表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の火竜、おあずかりしてます  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

小さな客

 魔獣売買は魔獣の信頼を(いちじる)しく損ね、彼らの協力を得られなくなった結果、魔法使いの業務に多大な不利益を及ぼし、ひいては人間全体の危険を回避できない事態に発展しかねない重罪である。

 ……などと堅苦しい言葉で表現されるが、とにかく魔獣売買は数ある犯罪の中でも特に重い罪に入る。

 レイザックとマグテスによって拘束されたラグトムは、後の裁判で魔法を封印されてから終身刑となった。タルボラも同じく終身刑だ。

 ラグトム達からファルジェリーナを「買った」ジェインズも、二十年間投獄されることが決まった。捕縛するよりはまだ罪が軽いものの、罪を(つぐな)う期間は決して短いものではない。ぼんぼん育ちのジェインズが、牢の中でどれだけ耐えられるかは怪しいものの、情状酌量などはされなかった。彼にすれば、終身刑にも近いだろう。

 実はジェインズは内心、もっと量刑が軽くなると高をくくっていた。もしくは、投獄ではなくどこかの屋敷に幽閉という形になるのでは、と。

 しかし、現実には父親が減刑のためにまったく動いてくれなかったのだ。自分の息子とは言え、ワイマーズ家に泥を塗った人間など極刑にされろ……と言ったとか言わなかったとか。

 元々、息子の素行にはずっと手を焼いていたので、むしろこれ幸いと思ったらしい、という噂がまことしやかに流れた。

 ファルジェリーナは保護された後、さらに二日間をアトレストで過ごした。もちろん、そばには愛しい夫と娘がいる。周囲にわずらわされるものがないので、ゆっくり静養ができたようだ。

 今回は人間にひどい目に遭わされたが、助けてくれたのもまた人間。大切な娘の世話をしてもらえたこともあって、小竜夫妻に人間を憎む気持ちは生まれなかった。

 それを知って、今回の件に関わった魔法使い達はみな安堵(あんど)する。

 彼らが人間を憎み、それが仲間に伝わり、さらには他の種族にまで伝わってしまえば。人間を敵とみなす魔獣が、少なからず生まれてしまう。

 それは魔法使いにとって、絶対に避けたいことなのだ。ファルジェリーナの体力が尽きてしまっていたら、最悪な状態で事件が終わるところだった。今回は運もかなり味方してくれたようだ。

 シェルリスは一日授業を休んだものの、今回は特殊な事情だからということで補習をしてもらい、何とかその後の授業にもついていっている。レイザックが担任のレクートに事情を説明して頼み込んだ、ということをシェルリスが知ったのは、かなり後の話だ。

 そのシェルリスは、勝手に入口の扉に貼り紙を貼ったことと、その中身についてまたレイザックに叱られた。

 火の部屋でファルジェリーナとおしゃべりしすぎた日とは別の日のことだ。

 叱られてばっかり……とは思うが、叱られる原因が自分なのだから仕方がない。

「火竜なんて書いたら、誤解を招くだろ。火の小竜だからって、おかしな省略をするんじゃないっ。そもそも、こんな書き方だと種族が変わってるだろうが」

 実際に貼り紙が表に貼られていた時間は短かった。だが、それを運悪くラグトムが見てしまったことでトゥールティアがアトレストにいることがばれた、と知らされ、シェルリスは猛省(もうせい)した。

 シェルリスにすれば、トゥールティアを知る誰かに少しでも早くここにいると知らせられたら、という気持ちでしたこと。

 もちろん、シェルリスに悪意はない。だが、純粋な気持ち、よかれと思ってやったことなら何でも許される、という訳ではないのだ。

 貼り紙一枚のことではあるが、ブレイズに何の相談もなく、自己判断してしまった。その結果、シェルリス自身が襲われ、最悪だと殺されていたかも知れない。トゥールティアも、よそへ売られて所在が掴めなくなってしまうことだってあっただろう。

 自分の行動一つで、自分だけでなく周囲の誰かをも巻き込んでしまい、危険な目に遭わせてしまう。もう少し先を予測するべきだったのだ。

 それがわかっただけでも、今回の事件はいい勉強になった……と前向きにとらえておく。

「えーと……この魔法道具の使用目的は……どのページだっけ」

 トゥールティア達がスーバの山へ戻ってから、一週間が経った。

 アトレストの受付で、シェルリスは今日も宿題をしている。魔法使いになるためには実技だけでなく、魔法の理論や歴史など、覚えることはいくらでもあるのだ。

 今日の授業は半日だったため、ここでの自習時間は必然的に長くなる。

「よっ、しっかり頭にたたき込んでるか?」

 カウンター越しに声をかけられ、シェルリスは頭を上げた。

「レイザック? あれ、まだこんな明るいのに帰って来たの?」

 勉強に集中していたために思ったより時間が流れて……るはずはない、とシェルリスが窓を見る。やっぱり外はまだ昼間の明るさだ。

「さぼって帰って来たみたいな言い方、するなよな」

 シェルリスの言葉に、レイザックは少しむすっとして言い返す。

 本来なら休みなのに急な仕事が入ってずるずる延び、終わり次第帰って来る、ということはレイザックの職種では珍しくない。朝や昼間に帰ることはよくあるし、今もそのパターンというだけだ。

「じゃあ、普通にお仕事が終わって帰って来たの?」

「ああ。シェルが関わったあの事件の前後に、別の事件がちょっと続いていたからな。やっと一段落した」

「魔獣にひどいことする人って、そんなに多いの?」

「俺達が関わっているのは、魔獣売買だけじゃないぞ。他にもあれこれあるからな。まぁ、ろくな奴がいないことは確かだけど」

 レイザックのいる部署が忙しいということは、魔法使いの犯罪者がたくさんいる、ということ。

 初めはみんな、今のシェルリスのように一生懸命勉強して魔法使いになろうとしていたはずだ。崩れと呼ばれる犯罪者達は、何があってどこで足を踏み外すのだろう。勉強中のシェルリスには、想像もつかない。

 人間はなんて弱いんだろう、とレイザックは彼らを見ていつも思う。自分も何かのきっかけ一つで同じようになるのか、と一瞬不安がよぎる時もある。

「だから、レイザックみたいな人達が必要なのよね」

「……そうだな」

 深く考えてないくせに。軽く言ったであろうに。レイザックはシェルリスの言葉が妙に心に響いた。

 昔から彼女は何でもない顔をして、さらっと言う。シェルリスは絶対にわかってないだろうが、レイザックは何度か彼女の言葉で救われていた。

 ……傷付いたこともあるが。

「あのさ、シェル。明日は休みだよな。もし予定が……」

 レイザックが言いかけた時。

 入口の扉が開く気配がして、二人はそちらを見る。そこから小さな女の子が入って来た。この施設に子どもが来ることはほぼありえない。ここは魔法使いと魔獣のための場所だから。

 でも、確かに子どもだ。たたっと走って来ると、どうにか顔が覗く高さのカウンターの前まで来る。

「え、まさか……」

 三歳前後くらいの女の子。肩まである赤くふわふわな長い髪に、明るい赤の大きな瞳。これまでに会ったことのあるどの子どもより、かわいかった。

 シェルリスは彼女を見たことはない。でも、きっと知っている。

「シェール」

 少し舌足らずな口調で、女の子はシェルリスの名前を口にした。その声は、つい最近聞いたことのあるもの。

「トゥールティアなの?」

「うん」

 女の子は嬉しそうに大きく首を振ると、笑ってみせた。あの小さな小竜の子どもが、人間の姿になって現れたのだ。

「かっわいい。こんなかわいい子、初めて見たぁ」

 シェルリスはトゥールティアの姿にめろめろになっているが、横にいるレイザックはひたすら驚くばかりだ。

「もう姿を変えられるのか。あ……まさか、自分だけでここまで来た訳じゃないよな」

 トゥールティアの魔力が、人間に姿を変えられるまでに高くなった、ということになる。それなら、距離があると言ってもスーバの山からここまで来ることも……たぶん不可能じゃない。

 だが、もし親に黙って来たのなら、人間で言うところの家出と同じだ。

「さすがにそこまではさせないよ」

 言いながら現れたのは、オルフォード。その後ろから、笑みを浮かべたファルジェリーナも顔を出す。もちろん、人間の姿で。

 彼らは山へ戻る時、トゥールティアがぐずるので「また来るから」と言って娘をなだめすかしていたのだ。

「また来る、とは聞いたけど、早くないか? あ、来るなって訳じゃないけど、心身共に落ち着かないだろうし」

 その時の言葉通りにこうして親子そろって来たようだが、ちょっと早すぎるような気もする。彼らが帰ってから、まだ一週間しか経っていないのだ。

 アトレストで休んだからファルジェリーナの体調が戻ったと言っても、近くはない距離を移動するには少々慌ただしいのでは、と思える。人間とは元々持つ体力が違うとは言っても、ちょっと心配になった。

「放っておくと、本当に自分だけでここへ来てしまいそうだったからね、このおてんばさんは。一度でも来てシェルリスの顔を見れば、少しはトゥールも落ち着くかと思ったんだ」

「そうなの? もう、トゥールティアってば、かわいすぎっ」

 カウンターから出て来たシェルリスは、飛びついて来たトゥールティアをしっかり抱き締める。

「ファルジェリーナも、帰る時より顔色がよくなってるわね」

「ええ、もう本調子に戻ってるわ。早く回復しないと、この子がどこかへ走り出しても追えないもの」

 何だかんだで、女同士のおしゃべりが始まった。オルフォードはそれを穏やかな表情で見守っている。

 まぁ、話なら後でもできるか。

 レイザックとしては完全に話の腰を折られた形だが、あんなに楽しそうな顔でおしゃべりしているところを見せられたら、とても割って入れない。

 また扉が開き、今度は魔法使いと魔獣が入って来た。アトレストのお客だ。

 ……が、シェルリスが気付いている様子はない。

 やれやれ、仕方ないな。今だけだぞ。

 レイザックは、入って来た魔法使いに声をかけた。

「こちらへどうぞ。ノートに名前の記入をお願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ