能力

『人が、死んでた』

通話の奥から聞こえてきた声は、小春にとって衝撃のメッセージを伝えてきた。

身体中に嫌な汗が浮かぶ。ドクンドクンと鳴る心臓の音が、より一層その焦りを加速させる。

『春ちゃん?おーい、春ちゃーん?』

「大丈夫。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……」

『あー、ごめんごめん、オレもうっかり通話かけちゃってさ。今優芽ちゃんが通報してっから、もうすぐ警察の人来るはず。んじゃ、オレらはこっちで待機してっから、通話切るね!』

小春が何か言おうとする間もなく、すぐに通話が切れてしまった。

相変わらずの悠希らしいそそっかしさも、今日ばかりは少しだけ嫌だと思ってしまった。


「何があった」

「悠希くんが、人が死んでるの見ちゃったんだって。だから……」

視界が不意に暗転する。

映った景色は、どこかの路地裏。昼だというのにもう薄暗くなっていたその路地裏に、一人の人間が倒れ込んでいた。

そしてやがて、視界がその人物を映していく。

派手な化粧をし、グラマーなその体格を強調するかのような服装を身にまとったその人物は……

間違いない。藍原優芽だ。その優芽が、何かナイフのようなものを腹に刺され、血を流して倒れている。

生きているか、死んでいるかもわからない。だが、仮に生きていたとしても、すぐに処置を施さないといけない事態なことに変わりはない。


「……はぁっ、はぁっ」

気付けば、息が切れていた。長らく会っていなかったとはいえ、元々親友だった女の子が、血を流して倒れる様を見せられてしまったのだ。

「もしかして、何か『見ちゃった』?」

紬の問いかけに、小春は何とか頷くことしか出来なかった。

それほどまでに、ショックが大きかったのだ。

「…優芽ちゃんが、このままだと危ない」

見たのは路地裏だ。そこには見覚えがある。

だからこそ、小春はそこに向かって歩き出そうとする。…のだが。


足が動かない。

足を踏み出そうとすればするほどに、かえって心臓の鼓動は加速し、身体中から嫌な汗がにじみ出し、呼吸は乱れるばかりだ。

優芽がどうなっているかわからない。もしかしたらもう死んでいるかもしれない。そういえば、悠希はどうしてしまったのだろう。予知では見えなかったけど、まさかもっと遠い場所で殺されてしまったのだろう。だとしたら、何故その予知で見えなかったのか?

そもそも私の予知だって、樹里さんの攻撃を避けられなかった。だったら、不完全な予知かもしれない。予知が不完全なら、もしかしたらもっと危険なことが起きるかもしれない。それこそ紬や華月にも夏生にもいやもしかしたら一哉にも何か怖い怖い怖い怖い怖い不安怖い怖い怖い怖い恐怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い


「小春……?どうしたの……?」

気付けば、自分を見下ろす紬の姿が小春には見えた。

自分でもわからないうちに、どうやら頭を抱えて蹲ってしまっていたようなのだ。

「ごめん…なんか……予知を見てからおかしくなっちゃって……全部が不安になっちゃって、何も信じられなくなっちゃって……」

上手く伝えられている気がしない。もう、喋るだけで精いっぱいで、立ち上がるのすら難しい。

何とか紬に手を支えてもらって、小春は足を動かし立ち上がる。それだけの動作で、かなりの時間がかかってしまった。


「思い出したくないなら僕達で推測するが、教えてくれ。予知の場所はどこだ?」

「ここからすぐの路地裏……近くに白い大きな車が停まってる所だったと思う」

「随分人通りの少ない所に女の子1人連れていくんだなあいつは!?まあいい、とにかく急ぐぞ。小春は遅れてついてきてもいい。おそらく僕の認識が合っているならすぐにつく!」

華月はそれを聞き、すぐに走り出す。そこに、夏生や紬もついて行くことになる。

取り残された小春は、何とかその激しい恐怖を断ち切ろうと、脚を動かす。

さっきの恐怖は一体何だったのだろう。

少しでもそういうことを頭に考えようとすると、またすぐに脚が止まりそうになる。


「(何か…されちゃってるのかな……)」

頭を横にぶんぶんと振りながら、小春は華月の方を追いかけた。


「………これは、随分とひどいね……」

悠希は『人が死んでいる』などと言っていたが、これはそんなものではなかった。

遺体は既に随分と腐敗し、その周りには蝿と蛆が集っている。

華月がよくそれを見てみると、おそらくは男なのだろうという推測はつくが、それでも年齢がわからないほどに、それは生きていた頃の姿を残していなかった。

「報告は助かるが、これは死んでから随分と経ってしまっているな……」

「ねー。一応通報はしとくけどさ、こんな目立たない所で仏さんになっちゃってるから、悠希君が見つけるまで、誰も見つけらんなかったんだろうね」

「オレさ…もしかしたらこの人知ってっかもしれない」

悠希が震える小さな声で、紬たちの方を見ながら言う。


「この近くに住んでた人なんだよ。まー、いわゆる無職っていうか。才能<ギフト>もないから仕事もなかなか見つかんないって言ってて、親から逃げてよくこのへんに隠れてたって言っててさ」

「とんだロクデナシだしよくそんな奴が現れるところに女の子連れてったなお前は」

「ごめん……でも、何だかんだオレいるから優芽ちゃんも守れるかなって思ったんだよ。特に危ない人とかじゃなかったし。あ、そうだ。優芽ちゃん、さっきひっくり返って気失っちゃったみたいでさ、様子見てるんだけど目醒まさないし…というかオレ今どうしたらいいん?」

悠希の会話はどうも要領を得なかった。気が動転しているのだろう。それを察したのか、華月もそれ以上聞くことはなかった。


「電話の方は紬に任せた。優芽と悠希の様子は夏生クン。君が見てくれ」

「うん」「わかった」

テキパキと指示を出す華月に、悠希は少し安心したのか、口を開き始める。

「なんか…朝起きてから今日はやけに落ち着かなくてさ、さっきだって。優芽ちゃんが気分悪そうにしてるからどうしよっかな~って思ってここまで連れてきたんだけど……」

「確かに悠希にしちゃ、随分連れてくる所が変だなと思ったんだが……なるほど、今朝から落ち着かないと来たか」

必要以上に怯えて動けなくなる小春、焦って危うく判断を誤る悠希。

謎の能力の影響は、間違いなく彼ら2人にもはっきりとした形で出ていた。


「華月さん、私。全てわかったかもしれない」

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